内容 |
@憲法修正第7条の意義
(a)米国の権利章典の一部であり、コモンロー(普通法)の下で行われる民事事件における陪審のトライアル(審理)を受ける権利を保障した規定です。
(b)憲法修正第7条による陪審審理を受ける権利は、アメリカの建国時にイギリスのコモンローから引き継いだものと解釈されます。
(c)イギリスの判例法には、コモンローと衡平法という2つの系統があり、イギリスの判例が全てコモンローに準拠している訳ではありません。
(d)従って在る事件に関して前述の陪審審理を受ける権利を主張するためには、当該事件で論点となった事柄が、アメリカがイギリスからコモンローを引き継いだ時点でコモンローにより審理されていた(tried
at law)イシュー又はこれに類するものであることを確認する必要があります。
(e)下級審の或る論点が陪審審理を受ける権利の対象であるか否かが最高裁判所まで争われた事件としてMarkman事件を紹介します。
A憲法修正第7条の事例の内容
[事件の表示]Markman v. Westview
Instruments, Inc., 517 U.S. 370
[事件の種類]特許侵害訴訟
[事件の経緯]
この事件は、“An inventory control and report
system”と称する発明の特許出願に対して付与されたパテントの侵害事件です。
クレーム(特許出願人が発明の保護を求めるために米国特許商標庁に提出した書面)に記載された“inventory”(在庫や財産目録など)に関して、金銭の出入りに関するもの(cash
inventory)とする見解と、金銭及び洗濯した衣類の出入りに関するものという見解とが対立しました。
陪審は、原告側の専門家証人の証言を聴いた後に、前者の見解を採用して特許権が侵害されたとする評決を出しました。裁判官はこの評決を覆して、後者の見解に基づいて特許権は侵害されていないと判断しました。
特許明細書には、金銭の出入りを記録するだけでなく、ドライクリーニングの行程で衣類の移動を追跡するシステムが記載されていたからです。
原告は、この判決を控訴し、連邦巡回裁判所は、原判決を支持しました。この事件では、クレームの解釈は、陪審イシュー(憲法修正第7条により陪審審理が保障された事柄)であるのか、それとも裁判所の専権事項であるのかが問題となっていました。
最高裁判所は、原告による上告を許可しました。
[最高裁判所の判断]
(a)憲法修正第7条の陪審によるトライアルを受ける権利は、前記憲法の修正案が採用された時点でイギリスのコモンローから引き継いだものである。
Baltimore & Carolina Line, Inc. v. Redman, 295 U.S. 654, 657.
従って当裁判所は、この問題に関して、建国(Founding)の時点で侵害訴訟がコモンロー上で審理されていたか(tried at
law)どうか、或いは、コモンロー上で審理されていた対象と訴因(cause of action)において類似していたかどうかを問う。
今日では、侵害訴訟が陪審の前で審理されることに議論の余地はない。この点に関しては、2世紀以上前から先例(predecessors)がある。
この結論により生ずる第2の問いは、特定のイシュー、すなわち、特許クレームの解釈(construction)が陪審イシューであるかどうかである。この問いに答えるためには、現在の法律プラクティスを史料(historical
sources)と比較しなければならない。
ぴったりの前例(exact
antecedent)がコモンロー中に存在しない場合には、判事又は陪審のどちらに割り当てられたのかが知られている最も初期のプラクティスと、現在のプラクティスとを比較するべきである。
そして新旧の事例のうちの最もよい類似例を探すのである。
(b)現在のクレーム解釈(construction)に対する直接の前例は前記史料に存在しない。
現在のクレーム解釈に最も近い18世紀の事例は、発明を記述した特許明細書の解釈(construction)のようである。
イギリス及び米国の裁判所の初期の特許のケースでは、陪審ではなく判事が明細書中の用語を解釈(construe)していた。
故にMarkmanの主張はこの時期のオーソリティによってサポートされていない。
その主張とは、たとえ特許の殆どの用語を解釈すること(construe)が判事の役割であるとしても、明細書中の技術用語を定義する(defining)という仕事は陪審の職分であるべきである、というものである。
このように〜(Framing)の時点でのコモンロー上のプラクティスの証拠であって、憲法修正第7条の陪審裁判の保証を特許クレームの解釈(construction)に適用することに関与(entail)するものは見当たらない。
従って当裁判所は、その意味の決定を陪審又は判事のどちらかに割り当てることを特徴づける(charactering)別の観点を見つけなければならない。
実現する先例、判事及び陪審の間の相対的な理解のスキル(interpretive
skill)、制定法のポリシーのいずれの観点からも、解釈(construction)のイシューを法廷に委ねることが有利である。かつての特許実務家であったカーティス判事は、特許訴訟の第1の問題として、特許を解釈すること(construing)は法律問題であり、法廷によって決定されるべきであると述べている。
これに対して、第2の問題である、特許の侵害があったかどうかは、陪審の決定に委ねられるべき事実問題である。
Winans v. Denmead, 15 How. 330, 338
Markmanの主張と異なり、2つの事例、
Bischoff v. Wethered, 9 Wall. 812, 及び
Tucker v.
Spalding, 13 Wall. 453
のいずれもが、19世紀において陪審が特許用語の意味に関わることを示しておらず、また前記Curtis判事のオーソリティーを減殺(undercut)するものでもない。
さらに機能的な考慮からも判事が決定する方が有利である。
判事は、トレーニング及び鍛錬(discipline)によって、陪審に比べて高度に技術的な特許を適当に解する(interpretation)ことができると考えられる。
また判事は、専門家が提案した定義が係争物に全体として適合するか否かを判断するのに的j人である。
さらに与えられた特許の取り扱いを統一させる必要性からも、解釈(construction)イシューを裁判官に委ねることが有利である。
ゆえに原判決は肯定される。
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