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①管理行為の意義
(a)管理行為の態様としては、保存行為(財産の現状を維持するための行為)、利用行為(財産を有利に利用する行為)、改良行為(財産の性質を変じない範囲でその価値を増加する行為)があります。
(b)そして共有物の管理に関しては、共有者の持分の価値に従って多数決で決するのが原則ですが、保存行為に関しては、各共有者が単独で行うことができるとされています。
保存行為を含む管理行為は、処分行為に対する概念です。
②管理行為の事例の内容
[事件の表示]平成13年(ネ)第107号
[事件の種類]専用実施権設定契約解除事件
[判決の言い渡し日]平成14年11月25日
[発明の名称]斜面切取工法
[事件の経緯]
(a)甲(個人)は、昭和61年5月26日に“斜面切取工法”の発明を特許出願し、
平成6年4月25日にその設定登録を受け、
平成7年3月20日に乙に本件特許の共有持分権を乙(個人)に譲渡した。
甲及び乙は、同日に本件特許権について専用実施権をそれぞれ丙(会社)及び丙の代表取締役である丁に設定しました。
(b)甲は、平成11月1月、丙に対して専用実施権の設定契約を解除する旨の意思表示を行った。その理由は、乙が平成9年9を最後に以後の実施料を支払わなくなっていたからです。この時点での会社丙の代表者は乙に交代しています。
甲は、同時に乙に対して共有持分譲渡契約を解除する旨の意思表示を行いました。
(c)なお、乙は、甲の特許出願が乙のアイディアを冒認した出願であると主張しており、権利の帰属を巡る交渉で紆余曲折あった後に、乙への共有持分権の譲渡(持分の定めなし)並びに丙及び丁への専用実施権の設定という形で事態の収拾が図られたものです。
(d)甲は、丙が専用実施権の設定登録の抹消登録手続を行うこと、及び、乙が共有登録の抹消登録手続を行うことなどを求めて提訴しました。
原判決は、これらの請求を棄却しました。
[控訴裁判所の判断]
(a)甲が、平成10年12月8日到達の書面をもって、丙に対し、その実施料不払を理由として専用実施権設定契約を解除する旨の意思表示を単独でしたことは、上記争いのない事実(第2の1(5))のとおりである。しかし、本件特許権は、前示のとおり、甲及び乙の共有持分2分の1の共有に係る権利であって、これを目的とする専用実施権設定契約の解除が特許権者によってされる場合は、民法252条本文、264条本文にいう共有に係る権利に関する管理行為に当たるから(最高裁昭和39年2月25日第三小法廷判決・民集18巻2号329頁参照)、共有持分2分の1の共有権者である甲は、特別の事情のない限り、単独で解除権を行使することはできないというべきである。
(b)そこで、本件において、甲単独による解除権の行使を正当化する特別の事情があるかどうかを検討する。
・甲は、まず、専用実施権設定契約上、実施料を支払うべき相手は甲のみであることを前提に、特別の事情を主張するが、実施料を支払うべき相手が甲のみであるとの前提において失当である。
・次に、甲は、他方の共有者である乙が実施料の支払義務を負う専用実施権者の代表者である点を主張するが、そのような事情があるからといって、本件特許権について2分の1の共有持分権を有する乙の管理権限を無視することが正当化されるものではない。
以上のとおり、上記特別の事情に関する甲の主張はいずれも採用することができず、他にこれを根拠付けるべき事情は見当たらない。
(c)したがって、甲が主張する専用実施権設定契約の解除の効力を認めることはできないから、その有効性を前提とする甲の丙に対する専用実施権設定登録の抹消登録手続請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないというべきであり、これと結論において同旨の原判決の判断は正当である。
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