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●平成10年(行ケ)第308号(審決取消請求事件/容認)


新規性/用途発明/進歩性審査基準/特許出願

 [事件の概要]
@事件の経緯は次の通りです。

(a)被告は、「形状選択転化法」と称する米国特許出願に基づく優先権について特許出願を行い、出願公告(特公昭49−034444号)となり、特許権(第770122号)を取得した。当該特許権は平成元年9月13日をもって存続期間が満了した。

(b)原告は、昭和60年12月2日に本件特許権を無効とすることに関して無効審判を請求した。被告は、平成2年2月16日に本件の特許明細書について訂正審判を請求して、請求を認められた。

(c)特許庁は、前記特許無効審判の請求が認められない旨の審決を行い、原告はこれを不服として本件訴訟を提起した。

A本件特許明細書には次の記載があります。

(a)本発明は結晶性ゼオライト性物質の存在における新規な脱ロウ方法に関する。

(b)更に詳しくは、本発明は直鎖パラフィンおよびわずかに枝分かれしたパラフィンと炭化水素供給材料中に一般的に見出だされる他の成分との混合物から前記パラフィンを選択的に転化することによって炭化水素供給原料から前記パラフィンを除去する方法に関する。

(c)本発明の新規な脱ロウ法は従来使用されてきた2種の型のアルミノシリケートの中間にあると一般に言われるゼオライト性物質を使用することに基づく。すなわち本発明の触媒はその内部孔構造の中にノルマル脂肪化合物および僅かに枝分かれした脂肪族化合物特にモノメチル置換化合物が入ることができるが、しかし少なくとも4級炭素原子に等しいか或はそれより大きい分子寸法を有する全ての化合物はこれを排除するのである。

B本件特許権の権利範囲は次の通りです。

 「直鎖炭化水素および僅かに枝分かれした炭化水素と他の異なる分子形状を有する化合物との混合物を、一般に楕円形の形状を持ち、転化条件の下で該楕円形の長軸が6Åないし9Å短軸が約5Åの有効寸法を有する孔を有し、該直鎖炭化水素および僅かに枝分かれした炭化水素がその孔構造中に入ることができ、転化されることができる結晶性ゼオライト物質であって、酸化物のモル比の形で表わして一般式

 0.9±0.2M2/nO:Al2O3:5−100SiO2:zH2O

 (式中Mは水素イオンを含む陽イオンでnは該陽イオンの原子価でありzは0ないし40の値である。)

 で示され且つ下記に示す主要な線をもつX線回折図を有する結晶性ゼオライト物質と接触させ前記混合物から直鎖炭化水素および僅かに枝分かれした炭化水素を選択的にクラッキングすることを特徴とする脱ロウ方法。

 格子面間隔d(Å)
 11.1±0.2
 10.0±0.2
 7.4±0.15
 7.1±0.15
 6.3±0.15
 6.04±0.1
 5.97±0.1
 5.56±0.1
 5.01±0.1
 4.60±0.08
 4.25±0.08
 3.85±0.07
 3.71±0.05
 3.64±0.05
 3.04±0.03
 2.99±0.02
 2.94±0.02」


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C無効審判の審決の理由は次の通りです。

 本件発明は、オランダ公開特許第6805355号公報に記載された技術(以下「引用発明」という。)と同一であり、新規性を欠くから、特許を受けることができない、

 本件発明は、引用発明及び英国特許第1,134,014号公報に記載された発明から容易に発明できたものであるから、特許法29条2項に該当し、特許を受けることができない、

 本件明細書の記載は不備である、

 とした請求人(原告)の主張をいずれも排斥し、本件特許を無効とすることはできない、とするものである。

zu

D審決取消理由は次の通りです。

(a)取消理由1(新規性の欠如)

