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●平成18年(受)第826号


特許部分の修理/特許権の効力の用尽/特許権の効力

 [事件の概要]
@事件の概要は次の通りです。

 インクジェットプリンタ用インクタンクに関する特許を有する特許権者Xが我国及び外国で特許製品であるインクタンク(X製品という)を販売したところ、Yが使用済となった当該インクタンクを利用して内部を洗浄し、新たにインクを注入するなどの工程を経て製品化したインクタンク(Y製品という)を、我国で販売しました。X製品は、印刷の品位低下の防止、或いはプリンタの故障防止のために、構造上再充填を予定していないもので、Yはインクタンクの補充が可能となるように変形させました。

 Xは、Yに対してY製品の販売の差し止め及び廃棄を求めて訴訟を提起しました。

A特許発明の内容は次の通りです。

ア.従来この種のインクタンクは、記録ヘッドへのインク供給を良好に行うために、インクタンク内のインクの保持力を調整するため、タンク内に備えた多孔質体など(負圧発生手段)などの毛管力を利用するように構成したものがある。

イ.具体的には、インクタンクの内部を連通部付きの仕切り壁で2室に隔てて、一方を液体収納室、他方を負圧部材収納室にしている。負圧部材収納室には、インク消費に伴って外気を吸入する大気連通口及びインク供給口を設けている。使用時には液体収納室の液体から連通部・負圧部材収納室を介してインク供給口へ至り、他方、外気が大気連通口・負圧部材連通口を経て液体収納室へ入る。

ウ.しかし、従来のインクタンクを、液体収納室が負圧部材収納室の上になるようにして放置したところ液体収納室内の液体が負圧部材収納室を経由して漏れ出すことが判った。

エ.本件発明(特許第3278410号)、非使用時に液体収納室から負圧化部材収納室への不用意な流入を防止することを課題の一つとして、負圧部材収納室内に連通部に連通する第1負圧部材と第2負圧部材とを相互に圧接されるように収納し、この圧接部の界面の毛管力が第1負圧部材及び第2負圧部材の毛管力より高くし(要件H)、インクタンクの姿勢如何によらず、界面全体がインクを保持するように構成した(要件K)ものである。

オ.この構成により界面に空気の移動を妨げる障壁を形成する機能を果たさせている。

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B他方、Y製品は次のようなものです。

ア.製品化の工程は,@インクタンク本体の液体収納室の上面に,洗浄及びインク注入のための穴を開ける,Aインクタンク本体の内部を洗浄する,B本件インクタンク本体のインク供給口からインクが漏れないようにする措置を施す,C上記@の穴から,負圧発生部材収納室の負圧発生部材の圧接部の界面を超える部分までと,液体収納室全体にインクを注入する,D上記@の穴及びインク供給口に栓をする,Eラベル等を装着するものである。

CXは,使用済みのインクタンクにインクを再充てんして再使用することとした場合には,インクタンクの内部に残存して乾燥したインク等がプリンタヘッドのインク流路及びノズルの目詰まりの原因となり,印刷品位の低下やプリンタ本体の故障等を生じさせるおそれもあることなどを理由に,被上告人製品について,インクを再充てんして再使用するのではなく,1回で使い切り,新しいものと交換するものとしている。そして,X製品がこのような使い切りタイプのインクタンクであることを示すとともに,使用済み品の回収を図るため,被上告人製品の包装箱,被上告人製品が使用される被上告人製のインクジェットプリンタの使用説明書,被上告人のホームページにおいて,被上告人製品の使用者に対し,交換用インクタンクについては新品のものを装着することを推奨するとともに,使用済みインクタンクの回収活動への協力を呼び掛けている。

D原審は、下記の理由で、用尽説の適用を制限し、Xの主張を容認しました。

ア.特許製品が製品としての本来の耐用期間を経過してその効用を終えた後に再使用又は再生利用がされた場合(第1類型),又は当該特許製品につき第三者により特許製品中の特許発明の本質的部分を構成する部材の全部又は一部につき加工又は交換がされた場合(第2類型)には,特許権者は,当該特許製品に権利行使をすることが許されるものと解する。

イ.Y製品について,上記第1類型に該当するということはできない。しかし,Y製品の製品化の工程は,本件発明の本質的部分である構成要件H及び構成要件Kを充足しない状態となっている本件インクタンク本体について,その内部を洗浄して固着したインクを洗い流した上,これに構成要件Kを充足する一定量のインクを再充てんするという行為を含むものである。そして,丙会社の上記行為は,再び圧接部の界面の機能を回復させて空気の移動を妨げる障壁を形成させるものであり,被上告人製品中の本件発明の本質的部分を構成する部材の一部についての加工又は交換にほかならない。


 [裁判所の判断]
 特許権者等が我が国において譲渡した特許製品につき加工や部材の交換がされ,それにより当該特許製品と同一性を欠く特許製品が新たに製造されたものと認められるときは,特許権者は,その特許製品について,特許権を行使することが許される。そして特許製品の新たな製造に当たるかどうかについては,当該特許製品の属性,特許発明の内容,加工及び部材の交換の態様のほか,取引の実情等も総合考慮して判断するのが相当である。


 [コメント]
 特許製品の効用を終える迄での同一性を損なう加工をしたときには、特許権の効力が及ぶという判例が確定したことには意義があると考えます。製品が使い捨て用であることが同一性の判断にどう影響するのかという疑問があります。


 [特記事項]
 
 
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