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①除斥の意義
(a)特許法は、技術の進歩を通じて産業の発達を図る(1条)ために、審査官が特許出願の実体審査を行う審査主義(47条)を採用するとともに、審判制度(拒絶査定不服審判・特許無効審判・訂正審判)を採用しています。
これらの審判制度は、対世的効力を有する特許権の発生・消滅・変動に関わるものであるため、公正な審判官の判断により、審決に至るべきです。
そこで、特許法は、審判の公正を確保するために、特定の事件について除斥原因がある審判官を当然に職務から外す除斥制度を採用しました(139条)。
(b)審判官は、事件毎に特許庁長官が指定しますが、ある人物が
(ア)事件の関係者と特殊な関係にある場合、
(イ)事件そのものと特殊な関係にある場合は、法律上、当該事件から除斥されます。忌避のように当事者等の申当てがあってから審判の手続から除外されるのではありません。
②除斥事由の内容
除斥事由の意味合いを、工業所有権逐条解説などを参照として説明します。
(a)審判官又はその配偶者若しくは配偶者であった者が事件の当事者、参加人若しくは特許異議申立人であるとき、又はあったとき(1号)。
・「事件」とは、狭義の意味に解され、例えば特許出願に対する拒絶査定不服審判と特許無効審判とは別の事件と解釈するべきです。
・「配偶者」とは、正式に婚姻の手続きをした者であり、内縁関係や婚姻関係は含まれません。
(b)審判官が事件の当事者、参加人若しくは特許異議申立人の四親等内の血族、三親等内の姻族若しくは同居の親族であるとき、又はあったとき(2号)。
(c)審判官が事件の当事者、参加人又は特許異議申立人の後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人又は補助監督人であるとき(3号)。
(d)審判官が事件について証人又は鑑定人となったとき(4号)。
・証人や鑑定人は、実際に尋問された者に限られ、単に尋問の申し立てがあっただけでは該当しません。
(e)審判官が事件について当事者、参加人若しくは特許異議申立人の代理人であるとき、又はあったとき(5号)。
(f)審判官が事件について不服を申し立てられた査定に審査官として関与したとき(6号)。
・本号はいわゆる前審関与を禁止する規定ですが、「査定に審査官として関与」と限定的に規定されているため、例えば特許出願(又は存続期間の延長登録出願)の拒絶査定不服審判の審決が審決取消訴訟において取り消され、審判に差し戻されたときに、同じ審判官が関与することは禁止されていません。
・大正10年法では、「審判官が事件につき審査官又は審判官として査定又は審決に関与したるとき」と規定していましたが、これとは実体的に異なる内容となっています。
・こうした経緯から、本号の適用範囲は安易に拡張解釈されるべきではないと言えます。
過去の裁判例では、特許出願の拒絶査定不服審判に関わった審判官が再審の審理に関わることに関して、本号を類推適用することを求めた事例がありますが、裁判官によって退けられています(→除斥のケーススタディ1)。
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