 引用発明と本件特許発明とは、出発原料、触媒、反応条件のいずれも差異がなく、その必然の結果として同一物質が生成し、結局、反応として同一であるから、同一発明である。

 被告は、本件発明は、「脱ロウ方法」(脱ロウプロセス)の発明であり、触媒からみると、用途を脱ロウプロセスに限定した一種の用途発明である旨主張する。しかしながら、本件特許明細書(訂正後の明細書をいう)によれば、「本明細書および特許請求の範囲で使用する脱ロウとはその最も広義に使用し、石油原料から容易に固化する(ロウ)炭化水素を除去することを意味する。・・・脱ロウはクラッキングまたはハイドロクラッキング条件の下で行うことができる。」(21欄33行〜22欄3行)と記載されているのである。本件発明と引用発明とでいずれも共通の触媒とされているゼオライトZSM−5の性質からすると、引用発明のクラッキング、ハイドロクラッキングの際にも、分解除去の対象となるのは、ロウ分が主体であるはずである。なぜならば、上記触媒は、出発原料中の「直鎖炭化水素及び僅かに枝分れした炭化水素」(ロウ分)は、その内部孔構造中に入って転化されるものの、「他の異る分子形状を有する化合物」(非ロウ分)については入り得ないような構造を持っているからである。そうすると、上記触媒を用いる限り、ロウ分は転化減少するはずであり、引用発明にいうクラッキング、ハイドロクラッキングの実体が本件発明の脱ロウのそれと同一であることが明らかである。

(b)取消事由2(進歩性の欠如)

 仮に、引用発明と本件発明との間に何らかの差異があったと仮定しても、ゼオライトZSM−5を触媒とする脱ロウ方法についての特許出願当時の技術水準を参照すれば、当業者が引用発明から本件発明に到達するのは容易である。すなわち、ゼオライトZSM−5を触媒とした脱ロウが周知だったことは、当事者間に争いがないのであるから、直鎖炭化水素の分解活性を有し、かつ、選択性を具備することが引用刊行物によって公知となった特定の結晶性ゼオライト物質(ゼオライトZSM−5)を、ロウ分の除去を目的とする周知の反応に適用する程度のことは、本件特許出願当時、当業者たらずとも容易に想到し得たことである。

(c)取消事由3(記載不備)

 審決は、「本件特許請求の範囲においては、ゼオライト物質の組成式およびこのX線回折図のみによっても、使用する触媒についてどのゼオライト物質を用いるのかは充分確認できるよう特定して記載されており、これ以上の限定は本来必要がないものである。」(56頁5行〜10行)との前提で、本件発明に係るゼオライト物質が特定されるとしているが、この認定は誤っている。

 以下、取消理由1のみについて紹介します。

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E原告の主張は次の通りです。

(a)原告は、本件発明と引用発明は、出発原料、触媒、反応条件のいずれからしても差異がなく、その必然の結果として同一物質が生成し、反応として同一である旨主張するが、誤りである。

 本件発明の技術分野は、いうまでもなく、石油(精製)工業分野であり、この分野においては、クラッキング、ハイドロクラッキングと脱ロウとは全く異なるプロセスとして区分されているもので、何人も両プロセスを取り違えることはなく、また一つのプロセスが他のプロセスを包含するものとして理解されることもない。

 また、クラッキング、ハイドロクラッキングのプロセスに用いる装置と操作条件とは、実用上、脱ロウプロセスのそれらと異なっており、当業者が一方を他方と取り違えることは、これらの点からもあり得ない。

(b)引用刊行物には、ゼオライトZSM−5の触媒としての利用に関し、「クラッキング、ハイドロクラッキング、異性化、アルキル化等の如き炭化水素の触媒転化に有用」との記載があり、さらにn−ヘキサンのクラッキング活性の記載があることは事実である。しかし、これらの記載は、脱ロウを意味するものではない。

 反応としてとらえた場合、脱ロウは、原料油の主要成分を反応させず、少量成分であるロウ分だけを選択的に反応させることを要し、原料油をできるだけ変化させずにその流動点を低下させるものである。一方、クラッキング(接触分解)、ハイドロクラッキング(水素化分解)は、原料油の分子量を本質的に減少させる(したがって沸点の低いものに転化させる)ものであり、同じ分子量範囲(沸点範囲)の製品油について原料油と対比すると流動点の低下は認められず、転化率も、理想的には100%(一般には60〜95%程度)であり、脱ロウにおける少量成分の反応(転化率は5〜30%程度)とは明瞭に異なるものである。引用刊行物には、原料成分をできるだけ高い反応率で転化させるプロセスが記載されているだけであり、主要成分を反応させないことを不可欠とする例については開示も示唆もない。一部少量成分の化学反応だけを取り出してその反応式が同じだったとしても、それは発明全体の同一を意味するものではない。

