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●平成1年(行ケ)第110号(審決取消訴訟・認容)


進歩性/特許出願/進歩性の判断/ブラシレス直流モータ

 [事件の概要]
@本件特許出願の経緯

 甲は、1975年7月24日にドイツ連邦共和国に特許出願をし、

 昭和51年7月23日にこれに基づく優先権を主張して、名称を「円板形ロータを有するモータ」(後に「ブラシレス直流モータ」と補正)とする発明につき、特許出願をし(昭和51年特許願第87385号)、

 昭和58年11月8日に進歩性の欠如を理由として拒絶査定を受けたので、これを不服とする審判の請求をし、

 昭和63年12月15日に請求棄却審決を受けたために、本件訴訟を提訴しました。

B本件特許出願の請求の範囲

 多数の磁極対を有する永久磁石を備えた円板状ロータ(20)と、

 多相巻線(122;S1−S4)を構成するように接続された空心のコイル(57、58、120、121)から成るステータ巻線を具備するステータと、

 前記円板状ロータが360°電気角回転する毎に少なくとも4つの電流パルスを受け、該円板状ロータ(20)を回転せしめる回転磁界を運転甲に発生させるために、上記多相巻線において電流を制御するためのロータ回転位置検出機構(76、77)と、

 を有するブラシレス直流モータにおいて、

 ステータ巻線が単層コイルとして形成され、上記単層コイルは2つの巻線群を形成すること、上記各巻線群内の巻線は電気的に相互に接続されること、

 各巻線群の夫々は少くとも2個のコイルを有し、該2個のコイル相互は磁気的に逆の極性を有すること、

 上記各巻線群内においては、互に逆の極性を有する2個のコイルは、nを小さな正の整数として約(2n+1)×180°電気角となるように配設されること

 を特徴とするブラシレス直流モータ。

※ブラシレスモーター…ブラシ及び整流子を持たないモータであり、特に直流モーターにおいて回転子の回転角に応じてコイルに流れる電流の向きを変え、磁束の方向を変化させる役割を有する整流子を半導体スイッチに置き換えたものを指す。

C本件特許出願の発明の概要

(a)発明の目的

 「この従来例のブラシレス直流モータにおいては、コイル57〜60に夫々順次、且つ単独に1個づつの電流パルスが加えられる。この電流は夫々磁束を発生し、磁極との間に回転力を発生させるものであるが、同時にこの磁束は、コイル自体を貫流する閉じた磁束を形成するため、回転軸39を通り或は他の空隙を通り、結果としてはモータ内で或はモータ周辺で悪影響を及ぼす(漏洩磁束等)磁束として働くこととなる。

 この漏洩磁束はロータ、磁束検出手段76、77、回転検出用タコジェネレータ34のコイル42、或は駆動される機器の夫々に雑音となる磁束を与えることとなる。

 このことは正確な回転数や低雑音が要求される用途においては、例えば磁束検出手段とステータコイルをできるだけ離したり、或は回転数検出コイルに遮蔽を設けるなどの、漏洩磁束を回避する手段を必要とさせることとなり、小型軽量化等の要請に一定の限界が生じることとなる。

 又、コイルと磁極の間で得られるロータの回転力は、その瞬間パルス電流が通じているコイル1個によってのみ与えられるものであるから、ロータ軸に関して加えられる力が非対称となり、スムーズな回転や一様な回転が得られなかったりすることともなる。

 本発明の目的は、従来のブラシレス直流モータが有する小型軽量の利点を損うことなく、漏洩磁束を低減し、より正確な回転数制御及び低雑音化を可能とすること、並びにロータの一様でスムーズな回転を得ることにより、これら従来のブラシレス直流モータの欠点を改善することである。」(同号証明細書6頁11行〜8頁1行)

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(b)発明の効果

 「各コイルを単層コイルとすることで小型、偏平化が可能となる。ステータ巻線を2巻線群にわけることで従来例同様必要な電流パルスを空間的、時間的に各巻線群に順次与えることができる。1群の中に少くとも互に逆極性の磁束を発生する2個のコイルを含むことにより、該2個のコイルに発生した磁束が、過不足なく該2個のコイルを貫流する閉回路を構成するため、これにより漏洩磁束が減少する。

