[事件の概要] |
@事件の経緯 原告は、発明の名称を「オーバーヘッドホイスト搬送車」とする発明について、平成23年10月21日を出願日とする特許出願(特願2011−231707号。)をしたが、平成25年1月10日付けで拒絶査定を受けたため、同年4月19日付けで、拒絶査定に対する不服の審判を請求した。 前記特許出願は、2002年10月11日の米国特許出願に基づくパリ条約による優先権主張を主張して、2003年3月20日に行われたPCT出願の日本分(国際特許出願・特願2004−515615号)を原々出願として、平成23年5月23日に分割出願した特願2011−115010号を原出願とする分割出願である(以下「本件出願」という)。 特許庁は、上記請求を不服2013−7295号事件として審理した結果、平成26年5月2日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本を、同月19日、原告に送達したため、原告は審決取消訴訟を提起した。 A本件特許出願の請求の範囲(請求項1以外は省略) オーバーヘッドホイストを搭載したオーバーヘッドホイスト搬送車であって、前記オーバーヘッドホイストは、移動ステージ及びこの移動ステージの下方に取り付けられカセットポッドを把持するホイスト把持部を有し、 前記オーバーヘッドホイスト搬送車は、所定経路を画定する懸架軌道に沿って吊り下げられて移動し、且つ、前記オーバーヘッドホイストを前記懸架軌道よりも下方位置に搭載し、 前記移動ステージは、前記ホイスト把持部に把持されたカセットポッドがオーバーヘッドホイスト搬送車内に位置する第1の位置と、前記ホイスト把持部に把持されたカセットポッドの全部がオーバーヘッドホイスト搬送車の外に位置する第2の位置との間で、前記ホイスト把持部を水平方向に移動させ、 前記ホイスト把持部は、前記第1の位置から前記オーバーヘッドホイスト搬送車の直下に下降してカセットポッドを取り上げ又は配置し、且つ、前記第2の位置へ移動した後に第2の位置からその直下の前記第1の位置からの下降位置とは異なる高さの位置に下降してカセットポッドを取り上げ又は配置するオーバーヘッドホイスト搬送車」 [本件特許発明] [引用発明2] 833:移動ステージ 835:ホイストグリッパー B本件特許出願に対する審決の内容 審決の理由は、別紙審決書写しに記載のとおりである。その要旨は、本件発明は、特開平10−45213号公報(以下「刊行物2」という。)記載の発明及び国際公開第2002/035583号(以下「刊行物1」という。)に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許出願は拒絶されるべきである、というものである。 C本件特許出願の先行技術の内容 (a)刊行物2発明の内容 「昇降部3cを搭載した走行部3aであって、 前記昇降部3cは、物品Bを把持する把持具3dを有し、 前記走行部3aは、走行経路を画定する案内レール1に沿って吊り下げられて移動し、且つ、前記昇降部3cを前記案内レール1よりも下方位置に搭載し、 前記把持具3dは、前記走行部3aの直下に下降して物品Bを移載し、且つ、その直下の下降位置とは異なる高さの位置に下降して物品Bを移載する走行部3a」 (b)刊行物1発明の内容 「下方にグリッパが取り付けられた伸長可能アームを有し、前記伸長可能アームは、前記グリッパに把持されたウェハキャリアがキャリア搬送車内に位置する一方の位置と、前記グリッパに把持されたウェハキャリアの全部がキャリア搬送車の外に位置する他方の位置との間で、前記グリッパを水平方向に移動させ、前記グリッパは、前記一方の位置及び他方の位置から異なる高さの位置に下降してウェハキャリアを取り上げ又は配置することができる構造」 D本件特許出願の発明と引用発明(刊行物2発明)との一致点・相違点の認定 (2) 本件発明と刊行物2発明との一致点 「オーバーヘッドホイストを搭載したオーバーヘッドホイスト搬送車であって、 前記オーバーヘッドホイストは、被移載物品を把持するホイスト把持部を有し、 前記オーバーヘッドホイスト搬送車は、所定経路を画定する懸架軌道に沿って吊り下げられて移動し、且つ、前記オーバーヘッドホイストを前記懸架軌道よりも下方位置に搭載し、 