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@判例の射程の意義
(a)最高裁の判例は、先例として拘束力を有します。
(b)しかしながら、具体的に判決文のうちのどこが拘束力を持つのでしょうか。
具体例として、平成10年のキルビー判決を取り上げます。この事例は、甲がある発明について特許出願し、分割出願を幾度も繰り返した末に取得した特許権に関して、乙に対して製品の販売禁止の仮処分の申立をし、これに対して乙が債権不存在の確認訴訟を提起したものです。乙の主張は、分割出願の要件の不具備(原出願と同一の発明について分割出願している)ので、明らかに無効理由が存するのが明白であり、こうした特許権を行使することは権利の濫用であるというものです(→キルビー判決とは)。
(c)最高裁判所は、乙の主張を認めたのですが、この場合の判決の主文は、具体的な紛争に対する裁判所の最終判断(債権の不存在を確認する)というだけであり、先例にはなりえません。
(d)判決の理由のうちの法律的な一般命題になりうる部分、すなわち“特許権が○○であるときには、当該特許権を行使することは権利の濫用となる。”が判例であり、その範囲をどうとらえるのかが判例の射程です。
A判例の射程の内容
(a)判決の理由の中には、その事件限りの説明に過ぎない部分(前述のキルビー判決で言えば、特許出願の番号など事件の背景を特定する情報)もありますが、これは先例にはなりえません。
(b)キルビー判決では、特許出願の分割の要件の欠如により、新規性が欠如していると考えられたことが、権利の濫用という結論に結びついたのですが、別に新規性を喪失した理由が特許出願の分割の要件の欠如でなくても、同程度に無効理由が存することが明らかであれば、裁判所は同じ結論を出したでしょう。
新規性の欠如ではなく、進歩性の欠如であればどうか、というと、これは人により意見は違うでしょう。
キルギー判決の場合には、特許出願人自身の先願が引用されているのであり、特許出願人の発明と無関係な先行発明が引用された場合のも同様に考えてよいのか、ということは一応検討しておく必要があります。
しかしながら、一般的には、無効理由の種類は問わないというのが本判決に対する一般的な理解のようです。
(c)このように、判決理由を一般的な法律の命題として妥当な範囲を判決の射程と言います。
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