[事件の概要] |
@事件の経緯は、次の通りです。 平成16年5月24日、原告が発明の名称を「平底幅広浚渫用グラブバケット」とする特許出願(特願2004−153246号)をする。 平成18年11月24日、原告本件特許の設定登録を受ける(特許第3884028号)。 平成22年12月14日、被告が本件特許の特許請求の範囲請求項1に係る発明について特許無効審判を請求し、これに対して原告が同手続において第1次訂正請求をした。 平成23年11月4日、特許庁が「訂正を認める。本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(第1次審決/無効2010−800231号)を出し、被告は、第1次審決の取消しを求める訴訟(平成23年(行ケ)第10414号)を提起し、 平成25年1月10日、知的財産高等裁判所が第1次審決を取り消す旨の判決(前訴判決)をし、同判決は、上告不受理の決定により確定し、 平成26年4月24日、特許庁が原告の再度の訂正請求に対して「訂正を認める。特許第3884028号の請求項1に記載された発明についての特許を無効とする。」との審決(第2次審決)をし、これに対して、原告が、第2次審決の取消しを求める訴訟(平成26年(行ケ)第10136号)を提起するとともに、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正審判を請求し、 平成26年11月11日、知的財産高等裁判所は、第2次審決を取り消す旨の決定をした。 平成27年6月26日、特許庁は、訂正を認める。特許第3884028号の請求項1に記載された発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、 平成27年7月30日、原告は、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。 同年10月22日付けで、原告は、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正審判を請求した。 A本件特許の請求の範囲(【請求項1】) 吊支ロープを連結する上部フレームに上シーブを軸支し、側面視において両側2ケ所で左右一対のシェルを回動自在に軸支する下部フレームに下シーブを軸支するとともに、左右2本のタイロッドの下端部をそれぞれシェルに、上端部をそれぞれ上部フレームに回動自在に軸支し、上シーブと下シーブとの間に開閉ロープを掛け回してシェルを開閉可能にしたグラブバケットにおいて、 シェルを爪無しの平底幅広構成とし、 シェルの上部にシェルカバーを密接配置するとともに、前記シェルカバーの一部に空気抜き孔を形成し、 該空気抜き孔に、シェルを左右に広げたまま水中を降下する際には上方に開いて水が上方に抜けるとともに、シェルが掴み物を所定容量以上に掴んだ場合にも内圧の上昇に伴って上方に開き、グラブバケットの水中での移動時には、外圧によって閉じられる開閉式のゴム蓋を有する蓋体を取り付け、 正面視におけるシェルを軸支するタイロッドの軸心間の距離を100とした場合、側面視におけるシェルの幅内寸の距離を60以上とし、 かつ、側面視においてシェルの両端部がタイロッドの外方に張り出すとともに、側面視においてシェルの両端部が下部フレームの外方に張り出し、更に、側面視においてシェルの両端部が下部フレームとシェルを軸支する軸の外方に張り出してなり、 薄層ヘドロ浚渫工事に使用することを特徴とする平底幅広浚渫用グラブバケット。 [本件特許] [引用例1] [周知例1] B本件特許発明の概要 (a)本発明の目的は次の通りです(段落0010)。 ・ヘドロ、土砂等の掴み物の切取面積を大きくして作業能率を高めるとともに水の含有量を低減させ、 ・浚渫作業時に掴み物の撹乱や水中移動が起きないようにして、ヘドロ運搬船への積込み時における河川又は海水の濁りの発生や周辺水域への濁りの拡散・移流を防止し、 ・グラブバケット自体の水中での抵抗を減少させて降下時間を短縮し、 ・グラブバケットが掴み物を所定の容量以上に掴んだ場合でも内圧上昇に起因する変形・ 破損を引き起こすことがない平底幅広浚渫用グラブバケットを得ること (b)本発明の作用は次の通りです(段落0014)。 