内容 |
①譲渡の申出の意義
(a)特許出願人が発明の開示の代償として取得する特許権は、所定の実施行為を業として行う権利を専有することを効力の内容としており、その実施行為は、物の発明に係る特許権の場合に、その物の生産・譲渡・使用などの他に、譲渡の申出が含まれます。
(b)無体財産権である特許権といえども、物の生産や使用は、その行為が行われた場所が比較的特定し易いのに対して、譲渡の申出は、譲渡とともに、観念的であり、インターネットのウェブサイト上でも行うことができます。
(c)従って日本の裁判権が及ぶかどうかが問題になることが少なからずあります(→国際裁判管轄とは)。そうした事例の一つを紹介します。特許侵害訴訟において被告が日本に国際裁判管轄がないと主張した事例で、地方裁判所はその主張を認め、控訴裁判所はその主張を認めませんでした。
②譲渡の申出の事例
[事件番号]平成22年(ネ)第10001号、第10002号
[事件の種類]差止請求及び損害賠償請求事件
[事件の経緯]
原告Xは、「モータ」という名称の発明について日本に特許出願を行い、特許を取得した。
被告Yは、外国の法人であって、日本に主たる事務所又は営業所を有しない。
Xは、Yが日本国内で閲覧可能なウェブサイトで、被告Yの物件Aを紹介するとともに、当該物件Aの販売の申出を行っていると主張した。
Yは、日本における物件Aの譲渡の申出又はそのおそれについて証明がされていないとして、日本に国際裁判権がないと主張した。
[第一審の判断]
(イ)民事訴訟法第5条第9号の不法行為地の裁判籍の規定に依拠して、日本の国際裁判籍を肯定するためには、原則として、
Yが日本においてした行為によりXの法益について損害が生じたことの客観的事情が証明されたことを要し、かつそれで足りる。
(ロ)本件の場合、Yのウェブサイトの表示や営業部長の陳述、日本語で「営業顧問」と記載されたYの経営顧問の名刺などを考慮しても、Yが日本において、物件Aの譲渡の申出を行っていた事実を認めることはできない。
[控訴審の判断]
(イ)知財高裁は、“原判決を取り消す、本件を地裁に差し戻す。”という判決を出した。
(ロ)その理由は次の通りである。
・Yが、英語表記のウエブサイトを開設し、製品として被告物件の1つを掲載」「『Sales
Inquiry』(販売問合せ)として『Japan』(日本)を掲げ、『Sales
Headquarter』(販売本部)として、日本の拠点(東京都港区)の住所、電話、Fax番号が記載されていること、
・日本語表記のウエブサイトにおいても、物件Aを紹介するウエブページが存在し、同ページの『購買に関するお問合わせ』の項目を選択すると、物件Aの販売に係る問合せフォームを作成することが可能であること
などを総合的に評価すれば、Xが不法行為と主張する被告物件の譲渡の申出行為について、Yによる申出の発信行為又はその受領という結果が、我が国において生じたものと認めるのが相当である。
我が国における当該サイトの閲覧者は、英語表記のウエブサイトにより、少なくとも被告物件の1つについての製品の仕様内容を認識し、日本所在の販売本部の住所等を知りうるだけでなく、日本語表記のウエブサイトにおいても、物件Aの製品紹介を見て、『購買に関するお問合わせ』の項目を選択し、物件Aの販売に係る問合せフォームを作成することが可能なのであるから、これらのウエブサイトの開設自体がYによる『譲渡の申出行為』と解する余地がある。
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