 逆極性を有するコイルの距離を、軸に関して約(2n+1)×180°電気角とし、nを適当に選択することにより回転力を発生させるコイルを常に2個以上とすることができる。nを適当に選択し同時に回転力を生ずるコイル相互を軸に関してできるだけ対称に配置して、回転力の平均化を図ることができる。又、nの値を適当に選択することにより、ステータに配置する磁束検出手段等を含む基板の配置に関して自由度を与えることができる。」(同9頁5行〜10頁3行)

[本願発明図1・図2]

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D本件特許出願の先行技術は、次の通りです。

(a)特開昭48−33306号公報(以下「引用例1」という)

[発明の名称]電気モーター

[発明の目的]直流モーターを改良すること、さらに非常に静かな運転、低回転で一様のトルクを発生すること、有利な組み立てと調整とを発生することである。

[発明の構成]電気モータ、特にモーター軸回りに配置され、軸方向に極性を与えられかつ永久磁石として形成された多数の極磁石と、適宜選択された円板状のコイルを備え、該磁石とコイルの間に軸方向の間隙があり、該磁石とコイルの間の範囲に相対運動が生じる、コレクター無しの直流モーターに於いて、

 円板状のコイル(50、60)が定置中空部分(17、86、115)に取付けられていることと、磁石(44、123、123’)がローター(54、105,119)に配置され、該ロータ(54,105,119)が軸(23、98、121)に結合されていて、該軸(23、98、121)が中空部分(17、86、115)の中側を通じて案内されていることを特徴とする、電気モーター、特に直流モーター(特許請求の範囲第1項)。

(b)特開昭48−64409号公報(以下「引用例2」という。)

[発明の名称]無接点直流モータ

[発明の目的]ローターの磁極数と駆動コイルの形状及び中心各を考慮して鉄損が少なく効率の向上を図ったモーターを提供すること。

[発明の構成]磁束の状態を検知して駆動電流を制御する如き無接点直流モータにおいて、磁束の方向が回転軸と平行であるような磁束構造を有するロータ、及び該ロータの磁束内に配置され磁束の状態を検知する磁気感応素子と、この磁気感応素子の検出信号によって制御された電力を印加する駆動コイルが配置された平板状のステータから構成され、前記駆動コイルの中心各は(2π÷前記ロータの磁極数)近辺であることを特徴とする無接点直流モータ。

D本件特許出願に対する審決の内容は、次の通りです。

(a)本願発明は、引用例1及び引用例2の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

(b)本願発明と引用例1に記載されたものとの一致点・相違点は次の通りです。

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[一致点]多数の磁極対を有する永久磁石を備えた円板状ロータと、多相巻線を構成するように接続された空心のコイルからなるステータ巻線を具備するステータと、上記円板状ロータが360°電気角回転するごとに4つの電流パルスを受け、上記円板状ロータを回転産せしめる回転磁界を運転中に発生させるために、上記多相巻線において電流を制御するためのロータ回転位置検出機構とを有するブラシレス直流モータにおいて、

・ステータ巻線が2つの巻線群を形成すること

・上記各巻線群内の巻線は電気的に相互に接続されること

・各巻線群の夫々は少くとも2個のコイルを有し、コイル相互は磁気的に逆の極性を有すること

・上記各巻線群内においては、互に逆の極性を有する2個のコイルは、180°の奇数倍電気角となるよう配設されることからなるブラシレス直流モータであること

[相違点]

 本願発明では、

・ステータ巻線が単層コイルとして形成され、

・各巻線群内においては、互に逆の極性を有する2個のコイルは、nを小さな正の整数として約(2n+1)×180°電気角となるように配設されているのに対し、

 引用例1のものでは、ステータ巻線が2層コイルとして形成され、各巻線群内においては、互に逆の極性を有するコイルは180°電気角となるよう配設されている。

(c)上記相違点について検討すると、本願発明において、ステータ巻線を単層コイルとして形成できるのは、各巻線群におけるコイルの数をロータの磁極数よりもかなり少ない数としていることによるものであるが、

 上記引用例2には、ブラシレスモータにおいて、ステータ巻線のコイルの数をロータの磁極数よりもかなり少ない数としてステータ巻線を単層コイルとして形成したものが開示されているので、本願発明におけるステータ巻線を単層コイルとして形成した点は上記引用例2の記載から当業者が容易に推考できたものと認められ、

