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●383 U.S.1-(I)「シャンク・プローのためのクランプ」事件


進歩性審査基準/特許出願の要件/クランプ

 [事件の概要]
@グラハムは、振動するプロー(鋤)及びそのマウンティング(取付部)に関して米国特許出願して1950年1月に特許第 2493811号を取得しました。次に彼は、取付部の構成を改良して、この改良発明(振動するプローのクランプ)を特許出願し、当初の請求項に拒絶理由が出されると、これらを全部放棄して新たにプローを対象とする請求項1、2に補正し、1953年2月に特許第2627798号を取得しました。

A先行特許自体も古い技術の組み合わせとして訴訟(206 F.2d 277)において進歩性が争われるのですが、これは別の話であり、本訴訟(特許権侵害訴訟)では先行特許に対する改良発明の進歩性が論じられました。

B訴訟の流れとしては、地方裁判所は侵害を認め(216.F.Supp.272)、控訴審でそれが覆され(333 F.2d 529)、本件訴訟に至りました。

C本件特許の概要は、紙面方向に垂直なH型鋼などで形成するフレーム1にマウンティング4を介して後端(図面左側)に土壌処理ツール3を付設した横向きJ字形のシャンク2の前端部を取り付け、装置全体が図面右方へ前進すると、 上記ツールが土壌を掘削するように設けた技術です。マウンテイング4は、フレームに固定された固定部(請求項では「固定部材」)11と、固定部に対して枢着され、シャンクの前端部を抱える可動部(請求項では「シャンク取付部材」)12とからなり、ツール3が土中の石に当たると、シャンクがしなりながら上側へ逃げることを可能とします。


図面

D特許された請求項の記載は次の通りです。

〔請求項1〕

(a)フレーム(frame)1と土壌処理ツール(ground working tool)3とを有し、この土壌処理ツールに、前方へ動いているときに上記フレームに対して相対的にロックするように形成したシャンク(shank)2を設けたプローにおいて、

(b)土壌処理ツールのシャンクをフレームの横部材(transverse member)に対してピボット連結して支持するマウンティング(mounting)4を備えており、

(c)マウンティングは、上記フレームの横部材(transverse member)に固定するように設け、その長手方向に延びる下面の前端部にてマウンティングを上記横部材に固定させており、その下面の側部から耳状部(ear)26,27を後方突出した固定部材(fix member)11と、

(d)固定部材の下面に常時接触する表面、及び、シャンクの上面と係合(engage)する長手方向へ延びる裏面を有する延長板部(elongated plat portion)13を備え、当該延長板部がシャンクと固定部材との間に在るシャンク取付部材(shank attaching member)12と、

(e)上記延長板部の裏面が常時シャンクの上面に当接するようにシャンクに延長板部を連結する連結手段(means for connecting)58と、

(f)シャンク及びシャンク取付部材をそれぞれの常時当接する面同士の各後部でピボット連結して、シャンクのロック動作においてシャンク取付部材のピボット回転を可能とする横断ピン(transverse pin)48と、

(g)一方端部を固定部材の前方部に着座させたコイルスプリング(coil spring)65と、

(h)シャンクの前端部とコイルスプリングの他方端部に連結して、コイルの力で延長板部の表面と固定部材の下面とを常時当接させる連係手段(means having connection)63と、
 を具備するプロー。

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〔請求項2〕

(i)フレーム(frame)1と土壌処理ツール(ground working tool)3とを有し、この土壌処理ツールに、前方へ動いているときに上記フレームに対して相対的にロックするように形成したシャンク(shank)2を設けたプローにおいて、

(j)土壌処理ツールのシャンクをフレームの横部材(transverse member)に対してピボット連結して支持するマウンティング(mounting)4を備えており、

(k)マウンティングは、上記フレームの横部材(transverse member)に固定するように設け、その長手方向に延びる下面の前端部にてマウンティングを上記横部材に固定させており、その下面の側部から耳状部(ear)26,27を後方突出した固定部材(fix member)11と、

(l)固定部材の下面に常時接触する表面、及び、シャンクの上面と係合(engage)する長手方向へ延びる裏面を有する延長板部(elongated plat portion)13を有して、この当該延長板部がシャンクと固定部材との間に在るように形成し、かつ、上記耳状部の間から上方へ延びて延長板部の後端側であって固定部材の上面より上に位置する突起(lug)を延設し、延長板部の後端部でシャンクを抱える垂下手段(depending means)23,24を設けたシャンク取付部材(shank attaching member)12と、

(m)延長板部の前端部をシャンクの前端部へ連結するとともに、上記シャンク抱持手段(垂下手段?)と協力して、シャンクの上面が延長部分の裏面に常時当接する状態を維持するボルト63と、

(n)上記突起を通って横方向へ延びるとともに固定部材の上に回転軸を有するように耳状部に支えられ、シャンク取付部材がシャンクのロック動作により回転するときに、シャンク取付部材が直ちに固定部材の面から離れるように設けたピボットピンと、

(o)一方端部を固定部材の前方部に着座させたコイルスプリング(coil spring)65と、

(p)シャンクの前端部とコイルスプリングの他方端部に連結して、コイルの力で延長板部の表面と固定部材の下面とを常時当接させる連係手段(means having connection)と、
 を具備するプロー。

Eグラハムの先行特許と本件特許との相違点は次の通りです。
(イ)本件特許のスターラップ及びシャンクのボルトコネクションの構造が先行特許に開示されていない。

(ロ)先行特許では、シャンクがヒンジプレートの上に置かれ、ヒンジプレートと(固定部材の)上板との間に挟まれていたのに対して、本件特許では、シャンクとヒンジプレートの位置が逆である。

