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●平成13年(行ケ)第519号


進歩性/特許出願/進歩性の判断・課題/タイヤ

 [事件の概要]
@事件の経緯

 原告は、昭和61年8月18日に、「シート分割巻取装置」と称する発明を特許出願し、

 平成6年3月29日に、設定登録を受けました(特許第1832090号)。

 平成12年12月6日に、被告が本件特許につき無効審判の請求をしたため、

 平成13年3月16日に訂正の請求をし、

 平成13年10月10日、特許庁が「訂正を認める。特許第1832090号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をしたため、

 その取消を求めて本件訴訟を提起しました。

A本件特許請求の範囲(訂正後)

 スリッターにより分割して両側へ振分けた帯状シートを、回転駆動機構により中心駆動される巻芯にタッチローラを介して巻取り、巻太りにつれて巻芯の支持位置を上記タッチローラから離す巻取装置において、

 振分け片側毎に設けられ、夫々、シート幅方向に直角な方向にのびる案内レールと、

 上記案内レールに沿って進退可能であって、該案内レールにより上下方向及びシート幅方向への動きを阻止されるはめ合い部材を固定した脚台と、

 上記脚台に固定され、振分け片側毎にシート幅方向に設けた間隔調整台と、

 上記間隔調整台に摺動可能に支持され、該間隔調整台に固定可能であって、巻芯に対応して設けた左右一対の巻芯支持体と、

 シートの巻太りにつれて前記脚台、間隔調整台、巻芯支持体を一体に後退させ、該巻芯支持体における巻芯支持位置をタッチローラから離すことが可能であると共に、当該脚台、間隔調整台、巻芯支持体における進退方向への動きを制止する駆動装置とを備えることを特徴とするシート分割巻取装置。

B本件特許発明の概要(特許明細書からの引用)

 「この発明はスリッターにより分割して両側へ振分けた帯状シートを、回転駆動機構により中心駆動される巻芯にタッチローラを介して巻取り、巻太りに連れて巻芯の支持位置を上記タッチローラから離す形式の巻取装置に関する。」(産業上の利用分野の欄)

 「上記公報に記載のものは、単に案内レール上に巻芯支持体を載せ、その重力で案内レール上に保持しているに過ぎない。つまり、シートの巻取りに際して生ずる振動等の要因により、その巻芯支持体は案内レール上で上下方向やシート幅方向、更には進退方向に微小に動き、がたつきを生ずる。そのため、上記公報の形式を採用した場合には、例えば横滑りし易い性質を有するプラスチックフィルムシートの巻取りに際し、がたつきを生じない程度に巻取速度を落とさなければ、その振動によってロールの端面が不揃いになり、甚だしい場合には巻取中にシートが完全に横ずれし、作業を停止しなければならない。

 すなわち、上記公報に記載のものによっては、昨今における高速巻取の要請に応えることができない。」(解決するべき課題の欄)

 「本発明は、この種の巻取装置において品質のよいシートロールを得るには、従来より種々提案されている巻取張力や接触圧、巻取位置へのシート供給張力の制御のみではなく、そのシートロール自体が高速回転してもがたつきを生じないことが必要であるという点に鑑み開発されたものであって…」(課題解決手段の欄)

 「本発明における巻芯支持体は、はめ合い部材を固定した脚台、間隔調整台を介して、シート幅方向に直角な方向にのびる案内レールに支持されて進退可能であるものの、上下方向及びシート幅方向への動きを阻止されている。しかも、上記巻芯支持体は、脚台、間隔調整台を介して、駆動装置により、その進退方向への自由な動きも制止されている。したがって、帯状シートを高速で巻取ったとしても、その巻芯支持体が上下方向やシート幅方向、更には進退方向に振動し、がたつきを生じさせることはない。」(発明の作用の欄)

