パテントに関する専門用語
  

 No:  1145   

ライセンス料CS1(特許出願の拒絶と錯誤の主張/進歩性/特許出願中

 
体系 権利内容
用語

ライセンス料のケーススタディ1(特許出願の拒絶と錯誤の主張)・着換用人形事件

意味  特許出願中の発明について独占的実施のライセンス契約が締結された後に特許要件(新規性・進歩性など)の欠如により当該特許出願の拒絶が確定した場合において、ライセンサーから錯誤による契約の無効が主張される場合があります。


内容 ①特許出願中の発明の独占的実施権の意義

 ライセンス契約において独占的通常実施権というものがあります。

“独占的”という言葉が紛らわしいのですが、これは、一般的には、独占排他権である特許権の庇護の下で第三者に対して通常実施権を許諾しないという特約(場合によっては特許権者が他人の侵害に対して直ちに対応するという特約も含む)を付けることで、結果的に独占的状態での実施が期待できるというものと理解されます。

 特許出願が許可されてから、独占的通常実施権のライセンス契約をするのが通常ですが、ライセンシーの側でビジネスチャンスを逃したくないという事情で特許出願中の発明について前述のライセンス契約をしたとします。この場合、特許出願中というだけでは独占排他権は生じていないので、第三者に対して実施許諾しないという特約が付いているだけで、“独占的”とはかけ離れた権利内容となりますが、特許出願に対して特許権の設定登録が行われるまでの一時的な状態と考えればそれほど問題にはなりません。

 しかしながら、その特許出願の拒絶査定が確定したときには、問題となります。ライセンサーとしては、事実上の独占状態を期待してわざわざ“独占”であることを契約事項に入れたのであり、“特許出願の対象が必ず特許される”と信じていたと言いたくなるところです。

 しかしながら、それが裁判において“錯誤による契約の無効”として通用するかと言えば、事は簡単ではありません。裁判官が“それは事業者として単なる見込み違いであって救済には値しない。”と判断する可能性があり、またそもそもライセンシーが“特許出願の対象が必ず特許される”と信じていたことを証明するのが難しいからです。

 そうした事例を紹介します。

②錯誤による契約無効の主張の事例の内容

[事件の表示]昭和46年(ワ)第4212号

[事件の種類]特許使用料請求事件

[判決の言い渡し日]昭和48年 1月31日

[発明の名称]着換用人形(他2件)

[事件の経緯]

(a)原告は昭和43年5月の時点で次の(イ)・(ロ)の実用新案登録出願を日本にしてするとともに、(ハ)についての特許出願をアメリカでしており、これに基づいてパリ条約優先権を主張して、日本国に対して特許出願をする予定でした。

(イ)着換用人形(実願昭42?81639)

(ロ)膨張小型玩具シート(実願昭42?86576)

(ハ)自己シール弁(米国特許出願V-1711)

(b)原告と被告とは、昭和43年5月28日に下記の技術援助契約を締結しました。

・原告は、前項(1)ないし(3)の考案および発明を具体化したビニール玩具あるいはビニール製飾り人形を組み込んだ子供向け書物の製造販売権を被告に独占的に与える。

・被告は、原告に対して、実施料として、製品価格に対する一定割合の金員及び各年当たりの最低保証額を支払う。

・原告は、本件考案及び発明に関して一切のノウハウを提供する。

(c)原告の実用新案出願及び特許出願は次の経緯を辿りました。

・(イ)に関して、昭和45年12月に拒絶理由が通知され、昭和46年3月に放棄された。

・(ロ)に関し、昭和45年8月に拒絶査定が出され、そのまま確定した。

・(ハ)に関し、特許出願(特願昭43-68346号)がなされ、審査中。

(d)原告は被告に対して実施料の支払いを求めて提訴しました。

[裁判所の判断]

(a)被告は、すくなくとも本件契約が認可され、第一年度の実施料支払期までには本件各考案・発明が登録され、独占権を有しうるものと信じて本件契約を締結したものであるところ、本件契約の対象たる考案のうち、一つは原告の出願放棄により、他は拒絶査定により、いずれも権利化されないことが確定し、また、原告主張の発明については、現在に至るもまだわが国において公告されていないから、被告には本件考案・発明が独占権をもちうると信じた点について錯誤があり、しかも、右錯誤は要素の錯誤であるから、本件契約は無効であると主張する。

(b)しかしながら、本件契約の前文には、原告が主張するとおり、

(イ) 原告が二つの考案について実用新案登録出願中であり、当時米国で特許出願中であった発明につき日本でも特許出願をする予定であり、かつ、右考案・発明につき一定のノウハウを有していること

(ロ) 被告が右考案および発明について実施権を取得することを希望していること

が記載されており、被告は、本件契約の目的である考案・発明が未だ登録・特許されていないことを充分知った上で本件契約を締結したものであることが認められる。

(c)しかして契約締結時に登録・特許になっていない考案・発明になっていない考案・発明を契約の目的とする場合、契約の相手方に独占的実施権を与えるという意味は、考案・発明等を実施することを契約の相手方にのみ認めるという趣旨に解すべきである。

(d)さらに、被告が、本件契約の対象たる本件考案・発明はかならず登録され、特許されるものであると信じていたという点についての証明はなく、かえって、証拠によれば、そうでなかったことが推認される。

(e)そうすると、本件契約の対象たる考案のうち、一つは原告の出願放棄により、他は拒絶査定により、いずれも権利化されないことが確定したことは、前認定のとおりであるが、本件契約は被告の錯誤により無効であるということはできない。被告の主張は理由がない。


留意点

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