 そして、本願発明では、各巻線群内において互に逆の極性を生ずる2個のコイルを180°電気角より大きい(2n+1)×180°電気角となるよう配設しているが、その点は上記したようにコイルの数をロータの磁極数より少なくしたことにともない当業者が当然にとるべき設計的事項と認められる。

 そして、本願発明の全体構成からえられる効果は、上記引用例1および2に記載された各構成から予測できる範囲をこえるものとも認めることができない。

E特許出願人の主張は次の通りです。

(a)引用例2には、本願発明と同じ4パルスモータで、ステータ巻線を1層に配設したものが記載されているが、このモータにあっては、各パルス電流の印加によって、順次回転方向に個別に励磁される4個のコイルが特に群を形成することなく配設されており、互いに逆極性を生ずる「コイルの対」の概念は全く存在しない

 すなわち、コイル数を少なくして単に構成を簡単にしただけで、漏洩磁束も大きく滑らかな回転が得られないという、正にコイル数を減少させれば性能も劣悪になるという典型例のものが記載されているにすぎない。

(b)そして、本願発明と引用例発明1とは、審決が相違点として認定しているとおり、「本願発明では、ステータ巻線が単層コイルとして形成され、各巻線群内においては、互い逆の極性を有する2個のコイルは、nを小さな正の整数として約(2n+1)×180°電気角となるように配設されているのに対し、引用例1のものでは、ステータ巻線が2層コイルとして形成され、各巻線群内においては、互に逆の極性を有するコイルは180°電気角となるよう配設されている点で相違が認められる」(審決書5頁18行〜6頁6行)のであり、また、上記のとおり、引用例発明2は、パルス電流に対応して順次励磁される互いに独立したコイルを配設したにすぎない点で、本願発明及び引用例発明1、2の各モータはその構成及び回転原理を全く異にするのである。

(c)したがって、単純に引用例2にあるようにステータコイルの数を減少し、これと引用例発明1を合わせたところで、本願発明の構成のように一群内の互いに逆の極性を有する一対のコイルを180°電気角より大きい(2n+1)×180°電気角となるよう配設するという思想が生ずるはずはない。

(d)審決は、これらのモータにおけるステータコイルの構成が全く異なった技術思想に基づくことに技術的理解を欠いた結果、単にコイルの数を減少させたとの表面的な現象をとらえて、上記のとおり、相違点につき誤った判断をしたものである。

 [裁判所の判断]
@裁判所は、本件特許出願の審決を次のように分析しました。

 審決が、本願発明と引用例発明1との相違点について、「本願発明において、ステータ巻線を単層コイルとして形成できるのは、各巻線群におけるコイルの数をロータの磁極数よりもかなり少ない数としていることによるものであるが、上記引用例2には、ブラシレスモータにおいて、ステータ巻線のコイルの数をロータの磁極数よりもかなり少ない数としてステータ巻線を単層コイルとして形成したものが開示されているので、本願発明におけるステータ巻線を単層コイルとして形成した点は上記引用例2の記載から当業者が容易に推考できたものと認められ、そして、本願発明では、各巻線群内において互に逆の極性を生ずる2個のコイルを180°電気角より大きい(2n+1)×180°電気角となるよう配設しているが、その点は上記したようにコイルの数をロータの磁極数より少なくしたことにともない当業者が当然にとるべき設計的事項と認められる。」(審決書6頁7行〜7頁4行)と判断したことは、当事者間に争いがない。

 そして、審決がこの判断の前提として、本願発明は、結局のところ、引用例1のモータにおいては2層に形成されている各巻線群を単層とするために、引用例1のモータの一つの層において180°電気角の位置に隙間なく配設されたコイルの幾つか(少なくとも180°電気角と360°電気角に配設されていたもの、すなわち特定のコイルからみて少なくとも隣とその隣の2個)を省略し、その省略されたスペースに、一つの層の省略部位に対応する位置から90°電気角だけ変位して他の層に配設されていた互いに逆の極性を有する少なくとも1組のコイルを引き上げて配設するという構成としたものであり、このような本願発明の構成を採用することは、引用例発明2によって動機付けられるし、その際、互いに逆の極性を生ずる2個のコイルを180°電気角の奇数倍の位置に配設しなければならないことは引用例1に示されているほか、モータの連続的回転を得るために常識的な技術事項である以上、引用例発明1、2から本願発明の構成のようにすることは、当業者にとって単なる設計事項の範囲に止まるとの理解に立っていることは、上記審決の説示と被告の主張から明らかである。

