[事件の概要] |
@Xは、被検物質のカリクレイン生成阻害能測定法について特許出願をして特許権を取得しました。 A本件特許発明の請求項1は次の通りです。 「動物血漿、血液凝固第XII因子活性化剤、電解質、被検物質、から成る溶液を混合反応させ、次いで該反応におけるカリクレインの生成を停止させるために、生成したカリクレイン活性には実質的に無影響で活性型血液凝固第XII因子活性のみを特異的に阻害する阻害剤をカリクレイン生成と反応時間の間に実質的に直線的な関係が成立する時間内に加え、生成したカリクレインを定量することを特徴とする被検物質のカリクレイン生成阻害能測定法。」 BYは、ある抽出液を有効成分とする医薬品に関して薬事法に基づく製造承認を受けて、当該医薬品を製造するとともに、品質規定の検定のためにカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験として本件方法を使用しています。 CXは、本件方法が特許権の技術的範囲に属すると主張して、医薬品の廃棄などを求めて訴訟を提起しました。 D原審は、本件方法が本件発明の技術的範囲に属すると判断した上で、「本件方法が上告人医薬品の製造工程に組み込まれ他の製造作業と不即不離の関係で用いられていることからすれば、実質的に物を生産する方法の発明と同視することができ」ると判断し、本件特許権は、本件発明を用いて製造された物の販売の停止を求め得る効力を有すると判断しました。 |
[裁判所の判断] |
特許権者は、自己の特許権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の差止めを請求することができるところ、特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有するから、第三者が業として特許発明を実施することは、特許権の侵害に当たる。そして、特許発明の実施とは、方法の発明にあたっては、その方法を使用する行為をいうから、特許権者は、業として特許発明の方法を使用する者に対し、その方法を使用する行為の差止めを請求することができる。これに対し、物を生産する方法の発明にあたっては、特許発明の実施とは、その方法を使用する行為の外、その方法により生産した物を使用し、譲渡し、貸し渡し、若しくは輸入し、又はその譲渡若しくは貸渡しの申出をする行為をいうから、特許権者は、業としてこれらの行為を行う者に対し、これらの行為の差止めを請求することができる。 @裁判所は、単純方法の発明の特許権は当該方法の使用に効力が及ぶのに過ぎないのに対して、物を生産する方法の発明の特許権は当該方法の使用の他に生産された物の使用・譲渡・貸渡などにも効力が及ぶと指摘した上で次の見解を述べました。 「方法の発明と物を生産する方法の発明とは、明文上判然と区別され、与えられる特許権の効力も明確に異なっているのであるから、方法の発明と物を生産する方法の発明とを同視することはできないし、方法の発明に関する特許権に物を生産する方法の発明に関する特許権と同様の効力を認めることもできない。」 A次に裁判所は上記見解を本件に次のようにあてはめました。 「当該発明がいずれの発明に該当するかは、まず、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて判定すべきものである。これを本件について見るに、本件明細書の特許請求の範囲第1項には、カリクレイン生成阻害能の測定法が記載されているのであるから、本件発明が物を生産する方法の発明ではなく、方法の発明であることは明らかである。本件方法が上告人医薬品の製造工程に組み込まれているとしても、本件発明を物を生産する方法の発明ということはできないし、本件特許権に物を生産する方法の発明と同様の効力を認める根拠も見いだし難い」 |
[コメント] |
物(最終品)の品質検定のための測定方法の発明は、その物が生産された後に適用されるのですから、理屈でいえば、「物の生産」に関係があるとしても、「物の生産」の工程の一部であるとは言えないと考えます。 |
[特記事項] |
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