 「新しい各巻芯Cに各分割シートの切断端を接着等し、図示しない巻芯駆動機構の運転を開始すると、中心駆動される巻芯C外周のシートロールRは次第に巻き太る。すると、その分だけタッチローラ2がが押されて下がり、一定量に達すると周知のように所定の検出装置が発信し、これに同期制御した各駆動装置本体16は各ネジ棒16aを一斉に一定量だけ回転させる。これによって、脚台14、間隔調整第13、巻芯支持体10は一体となって一定量、後退を始める。」(実施例の欄)

 「本発明によれば、巻芯を支持する巻芯支持体における上下方向、シート幅方向、更には進退方向へのがたつきを防止することができるのであり、従来装置に比して画期的に振動阻止力を強め、振動によるシート横ずれ現象の防止、シートロール端面の不均一防止をはかることが可能になる。また、巻取中における巻芯支持体の進退方向へのがたつきが制止されるので、後退途中の巻芯支持体の位置を確実に制御することができる。」(発明の効果の欄)



[上図・本件特許発明/下図・第1引用例]

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C本件特許出願の先行技術は、次の通りです。

(a)米国特許第2984427号明細書(第1引用例)

 第1引用例には、スリッター10cによりストリップ10bに分割して両側へ振分けたウエブ10aを、電動モータ35、35’により中心駆動される巻軸11、12にプラテンドラム13を介して巻取り、巻太りにつれて巻軸11、12の支持位置をプラテンドラム13から離す分割・巻取装置が記載されている。

 この装置は、振分け片側毎に設けられ、夫々、ウエブ10a幅方向に直角な方向にのびる平行軌道部材15、16と、平行軌道部材15、16に進退可能に支持される、軸受要素21、23と、ストリップ10bの巻太りにつれて前記軸受要素21、23を後退させ、該軸受要素21、23における巻軸11、12の支持位置をプラテンドラム13から離すことが可能である空圧装置42、43とを備える分割・巻取装置10が記載されている。

(b)特公昭57−28658号公報(第2引用例)

 第2引用例には、接触ローラ19に接触しながらテープ等をロール33に巻取るための巻取装置が記載されている。

 この巻取装置のロール33のロール軸5は、保持体4に軸受されて保持されており、この保持体4には静止ナット8が備えられており、この静止ナット8には、送りモータ6により回転駆動される送り軸7が螺合している。そして、この保持体4は、台車を介して可動であって、ロール33の直径の増加にしたがって、送りモータ6の起動により、接触ローラ19から遠ざかる方向に、枠1に沿って移動することができる。

(c)特公昭43−28412号公報(第3引用例)

 第3引用例には、カッタ22により分割して両側へ振分けた帯状シートを、液圧モータ44、46により中心駆動される巻芯に主接触ドラム26を介して巻取り、巻太りにつれて巻芯の支持位置を主接触ドラム26から離す巻取装置が記載されている。

 この巻取装置は、振分け片側毎に設けられ、夫々、シート幅方向に直角な方向にのびる床道56、58、60、62と、床道56、58、60、62に進退可能に支持される巻返しアーム36、38、40、42と、シートの巻太りにつれて巻返しアーム36、38、40、42を後退させ、巻返しアーム36、38、40、42における巻芯支持位置を主接触ドラム26から離すことが可能である圧縮空気シリンダとピストンから成る組立部分74、76とを備えている。この場合、巻返しアーム36、38、40、42は、横断的に配置される軌道50によって、ロールの幅に応じて横方向に調節自在に往復台48、52の上に坦持されている。そして、往復台48、52は、床道56、58、60、62によって、台54の上に滑動自在に装着されている。

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D本件特許出願に対する審決の内容は、次の通りです。

(a)審決の理由は、本件発明は、第1引用例、第2引用例及び第3引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明についての特許は、特許法29条2項(進歩性)の規定に違反してされたものであり、無効とすべきものである、というものである。

(b)本件特許発明と、第1引用例とを比較すると、後者の「巻軸」、「プラテンドラム」、「平行軌道部材」は、それぞれ前者の「巻芯」、「タッチローラ」、「案内レール」に相当し、