前記ホイスト把持部は、前記オーバーヘッドホイスト搬送車の直下に下降して被移載物品を取り上げ又は配置し、且つ、その直下の下降位置とは異なる高さの位置に下降して被移載物品を取り上げ又は配置するオーバーヘッドホイスト搬送車」 (3) 本件発明と刊行物2発明との相違点 (相違点1) 「本件発明では、「下方にホイスト把持部が取り付けられた移動ステージを有し、前記移動ステージは、前記ホイスト把持部に把持されたカセットポッドがオーバーヘッドホイスト搬送車内に位置する第1の位置と、前記ホイスト把持部に把持されたカセットポッドの全部がオーバーヘッドホイスト搬送車の外に位置する第2の位置との間で、前記ホイスト把持部を水平方向に移動させ、前記ホイスト把持部は、前記第1の位置及び第2の位置から異なる高さの位置に下降してカセットポッドを取り上げ又は配置する」ように構成しているのに対し、刊行物2発明では、移動ステージを有していない点。」 (相違点2) 「本件発明では、被移載物品が「カセットポッド」であるのに対し、刊行物2発明では、被移載物品について特に限定していない点。」 E原告(特許出願人)の主張する取消事由 (1) 刊行物2発明の認定の誤りについて 審決は、刊行物2の段落【0019】、【0020】、【0022】を引用して刊行物2発明を認定した。しかし、刊行物2の段落【0021】の記載によれば、刊行物2発明においては、@物品載置台11は、水平揺動自在の移動棚であり、Aこの物品載置台11が、移動体3の走行経路に進出する状態と、走行経路の側脇に引退する状態とに切り換えられ、物品載置台11は、通常、走行経路の側脇に引退する状態に維持し、移動体3の昇降部3cの昇降を許容してステーションSTに対する物品移載を許容するものである。これらの事項は、本件発明と対比するに当たって重要な構成であり、審決がこれらの事項を刊行物2発明の内容として認定しなかったのは、誤りである。 (以下省略) 2 取消事由2(刊行物1事項の認定の誤り及びこれに基づく相違点1の容易想到性の判断の誤り) (1) 刊行物1事項に関する認定の誤り ア グリッパの昇降動作について 審決は、刊行物1事項について、刊行物1に記載された伸長可能アームは、「摘記事項オの記載からみて・・上記一方の位置でも、グリッパを上昇及び下降させてウェハキャリアを持ち上げ及び載せている」旨を認定した。 (ア) しかし、まず、審決が認定の根拠とした摘記事項オは、「他方の位置(キャリア移載車外の位置)」におけるグリッパ(ウィンチ及びロープ)の昇降動作を示したものであり、上記「一方の位置」(キャリア移載車内の位置)におけるグリッパの昇降動作を説明したものではない。次に、刊行物1のFIG1bには、審決のいう「他方の位置」(キャリア移載車外の位置)にグリッパの昇降動作が上下方向の矢印で表示されているのに対し、「一方の位置」(キャリア移載車内の位置)に対応するFIG1aには、グリッパの昇降動作を示す上下方向の矢印は表示されていない。さらに、刊行物1には、グリッパ(ウィンチ及びロープ)がキャリア移載車21内の位置(一方の位置)で上昇及び下降する旨の記載は存在しない。 したがって、刊行物1事項の「一方の位置」ではグリッパは上昇及び下降するものではなく、審決の認定は誤りである。 (中略) (2) 相違点1についての審決の判断方法及び個別の判断に関する誤り 審決は、相違点1の相違点が一つに過ぎないかのように認定した上で、この相違点について刊行物1事項を刊行物2発明とを組み合わせることにより、本件発明に容易に想到するかのように判断した。しかし、相違点1は、以下のとおり具体的には二つの相違点を含むものであり、審決は、それぞれの相違部分について個別に検討することなく容易想到性を判断したから、その判断方法には誤りがある。 また、審決は、二つの相違点について、以下のとおり判断を誤ったから、その点からも審決の判断は誤りである。 (中略) (3) 刊行物2発明への刊行物1事項の適用困難性について ア 審決は、「刊行物2発明における、把持具3dが下降し、移動体3の走行経路に進出した物品載置台11に載置された物品Bへ到達して物品Bを取り出すことができるようになっていることに代えて、物品載置台11が移動体3の横幅方向に固定された構造のものであれば、当然ながら横幅方向へ移動可能な保持部用移載手段を採用することは容易に想到することができ、また、垂直方向移動と横幅方向移動を兼ね備えたものも容易に想到し得る」旨判断した。 (ア) しかし、いきなり「物品載置台11」を「移動体3の横幅方向に固定された構造に代える」ことを想定することは、「後知恵」によるものというほかない。 (イ) また、刊行物2においては、物品を垂直(昇降)移動させるとともに水平移動させる必要がある垂直移動タイプの設備(刊行物2発明である図1の第1実施形態や、図16等の実施形態。物品の昇降移動のためにホイスト機能が必要な形式)と、物品を水平移動のみすればよい水平移動タイプの設備(図12のその他の実施形態。物品を昇降動作させるホイスト機能が不要な形式)とが記載されているが、これらはその前提構造が全く異なっており、明確に区別されて記載されている(知財高判平成26年9月25日・平成25年(行ケ)第10272号も同旨)。したがって、このように前提構造の異なる二つのタイプの実施形態の発明について、同じ文献中に記載されていることのみをもって、直ちに両タイプに固有の構造部分を組み合わせることが容易であるということはできず、垂直移動タイプである刊行物2発明において、当業者が、水平移動タイプの屈曲アーム20bのような横方向へ移動可能な保持部移載手段を設けようと試みることはない。 F被告(特許庁)の反論 刊行物2発明のように物品載置台11の物品載置部分側を横幅方向に移動させる構造の物品移載手段BMではなく、反対に移動体3の把持具3d側を物品載置台11の真上に位置するよう横幅方向に移動させる構造の物品移載手段とした場合には、物品載置台11の横幅方向の移動機能が不要になるため、横幅方向に固定された構造の物品載置台にできることも、当業者には自明の事項にすぎない。したがって、「物品載置台11を移動体の横幅方向に固定された構造に代える」ことは、当業者が容易に想到する事項である。 刊行物2には、実施形態は複数示されており、それぞれが異なった構造を有しているが、それらはいずれも刊行物2の特許請求の範囲に記載された発明に含まれるいくつかの実施態様であって、別発明として区別されるようなものではない。例えば、刊行物2の段落【0012】には、物品を移動体横幅方向へ移動させて前記物品の移載を行うように構成された物品移載手段を有する刊行物2の請求項11に係る発明について、「移動体の物品移載手段は、物品を移動体横幅方向へ移動させて物品の移載を行うので、物品収容能力を大きくするために物品保持部を、収納スペースの確保が容易な、案内レールに対する移動体横幅方向の位置に設けた場合に、物品を昇降移動させて移載する形式では、物品保持部に保持する物品を移動体横幅方向に移動させるための補助的な手段が必要となる場合があるのに対して、そのような補助的な手段を必要としない」と記載されているところ、同記載は、刊行物2の図1に示された移動体3(刊行物2発明)に、物品を移動体横幅方向へ移動させる当該物品移載手段を備えさせて、請求項11に係る発明のように構成すれば、「物品を昇降移動させて移載する形式(図1の実施形態1)では、物品保持部(物品載置台11)に保持する物品を移動体横幅方向に移動させるための補助的な手段(リンク機構10)が必要となるのに対して、そのような補助的な手段を必要としない」簡素な構成とすることができるという効果も述べているのであって、個別の実施形態によって奏する効果が区別されるものではない。このように、刊行物2には、刊行物2発明において、移動体3の把持具3d側を物品載置台11の物品載置部分の真上に位置するよう横幅方向に移動させることの示唆がある。 |
[裁判所の判断] |
