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●340 US 147 「キャッシャー・カウンター」事件


進歩性審査基準/特許出願の要件/キャッシャー・カウンター

 [事件の概要]
@米国特許第2、242、408号の請求項4,5,6の有効性が争われました。

A第一審、第二審では、発明性(進歩性)を認めましたが、最高裁でその判断を覆して、特許を無効としました。

B発明の目的は、「(買い物の支払いをする際の)チェッカーの作業を単純化して低減するとともに、複数の品物を分類してチェッカーが扱い易いようにアレンジすることを可能とすること」です。


図面

 従来の技術においては、チェッカー・スタンドの前に買い物客がバスケットを持って列を作っていました。この当時はバーコードのような技術はありませんので、チェッカーは、バスケットから品物を取り出して、同じ値段の複数の品物があれば、それらの品物を一まとめにしてレジスターを使って金額を計算するという方法をとっており、処理に時間がかかりました。客を待たせないためにはチェッカー・スタンドを多数設けて、並列的に処理をすることが考えられますが、レジスターは高価であるために、事業者に多額の投資を強いることになりました。この発明のポイントの第1のポイントは、図1に示すように、カウンターを一方向に長く設け、長手方向の第1の部分15の横に第1の作業員(pusher boy)を、第2の部分の横7に第2の作業員(casher)を、第3の部分の横8に第3の作業員(person for picking up article)を配置して、それまで一人でした作業を分業させたことです。すなわち、値段が同じ商品を一まとめにしてチェックし易いようにアレンジする作業は第1の作業員が、商品を第2のポイントは、チェックした商品を拾い上げる作業は第3の作業員が行います。

 本発明の第2のポイントは、カウンター上に長手方向にスライド可能なフレーム20を設け、第1の作業員がアレンジした商品をフレームとともに、キャッシャー側へ移動できるようにしたことです。
 この発明は商業的な成功を収めました。

C発明の構成は次の通りです。

【請求項1】

 キャッシャー・カウンターと、
このカウンターの延長部分(extension)と、
延長部分の上のトップであって商品を載置するためのものと、
オープンボトム(底のない)の包囲体であって延長部分及びカウンターに対して相対的に移動して商品を延長部分及びカウンターに沿ってカウンターの位置へとスライドすることができるもの、との組み合わせ。

【請求項4】

 所定の特性(the character described)のカウンターと、

 このカウンターの上の、オープンボトムの押圧用フレームと、

 押圧用フレームのスライド動作を案内するための手段であって、カウンターの端に置かれた商品を、押圧用フレーム内に位置させて当該フレームの移動により集団で(in a group)カウンターに沿ってチェッカーの居る側へ押し出すことが可能なもの、

 とを具備するチェッカー・スタンド。

【請求項5】

 チェッカー・スタンドから離れた位置にあるポジションであってその上に商品を置いてアレンジするためのものと、

 底のない(bottomless)3つのサイドからなるフレームであって上記ポジションに配置され、その内部に上記商品を置いてアレンジするためのものと、

 フレームを上記ポジションからチェッカー・スタンドに近い別のポジションへ移動させるための手段と、を具備する、キャッシャースタンドであって、

 上記フレームにより、商品を集団でチェッカーが見てカウントしてレジをすることが容易な位置へ移動できるように構成した

 日用品のためのキャッシュ・アンド・キャリー型のキャッシャースタンド。

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【請求項6】

 チェッカー・スタンドから離れた位置にあるポジションであってその上に商品を置いてアレンジするためのものと、

 底のない(bottomless)3つのサイドからなるフレームであって上記ポジションに配置され、その内部に上記商品を置いてアレンジするためのものと、

 フレームを上記ポジションからチェッカー・スタンドに近い別のポジションへ移動させるための手段と、を具備する、キャッシャースタンドであって、

 上記フレームにより、商品を集団でチェッカーが見てカウントしてレジをすることが容易な位置へ移動できるとともに、キャッシャー・スタンドと隣接する一端でフレームを空にして、キャッシャーが当該商品を対処している間に、フレームを元の位置へ復帰して、別の顧客の商品を収容するためにすることができるようにした、