 また、後者の「軸受要素」は、平行軌道部材に沿って進退可能であって、平行軌道部材により上下方向及びウエブ幅方向すなわちシート幅方向への動きを阻止されるはめ合い部分を有し、また、巻芯にあたる巻軸11、12を支持しているので、前者の「はめ合い部材を固定した脚台」及び「巻芯支持体」に相当し、

 後者の「空圧装置」は、ウエブ(ストリップ)の巻太りにつれて前記軸受要素21、23を後退させ、該軸受要素21、23における巻軸11、12の支持位置をプラテンドラム13から離すことが可能であるので、前者の「駆動装置」に対応する。

(c)特許発明と第1引用例との一致点

 「スリッターにより分割して両側へ振分けた帯状シートを、回転駆動機構により中心駆動される巻芯にタッチローラを介して巻取り、巻太りにつれて巻芯の支持位置を上記タッチローラから離す巻取装置において、

 振分け片側毎に設けられ、夫々、シート幅方向に直角な方向にのびる案内レールと、

 上記案内レールに沿って進退可能であって、該案内レールにより上下方向及びシート幅方向への動きを阻止されるはめ合い部材を固定した脚台と、

 巻芯に対応して設けた左右一対の巻芯支持体と、

 シートの巻太りにつれて前記脚台、巻芯支持体を一体に後退させ、該巻芯支持体における巻芯支持位置をタッチローラから離すことが可能である駆動装置とを備えることを特徴とするシート分割巻取装置。」

(d)特許発明と第1引用例との相違点

 i.本件特許発明は、「案内レールに沿って進退可能であって、該案内レールにより上下方向及びシート幅方向への動きを阻止されるはめ合い部材を固定した脚台と、上記脚台に固定され、振分け片側毎にシート幅方向に設けた間隔調整台と、上記間隔調整台に摺動可能に支持され、該間隔調整台に固定可能であって、巻芯に対応して設けた左右一対の巻芯支持体」を備えているのに対し、第1引用例のものは、平行軌道部材に沿って進退可能であって、平行軌道部材により上下方向及びシート幅方向への動きを阻止されるはめ合い部分を有し、また、巻芯にあたる巻軸を支持している軸受要素を備えており、この軸受け要素は、前者でいう脚台と巻芯支持体とを一体に兼ねた機能を有するが、該軸受け要素は脚台と巻芯支持体とに分離されておらず、したがってこれらの間に設けられる間隔調整台にも欠ける点。

 ii.本件特許発明は、「シートの巻太りにつれて前記脚台、間隔調整台、巻芯支持体を一体に後退させ、該巻芯支持体における巻芯支持位置をタッチローラから離すことが可能であると共に、当該脚台、間隔調整台、巻芯支持体における進退方向への動きを制止する駆動装置」を備えているのに対し、第1引用例のものは、シートの巻太りにつれて脚台兼巻芯支持体にあたる軸受要素を一体に後退させ、該巻芯支持体における巻芯支持位置をタッチローラから離すことが可能である駆動装置にあたる空圧装置を備えているが、空圧装置が、軸受け要素における進退方向への動きを制止可能なものとはいえない点。

(e)上記相違点iについて、第3引用例には、カッタ22により分割して両側へ振分けた帯状シートを、中心駆動される巻芯に主接触ドラム26を介して巻取り、巻太りにつれて巻芯の支持位置を主接触ドラム26から離す巻取装置において、床道56、58、60、62によって、台54の上に滑動自在に装着されている往復台48、52と、往復台上に横断的に配置される軌道50によって、ロールの幅に応じて横方向に調節自在に往復台48、52の上に坦持されている巻返しアーム36、38、40、42と、巻返しアームに支持された巻芯とを備えたものが記載されている。

 そして、第3引用例に記載されたものの、「往復台」、「往復台上に横断的に配置される軌道」、「巻返しアーム」はそれぞれ本件特許発明の「脚台」、「間隔調整台」、「巻芯支持体」に相当する。