裁判所は取消事由2に関して次の判断を示して、審決を取り消しました。 (1) 刊行物2発明に、把持具を水平方向に移動する構成を適用することについて審決は、刊行物2発明の昇降部3cについて、刊行物1事項の構造を適用し、把持具3dと共に水平方向に移動させる構造(本件発明の移動ステージに相当する構成)とすることは、当業者が容易に想到し得ると判断したものである。 ア しかし、前記1(2)ア及びイのとおり、刊行物2記載の発明は、物品保持部を、搬送用空間に配置することで、搬送用空間以外の「別の空間」における物品保持スペースを可及的に低減させることを可能とするだけではなく、移動体と物品保持部との間及び移動体とステーション(加工装置)との間の物品の各移載手段をいずれも移動体側に備え、さらに、これら双方の移載手段を単一の物品移載手段で兼用することにより、設備全体として一層の構成の簡素化を図ることができるとするものである。 そして、第1実施形態(刊行物2発明)は、移動体と物品保持部との間及び移動体とステーションとの間の物品の移載手段を兼用する単一の物品移載手段BMを、物品を「昇降移動」させて移載を行う構成とし、移動体3と加工装置5との間の物品の移載は、加工装置5(ステーション)を床面に設置して、物品移載手段BMで物品Bを移動体3の直下の加工装置5の物品受入れ部5a 及び物品払出し部5bに昇降移動させることにより行うとともに、移動体3と物品載置台11との間の物品の移載は、加工装置5との間の物品の移載の際には移動体3の走行経路の側脇に引退している状態にある物品載置台11を移動体3の直下に揺動移動させて、物品移載手段BMで物品Bを移動体3の直下の物品載置台11に昇降移動させることにより行うというものである。 なお、刊行物2には、第1実施形態以外に複数の実施例が記載されているが、いずれも、移動体と物品保持部との間及び移動体とステーション(加工装置)との間の物品の各移載手段をいずれも移動体側に備え、これら双方の移載手段を単一の物品移載手段で兼用するものである。上記実施例のうち、物品移載手段が物品を移動体横幅方向に移動させて移載を行う構成とする実施例(段落【0035】、図12、13。図12、13は、別紙のとおり)においては、物品Bを保持して移動体3が走行する案内レール1の一方の脇(移動体横幅方向の位置)にステーションSTが、ステーションSTの設置個所を除く案内レール1の両脇(移動体横幅方向の位置)に物品保持部BSが配置され、移動体とステーションSTとの間での移載及び移動体と物品保持部BSとの間での移載を、昇降動作(物品Bの上下方向への移動)ではなく、物品Bの移動体3の横幅方向への移動により行う実施形態も記載されているが、双方の移載手段を単一の物品移載手段で兼用するという点では、第1実施形態(刊行物2発明)と共通である。 イ 以上によれば、刊行物2発明は、移動体と物品保持部との間及び移動体とステーション(加工装置)との間の物品の各移載手段を、単一の昇降移動手段で兼用し、構成の簡素化を図ることをその技術的意義とするものである。一方、相違点1に係る本件発明の構成は、オーバーヘッド搬送車からその真下に位置する処理加工治具ロードポートへは、オーバーヘッド搬送車の移動ステージ下方に取り付けられて物品を把持するホイスト把持部が下降して、物品を移送するが、オーバーヘッド搬送車の側方に配置される固定棚へは、ホイスト把持部が移動ステージによって固定棚の上方へ水平方向に移動させられてから下降して、物品を移送するものであり、移動体側に物品の昇降移動と横幅移動の双方の手段を兼ね備え、ロードポートと固定棚への物品移載手段を互いに異なる動作で行うものであり、単一の昇降移動手段で兼用しているものではない。 そうすると、刊行物2発明において、把持具が昇降移動する構成に加えて、水平方向に移動する構成を適用し、物品載置台及び加工装置へ異なる移動手段で物品を移載するという相違点1に係る構成とすることは、刊行物2発明の技術的意義を失わせることになる。そして、そもそも刊行物2発明においては、物品載置台11が揺動移動する構成となっており、移動体3の直下に位置することが可能であるため、物品移載手段BMの把持具3dは昇降移動のみで物品載置台11との間の物品の移載が可能となるにもかかわらず、あえて把持具3dを水平方向に移動させる構成を追加する必要性がなく、そのような構成に変更する動機付けがあるとは認められない。 