 日用品のためのキャッシュ・アンド・キャリー型のキャッシャースタンド。

D第一審、第二審の判断は次の通りです。

(イ)第一審…地方裁判所は、請求項4〜6のそれぞれの要素は公知であるが、カウンターに延長部分を設け、さらに底を有しないトレーを用いて、トレーの中身をキャッシャーの側へ押しやるというアイディアは新しいと判断しました。

(ロ)第二審…控訴裁判所は、新しい又は異なる要素を見い出せないとしながら、発明品の商業的成功を以て特許性に対する疑問が解消されたとして、第一審の結論を維持しました。


 [裁判所の判断]
@最高裁判所は、まず次の理由から下級審の判断を誤りと認定しました。

第1に、請求項4〜6には、カウンターの“延長部分”という用語は使われていない。

第2に、仮に請求項4〜6の記載から“延長部分”という概念が読み取れたとしても商人のカウンターを単に延長することには発明は存在しない。

第3に、カウンターを延長することが特許の対象となったとしても、特許が有効であるためには、カウンターを延長することと古い技術との組み合わせが新規な組み合わせでなければならない。

A裁判所は、発明特定事項の単なる寄せ集めと有用な組み合わせとに関して次の見解を示しました。

(イ)当裁判所は、組み合わせ特許に関して包括的なテストの定義を示すものではない。

(ロ)しかしながら、機械的装置の特許性の鍵は、古い技術が協働(cooperation)することである。「combination」という用語にはそれが存在し、「aggregation」という用語にはそれがない。

(ハ)古い部分又は要素の単なるaggregationでは、それらのもともとの用い方と比べて新しい又は異なる機能や働きが存在しない。

(ニ)公知の技術の結合又は集合は、何かしらの貢献をしなければならず、全体としてなんらかの意味で、それらの部分の総和を超えるものでなければならない。

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B裁判所は本件に関して次のように判断しました。

(イ)本発明のカウンターは、ストアカウンターが通常することをするに過ぎない。

・当該カウンターは、商品を便利な高さに支えている。

・3辺を有するフレームは、商品を一定の場所から他の場所へ押す又は引き寄せる。

・ガイドレールは、フレームがカウンターから脱落することを防止する。

(ロ)特許の機能は有用な知識の総和に何かを加えることである。古い要素をそれぞれの機能に変化をもたらすことなく結合する場合には、すでに知られていることに独占権を与え、技術者が用いることができる資源を減少させる。

(ハ)この発明の特許権者は、知識のストックの全体に対して何も付加するところがない。

(ニ)控訴審は、この発明品が長期間の要望に応えるものであり、商業的に成功を収めていることを重視しているが、発明なき商業的成功は特許性をもたらさない。


 [コメント]
@日本の進歩性基準には、「発明を特定するための事項の各々が機能的又は作用的に関連しておらず、発明が各事項の単なる組み合わせ(単なる寄せ集め)である場合も、他に進歩性を推認できる根拠がない限り、その発明は当業者の通常の創作能力の発揮の範囲内である。」と記載されています。

A本事例は、「単なる寄せ集め」とは何かを考える上での参考として紹介した事例であり、古い技術の単なる寄せ集め−湊合(aggregation)を、組み合わせ(combination)と区別して論じています。
 Aggregation(単なる寄せ集め)→古い技術のもともとの使われ方と比べて新しい機能や働き(new or different function or operation)を発揮しないもの
 Combination(組み合わせ)→新しい機能や働きを発揮するもの

B従って特許出願の時点で複数の技術の結びつきにより新しい機能や働きがないかという観点から発明を検討し、それがあるときにはその点を明細書に強調することが望まれます。

C但し、日本の場合には、同種の機能しか発揮しなくてもその程度に著しい相違があれば進歩性を認められる余地があります。


 [特記事項]
 
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