体系 |
外国の特許法・特許制度 |
用語 |
均等論のPartial Recapture Rule(部分取り戻し理論) |
意味 |
均等論のPartial Recapture
Rule(部分取り戻し理論)とは、米国の均等論の解釈であって、特許出願の審査で示された先行技術を回避するために請求項を削除する補正をした場合に、削除した部分のうちで前記先行技術から自明でない部分に関しては、均等論により取り戻す余地があるという考え方です。
|
内容 |
@均等論のPartial Recapture Ruleの意義
(a)均等論とは、特許権の効力範囲を、特許権の請求の範囲の文言通りの範囲から拡張するという解釈手法です。
(b)特許出願の審査の段階において、要件A+B+Cからなるクレームに対して要件a0+B+Cからなる先行技術に基づいて新規性がない旨の拒絶理由が示され、これを回避するためにクレームを要件a1+B+Cに限定し、審査官がこの補正により特許性が担保されたと認めて特許査定をしたとします(但し、a0及びa1は要件Aの下位概念)。
(c)こうした場合、特許権者(特許出願人と同一人であるか否かを問わない)は、仮に前記特許出願の補正という事情がなかった場合に要件a0+B+Cの発明と要件a1+B+Cの発明とが均等であったとしても、特許クレームに均等論を適用して削除した部分を取り返すことはできません。
そうしたことはアンフェアであり、ファイル・ラッパー・エストッペル(我が国でいう包袋禁反言の原則)に反するからです(→ファイル・ラッパー・エストッペルとは)。
(d)先行技術そのものの技術(要件a0+B+C)ではなく、
・要件a0’+B+C(a0’はa0に類似する技術要素であって要件Aの下位概念)
・要件a0+b1+C(b1は要件Bの下位概念)
・要件a0+B+c1(c1は要件Cの下位概念)
のような代替技術であっても、これらが先行技術(要件a0+B+C)から容易に考えられる程度のもの(我が国でいう進歩性を欠くもの)である場合には、やはり均等論の適用は認められません。
仮にこうした補正を特許出願の審査段階でした場合でも、拒絶理由が新規性の欠如から進歩性の欠如に変わるだけであり、特許にならないのは同じことだからです。
(e)しかしながら、補正により削除された部分に関して、先行技術から自明ではない部分(例えば下図の要件a2+B+Cの発明や要件a3+B+Cの発明。但し、a2及びa3は要件Aの下位概念)に関しては、特許出願に対して特許権が付与されたのちでも、均等論を適用することで実質的に権利を回復することを認めても良いのではないか、というのが、Partial
Recapture Ruleの考え方です。
A均等論のPartial Recapture Ruleの内容
(a)Partial Recapture
Ruleは、特許出願人によるクレームの補正により、先行技術を回避するために必要な範囲を超えて権利範囲を減縮してしまった場合の救済策として用いられます。
(b)必要な範囲を超えて減縮してしまったのは特許出願人の責任だから救済策など必要ではないのではないか、という意見もあるでしょうが、そうは言えない事情があります。
第1に、特許出願の補正は新規事項の追加を認めないという事情があります。
特許出願人が出願段階で要件a0+B+Cからなる先行技術を知っていれば、“要件A(要件a0を除く)”のような記載や、“要件a2+B+Cの発明”や“要件a3+B+Cの発明”のような記載を予め明細書に入れておき、過剰な減縮部分を無くしたり、少なくするという措置がとれます。しかしながら、実際には全ての先行技術を予め把握するのは極めて困難です。
第2に、“要件A(要件a0を除く)”のような記載は、クレームの表現として認められない可能性があります。
特許出願に係る発明の技術分野にも寄りますが、“?を除く”という表現は発明の範囲が不明確であるとして認められない可能性があります。
(c)均等論の解釈手法として、かつては、特許出願人が補正した事項に関して均等論の適用を一切認めないコンプリート・バーと、そうした事柄に関しても均等論の適用の適用の余地があるというフレキシブル・バーとがありますが、今日では、後者が主流の考え方となっています。
Partial Recapture Ruleは、フレキシブル・バーに属するルールです。
(d)Partial
Recapture Ruleは、1983年にヒューズ・エアクラフト事件において導入された考え方です。 →均等論のPartial
Recapture Ruleのケーススタディ1
|
留意点 |
|