ウ(ア) 以上に対し、被告は、刊行物2発明のような、把持具3dを下降させて物品載置台11へ物品を移載する物品移載手段BMがあり、該把持具3dに対して物品載置台11が移動体3の走行経路の両脇に位置するレイアウト構造を有するものにおいては、@物品載置台11の物品載置部分側を把持具3dの真下に位置するよう横幅方向に移動させた上で把持具3dを下降させるか、又は、A移動体3の把持具3d側を物品載置台11の物品載置部分の真上に位置するよう横幅方向に移動させた上で把持具3dを降下させるかは、単に二者択一的な動作を選択することで、当業者ならば当然着想する技術思想であり、上記Aの構造とした場合には、物品載置台11の横幅方向の移動機能が不要になるため、これを固定式の物品載置台にできることも、当業者には自明の事項にすぎないと主張する。 しかし、前記イのとおり、刊行物2発明においては、把持具3dが、物品載置台だけではなく、加工装置との間でも単一の移載手段(昇降手段)を兼用することで構成を簡素化することを技術的意義とするものであり、上記@の構成をあえてAの構成に変更することの動機付けはないから、刊行物2発明において上記Aの構成が上記@の構成と二者択一的とはいえないし、結局のところ同主張は後知恵的な発想であり、採用することができない。 (イ) また、被告は、@刊行物2の請求項11に係る発明についての段落【0012】には、刊行物2発明において把持具3d側を横幅方向に移動させることの示唆がある、A刊行物2に物品を横幅方向に移動させる実施形態(図12)が具体的に記載されていることも、刊行物2発明の把持具3dを横幅方向に移動させることの示唆であり、この実施形態の屈曲アーム20bは物品Bをわずかであっても上昇(垂直移動)させてから水平移動させ、下降(垂直移動)させるものであるから、刊行物2発明の把持具3dに水平移動させる機能を付加することの動機付けがあると主張する。 しかし、上記@については、前記1(2)アのとおり、請求項11に係る発明は、移動体の保持部移載手段とステーション用移載手段とを兼用する単一の物品移載手段(【請求項6】)を、物品を昇降移動させて移載を行う構成(【請求項7】)とする代わりに、物品を移動体横幅方向へ移動させて移載を行う構成としたものであり、段落【0012】は、そのような構成とすることにより、物品を昇降移動させて移載を行う構成においては必要とされる物品保持部を横幅方向に移動させるための補助的な手段が不要等となる旨を記載したものであって、請求項11の記載も段落【0012】の記載も、移動体の物品保持部への移載手段とステーションへの移載手段とは単一の物品移載手段で兼用するということを前提とするものである。したがって、段落【0012】は、物品を昇降移動させる単一の物品移載手段で保持部移載手段とステーション用移載手段とを兼用している刊行物2発明に、保持部移載手段についてのみ、請求項11に係る発明のような物品を移動体横幅方向へ移動させる物品移載手段を備えさせることを示唆するものとはいえない。 |
[コメント] |
@進歩性審査基準では、技術の具体的適用に伴って引用発明の構成を設計変更することは、当業者の通常の創作能力の範囲であるとしています。 Aまた設計変更であることを正当化することの論法として、“○○の課題を実現するためには、△△とするか、□□とするのかの二択しか選択肢がなく、その一つを選択することは当業者にとって容易である。”という論法が審査官によって用いられることがあります。 Bしかしながら、特許出願人の発明を否定するためにぴったりの主引用例及び副引用例の組み合わせが見つからなかったからこそ、こういう論法が用いられるのであり、事後分析的な判断(いわゆる後知恵)に陥っている可能性が高いため、そうではないかを疑ってかかる必要があります。→後知恵とは C具体的には、例えば次の点を検討するべきです。 ・その変更が引用発明の技術的意義の範囲で行われているか否か ・その選択肢の設定の仕方が適当なものであるかどうか E本件の場合、引用発明は、2つの動きを単一の移動手段で実現することで構成を簡素化することに技術的な意義があったのにも関わらず、それをわざわざ2つの移動手段に変更することを、進歩性を否定する創作の論理付けに組み込んだ点で後知恵と判断されました。 |
[特記事項] |
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