(c)本件発明は、「脱ロウ方法」、すなわち、脱ロウプロセスの発明であり、触媒からみると、用途を脱ロウプロセスに限定した一種の用途発明である。そして、本件発明は、公知の触媒(ゼオライトZSM−5)を接触脱ロウプロセス(その際の出発原料及び反応条件は公知の接触脱ロウプロセスにおいて公知のもの)を利用することにより、公知の接触脱ロウプロセスでは達成できなかった顕著な効果(高い得率と経済性をもって脱ロウ油を得る)が得られることを見出したものである。用途発明における発明の異同は、用途が区別できれば十分であり、用途に付随する要件(出発原料、反応条件)は、本来、特許請求の範囲に記載しなくともよいものである。

 石油精製工業分野における異性化、アルキル化、クラッキング、ハイドロクラッキングは、マクロ的にみた原料や温度範囲、圧力範囲は重複して記載される場合が多いものの、現実には、それぞれ別のプロセスとして扱われており、解釈上も、特許請求の範囲の末尾が「異性化方法」とか「クラッキング方法」と記載されていれば、原料や処理条件の記載が重複していても、そそれぞれ別個独立の特許発明と理解されているのである。本件発明の特許請求の範囲の末尾において、「脱ロウ方法」(脱ロウプロセス)と表現したのは、本件発明が石油精製工業において上記プロセスのいずれとも異なる独立したプロセスである脱ロウプロセスを対象とし、それ以外のプロセスを対象としていないことを明らかにするためであり、当業者であればこの点を誤解する者はいない。見方を変えると、本件発明は、脱ロウ触媒に特徴をもつ用途発明に相当する。用途発明の実施において当業者がその用途を取り違えるおそれがない場合は当然異なる用途発明として位置づけられる。

 [裁判所の判断]
@裁判所は、本件特許発明と引用発明の相違点の有無に関して次のように判断しました。

(a)出発原料に関して

 本件発明の出発原料は、「直鎖炭化水素および僅かに枝分かれした炭化水素と他の異なる分子形状を有する化合物の混合物」であり、本件特許明細書の発明の詳細な説明をみると、いずれも炭化水素であることは明らかである。

 引用発明の出発原料は、単に「炭化水素」であり、そこには何らの限定もない。

 以上のとおりであるから、本件発明の出発原料と引用発明のそれとは、同一である。

(b)反応に関して

(イ)本件発明と引用発明とが、炭化水素をクラッキングするという点で共通していることは、明らかである。

(ロ)本件発明では、「直鎖炭化水素および僅かに枝分かれした炭化水素を選択的にクラッキングする」とされているので、引用発明との対比において、その技術的意義について検討する。本件発明及び引用発明において触媒とされているゼオライトZSM−5は、前記(5)認定のとおり、本件発明の特許請求の範囲にいう「一般に楕円形の形状を持ち、転化条件の下で該楕円形の長軸が6Åないし9Å短軸が約5Åの有効寸法を有する孔を有し、該直鎖炭化水素および僅かに枝分かれした炭化水素がその孔構造中に入ることができ、転化されることができる結晶性ゼオライト物質」であることが明らかであるから、本件発明の出発原料である典型的な炭化水素原料、すなわち、石油留分をゼオライトZSM−5によって転化反応を実施しようとした場合、ゼオライトZSM−5の性質により、「該直鎖炭化水素および僅かに枝分かれした炭化水素がその孔構造中に入ることができ」ることになり、「該直鎖炭化水素および僅かに枝分かれした炭化水素」のみに対して転化反応が行われる。

 次に、一般的な炭化水素を出発原料としている引用発明において、ゼオライトZSM−5によって転化反応を実施しようとした場合、「該直鎖炭化水素および僅かに枝分かれした炭化水素がその孔構造中に入ることができ」ることになる点において、本件発明の場合と同様であるから、「該直鎖炭化水素および僅かに枝分かれした炭化水素」のみに対して転化反応が行われることになる。要するに、ゼオライトZSM−5を触媒としてクラッキング(分解)を行う限り、必然的に、直鎖炭化水素及びわずかに枝分かれした炭化水素についての選択的なクラッキング(分解)による転化が行われることになってしまうのである。