シェルの上部に開閉式のゴム蓋を有する蓋体が配設されたシェルカバーを密接配置したことにより、シェルを広げたまま水中を降下する際にはゴム蓋を有する蓋体が上方に開いて水が上方に抜けるので、水中での抵抗が減少して降下時間を短縮することができる。 グラブバケットが掴み物を所定容量以上に掴んだ場合には、内圧の上昇に伴ってゴム蓋を有する蓋体が上方に開き、内圧が降下するので、グラブバケット自体の変形・破損を引き起こすおそれはない。 グラブバケットの水中での移動時には、外圧によってゴム蓋を有する蓋体が閉じられるので、掴み物の撹乱や水中移動は発生せず、河川又は海水の濁りの発生や周辺水域への濁りの拡散・移流を完全に防止することができる。 C本件特許の先行技術 (a)本件特許出願の前には次の先行技術が存在しました。 ・引用例1:特開平9−151075号公報 ・引用例2:実開平6−1457号 ・引用例3:実開昭64−32888号 ・引用例4:大旺建設株式会社「650㎥/h 6連装トレミー砂撒船『第18龍王丸』」第243号「作業船」平成11年5月号 10頁から15頁(社団法人日本作業船協会、平成11年5月発行) ・引用例5:特開2000−328594号公報 ・周知例1:登録実用新案第3046423号公報 ・周知例2:実開昭49−137262号) ・周知例3:東亜建設工業作成のウェブページ(平成15年10月公開) ・周知例4:岩田尚生ほか「密閉式水平掘削グラブバケットについて−洞海湾における汚泥の浚渫処理−」第95号「作業船」昭和49年9月号 22頁から24頁(社団法人日本作業船協会、昭和49年9月発行) (b)引用例1(主引用例)の内容は次の通りです。 吊支ロープ7で吊下げられる上部フレーム5に上部シーブ11を軸支し、 側面視において両側2ヶ所で左右一対のシェル部1A、1Bを開閉自在に軸支する下部フレーム2に下部シーブ12を軸支するとともに、 左右一対のシェル部1A、1Bをそれぞれ連結する左右2本の連結杆4A、4Bが、上部フレーム5と左右一対のシェル部1A、1Bをそれぞれ連結しており、 一方の連結杆4Aの下端部をシェル部1Aに、上端部を上部フレーム5に回動自在に軸支し、他方の連結杆4Bの下端部をシェル部1Bに回動自在に軸支し、 該他方の連結杆4Bの上端部を上部フレーム5に固定し、上部シーブ11と下部シーブ12との間には、開閉ロープ8が巻き掛けられており、 開閉ロープ8を繰り下ろすとシェル部1A、1Bは開き、開閉ロープ8を引き上げるとシェル部1A、1Bが閉じられるようにしたグラブバケットにおいて、 シェル部1A、1Bを爪無しの平底構成とし、かつ、側面視においてシェル部1A、1Bの両端部が下部フレーム2の外方に張り出している平底浚渫用グラブバケット。 D本件特許に対する審決の内容 (a)審決理由1 本件発明は、下記アの引用例1に記載された発明(以下「引用発明1」という。)に、下記イの引用例2に記載された構成(以下「引用発明2−1」、「引用発明2−2」という。)、ウの引用例3に記載された発明(以下「引用発明3」という。)、エの引用例4に開示された構成(以下「引用発明4」という。)、ウからキの引用例ないし周知例に記載されている周知技術1、ウ、カ及びキに記載されている周知技術2、オ及びカに記載されている周知技術3、オ、カ、ク及びケに記載されている周知技術4を適用することによって、当業者が容易に発明をすることができた。 ・引用発明2−1 側面視においてシェルの両端部がタイロッドの外方に張り出すとともに、側面視においてシェルの両端部が下部フレームの外方に張り出し、更に、側面視においてシェルの両端部が下部フレームとシェルを軸支する軸の外方に張り出してなる構成 ・引用発明2−2 正面視におけるシェルを軸支するタイロッドの軸心間の距離に相当するアーム4の軸心間の距離を100とした場合、側面視におけるシェルの幅内寸の距離を60以上とする構成 ・引用発明3 浚渫用グラブバケットにおいて、シェルの上部開口部に、シェルを左右に広げたまま水中を降下する際には上方に開いて水が上方に抜けるとともに、シェルが掴み物を所定容量以上に掴んだ場合にも内圧の上昇に伴って上方に開き、グラブバケットの水中での移動時には、外圧によって閉じられる開閉式のゴム蓋を有する蓋体を取り付けるという技術 ・引用発明4 側面視においてシェルの両端部がタイロッドの外方に張り出すとともに、側面視においてシェルの両端部が下部フレームの外方に張り出し、更に、側面視においてシェルの両端部が下部フレームとシェルを軸支する軸の外方に張り出してなる構成 ・周知技術1 グラブバケットにおいて、左右2本のタイロッドの下端部をそれぞれシェルに、上端部をそれぞれ上部フレームに回転自在に軸支すること ・周知技術2 浚渫用グラブバケットにおいて、シェルの上部にシェルカバーを密接配置すること ・周知技術3 浚渫用グラブバケットにおいて、シェルの上部に空気抜き孔を形成すること (b)審決理由2 本件発明1は、下記オの引用例5に記載された発明(以下「引用発明5」という。)に、引用発明2−1及び2、引用発明3、4並びに周知技術2から4を適用することによって、当業者が容易に発明をすることができた、というものである。 E特許権者が主張する取消事由 (a)引用発明1を主引用例とする容易想到性の判断の誤り(取消事由1) ア 引用発明1の認定の誤り イ 引用発明2−1の認定の誤り ウ 引用発明3の認定の誤り エ 周知技術2の認定の誤り オ 周知技術3の認定の誤り カ 相違点2の容易想到性の判断の誤り キ 相違点3の容易想到性の判断の誤り ク 相違点4の容易想到性の判断の誤り ケ 顕著な効果の看過 (b)引用発明5を主引用例とする容易想到性の判断の誤り(取消事由2) ア 引用発明5の認定の誤り イ 引用発明2−1の認定の誤り ウ 引用発明3の認定の誤り エ 周知技術2の認定の誤り オ 周知技術3の認定の誤り カ 相違点8〜10の容易想到性の判断の誤り キ 顕著な効果の看過 以下取消事由1についてのみ解説します。 F原告の主張(要旨) 相違点2の容易想到性の判断の誤りについて (a)本件審決は、引用発明1に、周知技術2及び3並びに引用発明3を適用して相違点2に係る本件発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得た旨判断したが、以下のとおり、同判断は、誤りである。(中略) (b)周知技術2、3及び引用発明3並びに本件審決がこれらの認定の根拠とした引用例3、5、周知例1及び2のいずれにも、相違点2に係る本件発明の構成、すなわち、シェルカバーの一部に空気抜き孔を形成する構成及びその空気抜き孔に「シェルを左右に広げたまま水中を降下する際には上方に開いて水が上方に抜けるとともに、シェルが掴み物を所定容量以上に掴んだ場合にも内圧の上昇に伴って上方に開き、グラブバケットの水中での移動時には、外圧によって閉じられる開閉式のゴム蓋を有する」蓋体を取り付ける構成は、開示されていない。 (c)周知技術2、3及び引用発明3並びに本件審決がこれらの認定の根拠とした上記各文献のいずれにも、周知技術2、3及び引用発明3を相互に結び付ける要因となる記載も示唆もない。 G被告の主張(要旨) (a)相違点2の容易想到性の判断の誤りについて、原告は、周知技術2、3及び引用発明3並びに本件審決がこれらの認定の根拠とした引用例3、5、周知例1及び2のいずれにも、シェルカバーの一部に空気抜き孔を形成する構成は開示されていない旨を主張する。 (b)しかし、 ・引用例5の浚渫用グラブバケットには、左右のバケット4、5の左と右の背中の面の一部に空気抜き口13が設けられていること、 ・周知例1の【図5】の浚渫用グラブバケットには、バケットシェルのシェル上壁13の一部に水抜き口11が設けられており、【図6】の浚渫用グラブバケットには、バケットシェル42の上側のシェル壁の一部に水抜き筒43が設けられていること から、空気抜き孔をシェルカバーの「一部」に設けることは、これらの引用例ないし周知例に開示された公知技術ないし周知技術であり、よって、原告の主張は失当であり、同主張を根拠として相違点2の容易想到性を否定することはできない。 |
