内容 |
①JMOL動議の意義
(a)陪審裁判では、当事者が主張する事柄が事実か否かが証拠を元に判断されます。
(b)しかしながら、事実の成否の問題以前に、法律問題として、当事者が提出する証拠が当該ケースを合理的に裏付けるに足りないと相手方の当事者が判断した場合には、相手方である当事者は、“ケースが陪審員に委ねられる前のいつでも法律問題の判決の動議(JMOL動議)を行うことができる”とされています(米国民事訴訟規則第50条(2))。
(c)JMOL動議が認められる場合とは、証拠の信憑性を考慮するまでもなく、実質的な証拠が陪審の認定を支持するに足りないと認められる場合です。
(d)ここではクレーム(裁判上の請求という意味ではなく、特許出願人により作成された発明の保護を求める範囲を記載した文章を指します)中の文言の意味を巡って、JMOL動議が許可された事例を紹介します。
②JMOL動議の事例の内容
[事件の表示]Markman v. Westview Instruments,
Inc., 517 U.S. 370
[事件の種類]特許侵害訴訟
[事件の経緯]
(a)Markmanは、ドライクリーニングに使用されるシステムとして“An inventory control and report
system”と称する発明を特許出願し、特許権を取得しました。
(b)ここで“inventory”の一般的な意味は“在庫”或いは在庫のリストです。単なる物品の在庫だけでなく財産の目録のようなものも含みます。
(c)特許出願人が作成した明細書には、
・キーボード及びデータプロセッサを用いて、ドライクリーニングの取引毎に、光学的検知器で読み取り可能なバーコードを含む取引記録を発行すること、
・クリーニングの作業員が光学的検知器を用いてクリーニングの進行状況をログインすることにより、衣類の移動を追跡できること
・全体としてのインベントリー(an inventory total)を維持すること。
・前記インベントリーに対する偽り(spurious)の追加を検知して場所を特定する(localize)すること。
などが記載されていました。
(d)Markmanは、Westview Instrument,
Inc.が自分の特許発明を侵害していると訴えました。
(e)Westviewは、自分のシステムの機能は、インボイス及び取引全般を追跡することにより、売掛け金(receivables)のインベントリーを記録することであり、衣類の現物のインベントリーを追跡するものではないから、Markmanの特許を侵害していないと主張しました。
(f)陪審は、Markman側の証人の証言を聴いて、クレーム中の“inventory”という用語を、“cash
inventory”と解釈して特許権が侵害されている旨の評決を出しました。
[裁判所の判断]
地方裁判所は、陪審による評決を退けて、JMOL動議(Motion for Judgment as a matter of
law)を許可しました。
その理由は、“inventory”という用語を、“cash inventory”及び“the
actual physical inventory of articles of
clothing”(洗濯の製品に関する物理的な実際の在庫)の双方と解釈するべきと考えたからです。
この判断は、連邦控訴巡回裁判所(CAFC)によって肯定されています。
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