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A裁判所は、本件特許出願に引用された発明に関して次のように分析しました。

(a)引用例2には、

 「・・・ブラシレス直流モータにおいて、上記コイルの数をロータの永久磁石の磁極数よりもかなり少ないものとしてステータ巻線を単層コイルとして形成したものが記載されている。」(審決書4頁9〜19行)ことは当事者間に争いがなく、

 甲第4号証によれば、引用例2の無接点直流モータの駆動メカニズムについて、「ロータ磁石11、12は相対向するπ/4毎の永久磁石が異極になるようにプツシユ45により固定され、磁束の方向が回転軸31と平行な磁気構造を有するロータを形成している。32、33は中心角π/4に巻かれ、ホール素子34によつて制御される駆動コイルである。」(同号証3頁左上欄2〜6行)、

 「ホール素子34に発生するホール電圧は駆動トランジスタ52の入力信号を正として、駆動コイル32に電力を印加する。駆動コイル32の辺36、37には予め決められた矢印40、41の向きに電流が流れる。辺36に流れる電流とロータ磁石20と28、辺37に流れる電流とロータ磁石13と21が電磁気の法則により作用し合つて予め決められた回転方向にロータが回転を開始する。およそπ/8ロータが回転するとホール素子34にはロータ磁石14と22による磁界が加わる。駆動トランジスタ52の入力信号は負とし、駆動トランジスタ53の入力信号は正として、駆動コイル33に電力を印加する。駆動コイル33の辺38、39には予め決められた矢印42、43の向きに電流が流れる。辺38に流れる電流とロータ磁石15と23、辺39に流れる電流とロータ磁石16と24が作用し合つてロータの回転はさらに持続する。およそπ/4ロータが回転すると駆動トランジスタ52の入力信号は再び正とし、駆動トランジスタ53の入力信号は負とする。以下は前記と同様の動作を繰り返すことによりロータの回転は予め決められた設定方向に維持される。」(同3頁右上欄14行〜左下欄13行)との記載があることが認められ、

 これと実施例の構造を示す図面第7図(同5頁)によれば、

 引用例2のモータは、ロータ磁石の回転に伴って、その磁束を感知したホール素子と駆動トランジスタの働きにより、それぞれ独立した駆動コイルを次々と印加することにより、ロータの回転を予め決められた設定方向に持続する方式のものであり、ステータ巻線が単層コイルとして形成される点では本願発明と同様の構成を有するものの、

単層コイルが二つの巻線群を形成し、各巻線群内の巻線が電気的に相互に接続され、巻線群のそれぞれが少なくとも2個のコイルを有すること、

・該2個のコイルが磁気的に逆の極性を有すること、

・そして、各巻線群内において互いに逆の極性を有する該2個のコイルが少なくとも540°電気角となるように配設されていること

 という本願発明の特徴的な構成を備えていないことは明らかである。

 そうすると、引用例2には、ブラシレスモータにおいて、ステータ巻線のコイルの数をロータの磁極数よりもかなり少ない数としてステータ巻線を単層コイルとして形成したものが開示されているとしても、本願発明のロータの回転メカニズムとは全く異なるメカニズムに立脚しているものというほかはなく、その作用効果も、「著しく偏平な形状を可能とした」、「モータの構造を著しく簡潔にして、組立工数の大巾な減少をもたらした」(甲第4号証2頁右上欄3〜16行)等というものであって、本願発明の作用効果と異なることが明らかである。