[裁判所の判断] |
@裁判所は、取消事由1に関して次のように認定しました。 (A)周知技術3に関して (a)周知例1には、バケットシェル6のシェル上壁13に水抜き口11を開口し、水抜き口11を開閉する開閉体12及び開閉体12を開閉操作する操作機構を設け、水抜き口11を開放した状態でバケットシェル6を操作すると、シェル内の濁水を水抜き口11から排出することができ、バケットシェル6が全閉ないしはその直前の状態になった時点で、開閉体12が操作機構で閉じ操作されて水抜き口11を完全に閉止することができる旨が記載されている。同記載によれば、水抜き口11は、バケットシェル内の空気を抜く役割も果たしていることが明らかである。 (b)引用例5には、左右アームの下端部の支軸の回りに回動自在に設けられた左右の各バケット(シェルに相当する。)の上部に空気抜き口とこれを開閉する空気抜き扉が設けられており、海中に左右の各バケットを落下させると、空気抜き扉14はほぼ垂直の位置にあって空気抜き口13を開放しており、各バケット底部の空気が完全に抜かれ、各バケットが海底に達して汚泥をすくい取った後に閉じると、空気抜き扉14が空気抜き口13を閉塞する旨が記載されている。 (c)以上によれば、周知例1及び引用例5から、浚渫用グラブバケットにおいて、シェルの上部に空気抜き孔を形成すること(周知技術3)は、本件特許出願の当時、当業者に周知されていたものと認められ、同旨の本件審決の判断に誤りはない。 (d)ただし、 ・周知例1記載の浚渫用グラブバケットは、シェルの上部が密閉されたグラブバケットにおいて、シェル内部の濁水を排出する手段につき、従来技術の問題点を解決するものであり、 ・引用例5に記載されている浚渫用グラブバケットも、シェル上部が密閉されているものであることが明らかであるから、 周知技術3は、シェルの上部が密閉されていることを前提として、そのような状態においてはシェル内部にたまった水や空気を排出する必要があり、この課題を解決するための手段にほかならないというべきである。 (B)相違点2の容易想到性に関して (a)本件発明と引用発明1との間には、本件審決が認定したとおり、本件発明においては、「シェルの上部にシェルカバーを密接配置するとともに、前記シェルカバーの一部に空気抜き孔を形成し、該空気抜き孔に、シェルを左右に広げたまま水中を降下する際には上方に開いて水が上方に抜けるとともに、シェルが掴み物を所定容量以上に掴んだ場合にも内圧の上昇に伴って上方に開き、グラブバケットの水中での移動時には、外圧によって閉じられる開閉式のゴム蓋を有する蓋体を取り付け」るのに対して、引用発明1においては、そのように構成されているか否か不明であるという相違点が存在するものと認められる。 (b)本件審決は、浚渫用グラブバケットに関する発明である引用発明1において、浚渫用グラブバケットに関する周知技術2及び3並びに引用発明3を適用して相違点2に係る本件発明の構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことであると判断した。 (ア) 相違点2は、シェルの構成に関するものである。しかし、引用例1には、(中略)シェル自体の具体的構成についての記載はない。(中略)したがって、引用例1には、シェルの構成に関する課題は明記されていない。 (イ) もっとも、引用例3(甲4)の考案の詳細な説明中の考案が解決しようとする問題点、周知例1(甲16)の【0002】、【0003】(前記⑶ア(イ))、周知例2(甲26)の考案の詳細な説明中、従来技術の欠点について述べたもの及び引用例5(甲5)の【0006】から【0008】によれば、本件特許出願の当時、浚渫用グラブバケットにおいて、シェルで掴んだ土砂や濁水等の流出を防止することは、自明の課題であったということができる。 (ウ)本件審決が周知技術2を認定したことは誤りであるが、当業者は、引用発明1において、上記課題を解決する手段として、周知例2に開示された「シェルが掴んだヘドロ等の流動物質の流出を防ぐために、相対向するシェル11、11の上部開口部12、12に上部開口カバー13、13をシェル11、11の内幅いっぱいに固着するか、又は、取り外し可能に装着することによって、上部開口部12、12を上部開口カバー13、13でふさぎ、シェル11、11を密閉する」構成を適用し、相違点2に係る本件発明の構成のうち、「シェルの上部にシェルカバーを密接配置する」構成については容易に想到し得たものと認められる。 (エ)しかしながら、シェルの上部に空気抜き孔を形成するという周知技術3は、シェルの上部が密閉されていることを前提として、そのような状態においてはシェル内部にたまった水や空気を排出する必要があり、この課題を解決するための手段である。 (オ)引用例1には、シェルの上部が密閉されていることは開示されておらず、よって、当業者が引用発明1自体について上記課題を認識することは考え難い。 (カ)当業者は、前記のとおり引用発明1に周知例2に開示された構成を適用して「シェルの上部にシェルカバーを密接配置する」という構成を想到し、同構成について上記課題を認識し、周知技術3の適用を考えるものということができるが、これはいわゆる「容易の容易」に当たるから、周知技術3の適用をもって相違点2に係る本件発明の構成のうち、「前記シェルカバーの一部に空気抜き孔を形成」する構成の容易想到性を認めることはできない。 (キ)また引用例3には、海底から掻き取った海底土砂等をバケットシェル内に保持することを可能にし、かつ、水の抵抗を最小限にして、荷こぼれによる海水汚濁を防止し得るグラブバケットの提供を課題とし、同課題解決手段として、シェルの上部開口部の開閉手段を設けた旨が記載されていることから、当業者は、引用発明1において、シェルで掴んだ土砂や濁水等の流出を防止するという自明の課題を解決する手段として、シェルを密閉するために、「浚渫用グラブバケットにおいて、シェルの上部開口部に、シェルを左右に広げたまま水中を降下する際には上方に開いて水が上方に抜けるとともに、シェルが掴み物を所定容量以上に掴んだ場合にも内圧の上昇に伴って上方に開き、グラブバケットの水中での移動時には、外圧によって閉じられる開閉式のゴム蓋を有する蓋体を取り付けるという技術」である引用発明3の適用を容易に想到し得たものということができる。 (ク)しかし、引用発明1に引用発明3を適用しても、シェルの上部に上記のように開閉するゴム蓋を有する蓋体をシェルカバーとして取り付ける構成に至るにとどまり、相違点2に係る本件発明の構成には至らない。 (ケ)被告は、空気抜き孔をシェルカバーの一部に設けることは、引用例5及び周知例1に開示された公知技術ないし周知技術である旨主張するが、同技術は、シェルの上部が密閉されていることを前提として、そのような状態においてはシェル内部にたまった水や空気を排出する必要があり、この課題を解決するための手段であり、引用例1には、シェルの上部が密閉されていることは開示されていないのであるから、当業者が引用発明1自体について上記課題を認識することは考え難く、上記技術を適用する動機付けを欠く。 (コ)以上によれば、相違点2が容易に想到できるとした本件審決の判断には誤りがある。 |
[コメント] |
@本件は、進歩性の判断における、いわゆる“容易の容易”について解釈された事例です。 A引用発明A+Bに他の文献の開示事項Cを適用して構成(A+B+C)に想到することが容易であるとして(第1の創作行程)、当該開示事項Cに別の文献の開示事項Dを付け加えること(第2の創作行程)が容易であるとしても、必ずしも全体として容易想到性がある(進歩性がない)とは限りません。 発明は構成全体として評価されるべきであり、特許出願人(又は特許権者)の発明と主引用発明と一致点・相違点を認定し、主引用例との関係において、相違点を開示する別の引用文献を結びつける動機付けなどが存在するかを考慮するべきだからです(進歩性審査基準)。 →進歩性の判断(容易の容易の解釈について) |
[特記事項] |
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