 本件発明の「直鎖炭化水素および僅かに枝分かれした炭化水素と他の異なる分子形状を有する化合物との混合物」(典型的な炭化水素原料)であろうが、引用発明の一般的な炭化水素であろうが、ゼオライトZSM−5を触媒としてクラッキングを行う限り、必然的に、「該直鎖炭化水素および僅かに枝分かれした炭化水素」のみに対して選択的なクラッキングが行われ、転化反応が行われることになるから、結局、本件発明の「直鎖炭化水素および僅かに枝分かれした炭化水素を選択的にクラッキングする」とされている点でも、本件発明と引用発明との間には、差異がないものといわざるを得ない。

(c)以上によれば、本件発明と引用発明とは、出発原料、触媒及び反応のいずれについても同一であるということができる。

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A裁判所は、本件特許明細書中の「脱ロウ」という用語について次のように解釈しました。

(a)「脱ロウ」が、通常の用語例に従えば、ロウ分を除去するということを意味する語であることは、明らかであり、その定義として必ずしも決まったものがあるとは認められないものの、「物質や物体から蝋を除去すること。石油から個体炭化水素を分離するのに用いられる工程。」といった意味で使用されていることは、当裁判所に顕著である。したがって、「脱ロウ」は、通常の用語例に従う限り、原料油中のロウ分のみを選択的に除去、すなわち、「除き去る」あるいは「取り去る」というものであり、その手段を問わないものであるということができる。

(b)引用発明は、炭化水素原料を出発原料とし、ゼオライトZSM−5を触媒としてロウ分を選択的にクラッキング(分解)する技術であるから、ロウ分を「除去」していない、すなわち、除き去っても取り去ってもいないのであり、したがって、引用発明が、通常の用語例でいう「脱ロウ」を行うものではないことは明らかである。

(c)しかしながら、「脱ロウ」の語に決まった定義があると認めることができないことは、上述のとおりであるから、本件発明にいう「脱ロウ方法」の意味は、本件特許明細書の記載に基づいて、具体的に明らかにされなければならない。

(d)本件明細書の発明の詳細な説明中には、

「本発明は結晶性ゼオライト性物質の存在における新規な脱ロウ法に関する。更に詳しくは本発明は直鎖パラフィンおよびわずかに枝分れしたパラフィンと炭化水素供給原料中に一般に見出される他の成分との混合物から前記パラフィンを選択的に転化することによって炭化水素供給原料から前記パラフィンを除去する方法に関する。」
 「先に述べたように本発明の新規な方法は炭化水素供給原料の脱ロウに関する。本明細書および特許請求の範囲で使用する脱ロウとはその最も広義に使用し、石油原料から容易に固化する(ロウ)炭化水素を除去することを意味する。更に特定の例で説明するように処理することができる炭化水素供給原料には潤滑油並に凝固点または流動点問題を有する原料すなわち約176℃(350゚F)以上で沸騰する石油原料が含まれる。脱ロウはクラッキングまたはハイドロクラッキング条件の下で行うことができる。」

 などの記載があることが認められる。

(e)そして、本件明細書の全記載を検討しても、本件発明において、ロウ分を原料油中から除き去ったり、あるいは、取り去ったりすることについて記載したものは、見出すことができない。

(f)本件明細書の上記記載によれば、本件発明は、従来の接触転化操作において使用されていた約5Åの孔の寸法を有するゼオライト性物質よりやや大きめの孔を有するゼオライトZSM−5を使用して接触転化操作を行うものであり、ゼオライトZSM−5が、直鎖炭化水素だけでなく、「僅かに枝分かれした炭化水素」に対しても選択的にクラッキング(分解)して転化する作用に着目し、この直鎖炭化水素及び「僅かに枝分かれした炭化水素」、すなわち、ロウ分を分解して消滅させるという通常の用語例にいう「脱ロウ」と類似した作用をしていることから、これを一方で「選択的にクラッキング」といい、他方で「新規な脱ロウ法」と称しているものと認められ、ここにいう「脱ロウ」とは、原料油中からロウ分を選択的にクラッキング(分解)して転化し、分子量の低い(流動点の低い)生成物に変えることを意味するものである。そうすると、本件発明にいう「脱ロウ」も、引用発明と同様に、ロウ分を「除去」していない、すなわち、除き去っても取り去ってもいないものであるから、通常の用語例にいう「脱ロウ」ではないというべきである。