 そして、甲第3号証によれば、引用例1の実施例においては、8極の極磁石からなるロータに対し、各層にそれぞれ8個、合計16個のコイルを配設したものが記載されており、その「下方面のコイル(60)は二層コイルの上方面のコイル(60)に対して90°だけ電気的に変位していて、第2図に示されている。」(同号証4頁左上欄7〜9行)、「もし単一コイルを交互に励磁することによつてステーター(55)内に回転磁場が発生すると、磁性リング(44)はこの回転磁場と共に回転する。本発明による多数の極によつて、低回転が生じ例えば減速装置を必要とせずに直接駆動されるターンテーブルとを生じ、一定の回転速度と極の数によつて対応した高周波を利用することも出来るという利点も生じる。」(同4頁右下欄20行〜5頁左上欄7行)及び「本発明の目的はこの種のモーターを改良することである。更に非常に静かな運転、低回転で一様のトルクを発生すること、有利な組立てと調整とを達成することである」(同2頁左上欄13〜16行)との各記載によれば、引用例1のモーターにおいては、ローターに多数の極磁石を備えるとともに、上記の発明の目的を達成するために、ローターの磁極数に比較して、コイル数をも多くすることが望ましいとする技術思想が開示ないし示唆されているものと認められ、少なくとも、そのコイル数を本願発明のようにロータ磁極数よりも少なくするという発想が存在しないことは、疑う余地がない。

B上記の分析を踏まえて、裁判所は本願発明の進歩性に関して次のように判断しました。

(a)(特許出願人の)明細書の記載によれば、本願発明の目的は、従来のブラシレス直流モータが有する小型軽量の利点を損なうことなく、漏洩磁束を低減することによって基板の配置に自由度を持たせ、より小型化を図るとともに、より正確な回転制御及び低雑音化を可能とし、かつロータの一様でスムースな回転を図るという技術課題を達成するため、従来2層に配置されていたステータ巻線を一層に配し、審決が引用例発明1との相違点として把握した本願発明の特徴とするところの構成を採用することにより、これを可能としたものであると認められる。

 そして、本願発明は、上記記載と特許請求の範囲第1項の記載からすると、前示式のnの値を小さな正の整数として適当に選択することにより、常に回転力を発生させるコイルを2個以上とし、コイル相互を軸にできるだけ対称に配置して回転力の平均化を図ることができればよく、そのためには、一定の電気角に配設された少なくとも2群各2個のコイルを備えることで構成要件を充足するから、ロータ磁極数に比較して、かなり少ない数のコイル数の構成を採用するという発想ないし技術思想に基づくものであるということができる。

 そうすると、本願発明と引用例発明1の技術思想とは、その技術思想において相反するところがあるといわなければならないから、これに、回転機構が全く異なり、作用効果をも異にする引用例発明2の構成を併せて、引用例発明1の2層に配設されたステータ巻線を単層に配設し、もって、本願発明の構成に至ることが当業者にとって容易であるとは、直ちにいうことはできない。

  乙第1、第2号証によれば、ステータ巻線を1層コイルに形成して、そのコイル数を永久磁石からなるロータ磁極数より少なくし、ロータが回転するようにコイルの配設角を決めてロータとコイルとを対向させた偏平なブラシレス直流モータは、本願出願前よく知られていたことは認められるが、このことを参酌しても、上記判断を覆すに足らない。

 2 以上のとおり、原告主張の取消事由1に係る審決の判断は誤りであり、その誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、取消事由2につき判断するまでもなく、審決は取消を免れない。


 [コメント]
@特許出願人の発明の構成中“単層にした巻線群内で、互に逆の極性を有する2個のコイルがnを小さな正の整数として約(2n+1)×180°電気角となるように配設されること”は、これを分解して先行技術と比較すると類似の構成が存在します。

Aしかしながら、ロータ磁極数に比較してかなり少ない数のコイル数の構成を採用するという発想は従来技術にはなかったものであり、それを考慮すると、進歩性を否定した審決は取り消されるべきであると裁判所は判断しました。

Bもっとも個人的には、“ロータ磁極数に比較してかなり少ない数のコイル数の構成を採用する”という思想が特許請求の範囲の記載から読み取ることができるかどうか疑問であります。

 また請求項1中の“2個のコイルがnを小さな正の整数として約(2n+1)×180°電気角となるように配設される”の要件のうち“小さな正の整数”という記載は範囲が不明確であると考えます。

 こうした点を、拒絶査定不服審判を請求する時点で限定していれば、訴訟になることは回避できたかもしれません。



 [特記事項]
 
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