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①ProCD事件の意義
(a)無体財産権の代表例として、特許出願しかつ審査を受けるなどの所定の手続を経て付与される特許権、無方式主義の下で創作をすることにより成立する著作権があり、前者は実施許諾により、後者は使用許諾により他人に権利内容を使わせることができますが、それそれにライセンス契約に際して当事者が留意するべき事柄があります。
(b)特に特許権の場合には、権利化された後に無効事由(特許出願前に公知であった先行技術など)が発見されたときにライセンシーから責任を追及されないようにしたいという要請がライセンサーにはあります。また権利対象であるソフトウェアにバグがあったときに、負わされる責任を制限したいという要請がソフト開発者にはあります。
(c)しかしながら、こうした条項を契約に組み込むことを契約の相手方が嫌がることも当然であります。
(d)無体財産権のライセンス契約では、そうした条項を含む契約書をライセンサー側が予め用意しておき、ライセンシーに提案して承諾させるということが一般的ですが、その提案の態様次第では、その約定を相手が理解していないためにトラブルに発展する可能性があります。
(e)商品の包装を破ったことにより所定の条項に関して合意が生ずることになるという契約としてシュリンクラップ契約があります。包装を破る代わりに情報のダウンロードをする操作が契約に結び付くものをクリップラップ契約といいます。
②ProCD事件の内容
(a)事件の経緯
(イ)原告は全国規模で事業展開している建設業者であり、被告は
ソフトウェア開発業者及びその正規ディーラである。原告は、被告の開発した、原価計算等・建設工事の入札を補助するソフトを、 遅くとも
1990 年から利用していた。
(ロ)93 年 7
月、原告のワシントン州Bellevue支店は、コンピュータシステムのバージョンアップ に伴い、同ソフトの新バージョンを8
部注文する注文書を被告に送った。
(ハ)本件ソフトを含め、全ての被告のソフトはライセンス条項を伴っており、その条項はソフトのディスケットの袋の外側と取扱説明書の扉に書かれ、また本件ソフトを起動するたびに現れる
最初の画面はライセンスへ言及していた。
ライセンス条項の末尾には、「このプログラムの使用
は、あなたがライセンスを読み、理解し、同意したことを示す。同意しない場合はプログラムと取
扱説明書を小売店へ返却し、支払価格が返金される」旨の、全て大文字で書かれた警告が付されていた。
また、独立の小見出しを付された段の中において、被告らの責任から拡大損害を
除外し、責任額をライセンス料の額にまで限定する責任制限条項が含まれていた。
(ニ)原告の主 張によると、SDS
の社長が到着したソフトの一部を Bellevue 支店のコンピュータにインストールし、残りは本社へ送付して、Bellevue
支店の原告の従業員は問題のライセンス条項を見なかった。
(ホ)93 年12
月、原告は同ソフトを利用してある建設工事の入札に応募しようとしたが、メッセージとともにプログラムが突如中断することが何度も起きた。原告は再起動して、結果的に得られた入札額を使って入札した。
(へ)落札後、原告はこの入札額が意図した額よりも 200 万ドル弱低いことを発見したため、明示及び黙示の品質保証の違反を主張して 被告と
SDS を訴えた。
(ト)本件にワシントン州の統一商事法典(U.C.C.)第 2 編売買が適用されるべきことについては
当事者間に争いがない。
(b)裁判所の判断
(イ)第一審はライセンス中の責任制限条項の有効性を認めて原告の拡大損害に対する賠償請求は認められないと、被告勝訴のサマリ・ジャッジメントを下した。控訴審もこれを支持した。
(ロ)上記の結論の根拠として第七巡回区連邦控訴裁判所は、保険約款等の、支払後に表示された約定に契約拘束力が生じる事例を多数挙げている。
・たとえば支払後に航空券の裏面で約定を示されて、「たとえそれが遡及的で不利な内容であっても、同航空券を利用することは約定に同意したことになる」と指摘している。
・更に、コンサートの客がチケットを買って、録音しないことに客が同意する旨が[その裏面約定に]書いてあった場合、それでもコンサートに行くことで有効な承諾になると述べている。
・そのような約束に対して全ての客が署名するようにアレンジすれば価格は上昇し、チケット購入のための長蛇の列を生み、簡易な電話による購入やネット購入も不可能になる。
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