(g)そうすると、本件発明の特許請求の範囲に「脱ロウ方法」との記載があるからといって、これを根拠に、本件発明と引用発明との間に相違するところがあるとすることができないことは、明らかというべきである。

(h)要するに、本件発明は、特許請求の範囲に「脱ロウ方法」と記載されているとしても、ゼオライトZSM−5によりロウ分を選択的にクラッキング(分解)して転化し、分子量の低い(流動点の低い)生成物に変えるというプロセスについて、これがロウ分を分解して消滅させて別の生成物に変えるということを認識したうえ、この点に着目し、目的、効果の面から「脱ロウ方法」と称しているにすぎないのであり、本件発明と引用発明とは、この点に関し、その実体において、何ら変わるところはないという以外にないのである。

B裁判所は、「脱ロウ」に関する被告の主張に関して次のように判断しました。

(a)被告は、本件発明の特許請求の範囲の末尾において、「脱ロウ法(プロセス)」と表現したのは、本件発明が石油精製工業において独立したプロセスである脱ロウプロセスを対象とし、それ以外のプロセスを対象としていないことを明らかにするためであるとし、「選択的にクラッキング」とは接触脱ロウプロセスを意味し、石油(精製)工業分野において、クラッキング、ハイドロクラッキングと脱ロウとは全く異なるプロセスとして区分されている旨主張する。

(b)しかしながら、前記認定のとおり、本件発明における「脱ロウ」は、原料油中からロウ分を選択的にクラッキング(分解)して転化し、分子量の低い(流動点の低い)生成物に変えるというプロセスについて、これがロウ分を分解して消滅させて別の生成物に変えるという点に着目し、目的、効果の面から「脱ロウ法」と名付けたにすぎないのであるから、本件発明が石油精製工業において独立したプロセスである脱ロウプロセスを対象とするという被告の主張は、「脱ロウ」に対して特許請求の範囲や明細書の記載にない別異の意味を持たせようとするものであって、失当であることは明らかである。

(c)被告は、何人も両プロセスを取り違えることはないとか、クラッキング、ハイドロクラッキングのプロセスに用いる装置と操作条件とは、実用上、脱ロウプロセスのそれらと異なっているとか主張するが、失当であることは、上記と同様である。

B裁判所は、用途発明に関する被告の主張に関して次のように判断しました。

(a)被告は、本件発明は、「脱ロウ方法」、すなわち、脱ロウプロセスの発明であり、触媒からみると、用途を脱ロウプロセスに限定した一種の用途発明である旨主張する。

(b)講学上、「用途発明」とは、物の有するある一面の性質に着目し、その性質に基づいた特定の用途でそれまで知られていなかったものに専ら利用する発明をいうものとされ、物が周知あるいは公知であっても、用途が新規性を有する場合には、特許性の認められる場合があることを示すためにされている用語である。

(c)しかしながら、上記認定のとおり、本件発明は、ゼオライトZSM−5を使用してクラッキングを行うプロセスが、原料油中のロウ分を消して別の生成物に変えるという点に着目し、ロウ分を含まない目的物質を得るという目的、効果の面からこれを「脱ロウ法」と称しているにすぎず、本件発明と引用発明とは、出発原料、反応、触媒を同じく、その結果、得られる目的物質も同じくしているのであるから、そこには何らの新規な用途の追加ともみることができないものであって、特許性の認定と結び付けられる上記の意味での用途発明となり得ないことは明らかである。


 [コメント]
@本事例において、裁判所は、

(イ)「用途発明」とは、物の有するある一面の性質に着目し、その性質に基づいた特定の用途でそれまで知られていなかったものに専ら利用する発明をいうものとされる、

(ロ)物が周知あるいは公知であっても、用途が新規性を有する場合には、特許性の認められる場合があることを示すためにされている用語である、

 と説諭しています。こうした考え方は、進歩性の審査の基準でも採用されています。

A従って、「新規な用途」が請求の範囲の記載から客観的に求められなければなりません。本件では、権利者側は、「脱ロウ」という用語を用いて、引用発明との差別化を図っていますが、結局は、ロウ成分を取り除くという通常の意味ではなく、発明の実体としては、引用発明と変わらないため、用途発明の主張を認めるには足りません。


 [特記事項]
進歩性審査基準に引用された事例
 
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