Fヒンジプレートに対してシャンクの位置が逆である構造は、特許出願の審査において拒絶理由が通知され、放棄された請求項にも含まれていました。審査官は、それをいわゆる設計的事項(matters of design)であると判断しました。

Gグラハムは、相違点(ロ)に関して次の主張をしました。

 シャンクとヒンジプレートとの位置を逆転させることで、本件特許においては、ストレスを受けたシャンク全体がしなることを可能とした。すなわち、(シャンクの後端側に付設した)ツールが土中の異物に当たると、シャンクの後端側が押し上げられ、シャンクはヒンジプレートの後側に対してピボット回転し、ピボットとボルトコネクションとの間のシャンクが下方へ弓のように弯曲して(bow downward)ヒンジプレートから離れる。シャンクがヒンジプレートから離れる距離はわずかであるが、異物から受ける莫大な力(tremendous force)を効率的に吸収することができる。

本件特許
図面2

先行特許
図面3

 [裁判所の判断]
@最高裁判所は特許権者の主張に関して次のように述べました。

(イ)当裁判所はシャンクのしなり特性に関して先行技術と本件特許との間で違いを認めることができない。

(ロ)特許権者が主張するfree-flexingが重要な相違であれば、ヒンジの規制の下でシャンクを箱に入れる(boxing)ことなく、望みの結果が得られる筈である。

(ハ)特許権者が控訴審で初めてのfree-flexingの理論を展開したことは、303 U.S. 545の裁判例を思い出させる。当該裁判所は、そのような効果を”afterthought”と呼んだのである。

(ニ)そうした機能は、明細書には全然示唆されていない。それがこの装置の機能において決定的な要素であれば、それについての全ての記述が省略されていることは奇妙なことである。

(ホ)特許庁ではしなりに関する議論は提起されていない。

(ヘ)さらに特許権者側の証人の証言も、本件特許の構成からのしなりの利益は重要ではないことを示している。

Aさらに裁判所は本件特許発明の進歩性に関して次の見解を述べました。
(イ)先行特許の構成以外で唯一効果的なそれ(シャンク)の位置は、ヒンジプレートの下であり、そうすることで、シャンクのしなり特性を損なわないように、スターラップ又はブラケットを貫通させることができるのである。

(ロ)従って当業者は、シャンク全体が動くことでしなりが改善することを知れば、容易に特許権者と同様にシャンクとヒンジプレートの位置を変えることに想到すると考えられる。


 [コメント]
@グラハム判決は、米国特許出願の実務に影響を与える次の基準を判示した点で重要であります。

(イ)原則的判断基準→先行技術の範囲及び内容の決定、先行技術と請求項との相違点の確認、当事者のレベルの決定

(ロ)補助的判断基準→商業的成功・長期間未解決で要望されていた課題・他者の失敗への2次的考察

Aこれらの基準は、一つの事件において全て争点になった訳ではなく、同時期に起きた重要な事件の論点を拾い出してグラハム判決にまとめられたものです。

(a)グラハム判決の第1事件→先行技術と請求項との相違点の確認

グラハムの改良特許の進歩性が争われた事例であり、改良点(プレートヒンジとシャフトとの位置関係)を相違点と確認した上で進歩性を否定した。

(b)グラハム判決の第2事件(クック事件)→先行技術の範囲及び内容の決定、他者の失敗、商業的成功

 BがAに創作させた殺虫容器の発明は実用的に問題があったため、Aの創作を基礎としてBが改良発明して特許を取得したところ、商業的に成功したが、Bより少し遅れてAも同様の改良発明をして実施したので、BがAを訴え、それに対してAがBの特許の有効性を争ったという事件。

(c)グラハムの先行特許の事件→先行技術の範囲及び内容の決定、当業者のレベルの決定

 グラハムが公知の装置を基礎として発明をして特許を取得したところ、訴訟における進歩性の判断で公知の装置の範囲・内容が論点となり、さらに農業従事者にとって発明をすることが容易でなかったとしても、当業者にとって容易であるとはいえないという主張がされた事件。

zu

B本件グラハム事件では、裁判所は、先行技術との相違点に基づく効果の主張が明細書に基づかないものとして採用しませんでした。

(イ)これは、順当な判断であると思われます。

(ロ)仮に特許出願の時点で発明者が“シャフト全体がしなる”という作用を認識していたと仮定しても、それが装置の性能向上という効果を生ずるという確証もないし、そうした作用・効果がシャフトの上にヒンジプレートを位置させることのみで発揮されるのか、それとも別の条件も必要なのかということも分からないからです。

(ハ)日本の進歩性審査基準にも、“明細書に記載されてなく、かつ、明細書又は図面の記載から当業者が推論できない意見書等で主張・立証された効果は参酌すべきでない。”と記載されています。

C特別の作用効果が認められない限り、シャフトがプレートヒンジの上にあるか下にあるかという相違点は、設計的事項に過ぎないのではないかと裁判官は考えます。

(イ)そしてシャフトの有効な取付位置はヒンジプレートの上か下かのどちらかしかないので、その一方から他方へ変更することは容易であるという根拠に基づいて最終的に進歩性を否定しました。

(ロ)この考え方は、“Obvious to try”(公知かつ有限な選択肢の一つを選び出すことは阻害要因がない限り容易である)につながるものと理解されます。


 [特記事項]
 
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