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 パテントに関する専門用語
  

 No:  1172   

侵害対応義務条項/特許出願/特許ライセンス

 
体系 民法
用語

侵害対応義務条項のケーススタディ1

意味  侵害対応義務条項とは、特許ライセンス契約において第三者が契約の対象である特許権を侵害したときにライセンサーがライセンシーのために当該侵害を排除するべきことを定めた条項を言います。


内容 @侵害対応義務条項の意義

(a)特許出願人が新規発明を開示する代償として付与される特許権は、独占排他的権利であり、市場における発明の独占的実施により、特許出願人(特許権者)が研究開発に投資した資本を回収することを可能とする武器となります。回収方法としては、

(イ)特許権者自ら実施をすること、

(ロ)特許ライセンスの締結により他人に発明を実施させるとともに実施料を得ること

(ハ)特許権者自ら実施する他に他人にも発明を実施させること
 があります。

(b)前記(ハ)の方法に適した実施権として特許法第78条の通常実施権があります。

(c)通常実施権者は、“業として発明を実施する権利を有する(専有するではない)”だけであるので、ライセンサーの側から見ると、同一の範囲に重畳に許諾することができるとともに、特許権者自身も実施をすることができるという利点があります。

(d)他方、ライセンシーの側から見ると、通常実施権者は第三者の実施を排除できないので、無権限の第三者による実施行為(侵害行為)に対しても無防備であり、安定して事業を展開できないという問題があります。

 通常実施権の実施料は、専用実施権の実施料に比べて廉価であるので、自分と同じように実施料を支払って発明を実施する他の通常実施権者の存在は仕方がないとしても、実施料を支払わずに無権限で実施をする者(侵害者)の存在を許していては、事業活動において非常に不利になります。

(e)そこでライセンシーからランセンサーに対して侵害対応義務を要求することがあります。侵害対応義務は、ライセンサーである特許権者(又は専用実施権者)が侵害排除のために侵害者に対して警告をしたり、訴訟を提起するというものですが、実際の侵害の状況は実施に携わっているライセンシーの方がよく判っていることが少なくありません。このため、ライセンシーが訴訟手続に補助参加人として関わることができるのかが問題と成ります。そうした点が論点となった事例を紹介します。

A侵害対応義務条項の意義

A非侵害保証条項の事例の内容

[事件の表示]昭和35年(ヨ)第2667号

[事件の種類]特許権侵害・仮処分申請事件

[判決の言い渡し日]昭和39年12月26日

[発明の名称]オレフインの高分子線状ポリマーの製法

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[事件の経緯]

(a)X1及びX2は、1954年6月8日にイタリー国特許権1(特許番号第二五一八四六号)及び特許権2(特許番号第二五一八四六号)の共有者である。

(b)Y1、Y2、Y3は、X1との間で(再実施権付きの)実施許諾の契約を締結した通常実施権者であり(→再実施権付き通常実施権とは)、その契約書は次の条項を含んでいた。

 「実施権者等は、本件特許権の侵害又は侵害のおそれのあることを知つたときは、直ちに特許権者にこれを通知する。特許権者は、実質的侵害を防止するため、必要に応じ、特許権侵害に対する訴訟を提起し、誠意をもってこれを遂行する」(条項Aという)


(b)Z1はY1との間で、Z2はY2との間で、Z3はY3との間でそれぞれ再実施契約を締結しており、その契約書は次の条項を含んでいた。

 「前記の実施権契約に定めた実施権者等と特許権者との間の権利義務関係は、それぞれ再実施権者等に引き継がれる」(条項Bという)

(c)特許権者は、第三者Wが前記2件の特許権を侵害しているとして仮処分の申請をし、そして、Y1、Y2、Y3は、X1を補助するために、Z1、Z2、Z3も、X1及びX2を補助するために、参加の申請を行った。
補助参加とは(民事訴訟法上の)

(d)補助参加人の参加理由の要旨は次の通りである。

 Y1、Y2、Y3の実施許諾の契約書には、前述の条項Aがあり、またZ1、Z2、Z3の再実施許諾の契約書には条項Bがあるから、だから、特許権者である申請人等の本件仮処分申請の成否によっては、参加人等の右のような特許に関する権利または法律上の地位がおびやかされる関係に立つことは明らかである。

 このように、参加人等は、本件訴訟の結果に利害関係があるから、参加人Y1、Y2、Y3は、申請人両者X1及びX2を補助するため、また、その余の参加人等は申請人Xを補助するため、各参加申出に及ぶ。

(e)被申請人Wは、参加理由に関して次のように異議を述べました。

 許諾通常実施権者である参加人等は、本件仮処分申請に対する裁判の如何に関わらず、その権利を実施することができるし、仮に、仮処分が発せられたとしても、その結果が法律上、参加人等に帰属するいわれはないから、仮処分訴訟の結果につき法律上の利害関係はないし、実施権者である参加人等にしてすでに然るのであるから、実施権者と再実施契約を締結したにすぎない参加人等については、なおさら、補助参加の理由は存しない。

[裁判所の判断]

「思うに、許諾による通常実施権者は、設定行為で定めた範囲内において、業としてその特許発明を実施する権利を有する(特許法七八条二項)。

 しかし、この権利は債権たる性質をもち、排他性がない。すなわち、許諾者(特許権者等)に対し、当該特許権を、実施許諾契約で定めたとおり実施させるよう求める請求権(契約履行請求権)であるが、排他性はないから、特許権者等は範囲の重複する通常実施権を二人以上の者に重畳的に許諾しうるわけであり、このことは、何ら、許諾者の債務不履行を構成するものではない。したがって、許諾をうけた通常実施権者にとっては、他の許諾通常実施権者の発生は、経済的には競争者の発生として重大な利害関係があるが、法律上は利害の関係に立たないことは、いうまでもない。

 しかし、だからといって、特許権の違法侵害者の発生をも、他の許諾通常実施権者の発生と同様に、許諾通常実施権者に法律上何らの影響を与えないということはできない。けだし、実施許諾者は、通常実施権者がその特許発明を実施するのを容認する義務(不作為義務)を負うと同時に、さらに、発明の実施を実質的にも完全ならしめる意味で、第三者の違法な特許侵害を差止める義務(作為義務)をも負担するものと解するのが相当である。通常実施権者は専用実施権者とちがって、自ら侵害に対し差止請求訴訟ができないと解されるため、許諾による通常実施権者に対しては、許諾者は実施許諾契約に基づく債務として、反対の特約なき限り、右のような第三者の違法な特許侵害に対する排除義務を負担していると解するのが、契約の解釈における信義則に合致するからである。してみると、反対の特約の疎明されない本件では、申請人等の本件仮処分申請(侵害差止の申請)は、通常実施権者である補助参加人三社に対する関係では、外形上、実施許諾契約に基づく債務の履行行為と評価しうる関係にあるといえる。さらに、通常実施権者と、いわゆる、再実施権者との関係も、右と同様の理由から、通常実施権者は再実施契約に基づく債務として、反対の特約なきかぎり、前記の特許侵害排除の義務を履行するよう許諾者(特許権者等)に請求することを、いわゆる、再実施権者に対する義務として負担している関係にあるといえる。してみると、反対の特約の疎明されない本件では、申請人等の本件仮処分申請は、いわゆる、再実施権者であるその余の補助参加人三社に対する関係では、外形上は、通常実施権者が右再実施権者に対して再実施契約上負担している右義務が履行されている状態と評価しうる関係にある。そして、補助参加人等と本件仮処分申請人等との間に右のような関係がある以上、補助参加人等は本件仮処分訴訟の結果につき法律上の『利害関係』があるものと解して差支ない。よって、補助参加人第六社の補助参加申出は、いずれも、これを許可するものとした。」

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[コメント]

本件判決に対して反対の立場をとる学説もあります。過去の裁判例から、

・敗訴によって、被参加人から補助参加人が一定の請求を受ける蓋然性のある場合、

・被参加人と補助参加人を当事者とする第二の訴訟で、敗訴の判断に基づいて補助参加人の責任が分担させられる蓋然性がある場合

 でなければ、民事訴訟法の「訴訟の結果につき利害関係を有する」場合には該当しないというものです。しかしながら、最高裁判所の判決でもない限り、過去の事例に該当しないから“利害関係を有する場合”の概念から排除すると解釈する必要はないと考えます。

 侵害対応義務条項がある場合には、特許権者は、通常実施権者のために提訴しているのですから、紛争の解決手段という裁判の性質から見て、その通常実施権者が裁判手続に参加をすることは何ら不自然ではないと考えます。


留意点

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