 そして、第3引用例のものは、第1引用例及び本件特許発明と同じ技術分野に属する、帯状シートの分割巻取装置に係るものであるので、これを第1引用例に適用し、第1引用例の軸受要素を、往復台、往復台上に横断的に配置される軌道、及び巻返しアームよりなる巻芯の支持構造に置き換え、往復台を、平行軌道部材に沿って進退可能であって、平行軌道部材により上下方向及びシート幅方向への動きを阻止されるように構成して、上記相違点iのようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

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(f)上記相違点iiについて判断する。

 第2引用例には、テープを巻取るロールを支持する保持体を、ロールの直径の増加にしたがって、接触ローラ19から遠ざかる方向に移動させるにあたり、この駆動機構を、保持体4に備えた静止ナット8と、静止ナット8に螺合する送り軸7と、枠1に設けられ、送り軸7を回転駆動する送りモータ6とにより構成したものが記載されている。

 この種の、静止ナットと送り軸とにより構成された動力伝達機構は、送り軸の回転運動を、静止ナットの送り軸に沿った直線運動に変換する一方、静止ナットからの直線運動は送り軸の回転運動に変換しないことにより、その送り軸への動力伝達を遮断するものであることは、機構学上周知のことであるので、第2引用例には、ロール保持体を接触ローラから離すことが可能であると共に、ロール保持体の進退方向への動きを制止する駆動装置が記載されているものと認められる。

 そして、第2引用例は、第1引用例及び本件特許発明と同じ技術分野に属する、テープ等をロールに巻取るための装置に係るものであるので、これを第1引用例に適用し、第1引用例の空圧装置を、静止ナットと、送り軸7と、送りモータ6とからなる駆動装置に置き換え、上記相違点iiのようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

E特許権者が主張する取消事由の要旨は次の通りです。

(a)取消事由1(本件発明と第1引用例記載の発明との対比における認定の誤り)

 審決は、第1引用例の空圧装置42、43について、「(第1引用例)の「空圧装置」は、ウエブ(ストリップ)の巻太りにつれて前記軸受要素21、23を後退させ、該軸受要素21、23における巻軸11、12の支持位置をプラテンドラム13から離すことが可能であるので、前者(本件発明)の「駆動装置」に対応する。」(審決6頁〜7頁)と認定したうえ、本件発明と第1引用例に記載された発明とは、「シートの巻太りにつれて前記脚台、巻芯支持体を一体に後退させ、該巻芯支持体における巻芯支持位置をタッチローラから離すことが可能である駆動装置とを備える」点で一致すると認定した。

 しかし、第1引用例の空圧装置は「圧力調整手段」として機能するものであり、本件発明の「駆動装置」に対応するものではない。

 第1引用例は、ウエブ材料をロールに巻き取るための装置、特に分割・巻取装置の改良に関し、より具体的には、巻取ロールの周縁とプラテンドラムの周縁との間の圧力を高度に制御する装置に関するものである。この目的意識のもと、第1引用例は各種の構造を採用したが、その中の1つが空圧装置であり、この空圧装置で巻取ロールとプラテンドラムとの間の圧力を制御するものである。

(b)取消事由2

 本件審決は、第3引用例の組立部分74、76について、「シートの巻太りにつれて巻返しアーム36、38、40、42を後退させ、巻返しアーム36、38、40、42における巻芯支持位置を主接触ドラム26から離すことが可能である圧縮空気シリンダとピストンからなる組立部分74、76とを備えている。」と認定し、この認定に基づいて、第1引用例に記載されたものの軸受け要素を、第3引用例に記載されたものの構造に置き換え、本件発明と第1引用例記載の発明との相違点iに係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである旨認定した。

 しかし、第3引用例の組立部分は「締め圧力制御手段」として機能するものであり、ここに、巻返しアーム36、38、40、42における巻芯支持位置を主接触ドラム26から離すという思想は存在しない。

(c)取消事由3(第1引用例と第2引用例との置換容易性についての判断の誤り)

(イ)審決は、本件発明と第1引用例記載の発明との相違点iiについて、「第1引用例の空圧装置を、第2引用例の静止ナットと、送り軸7と、送りモータ6とからなる駆動装置に置き換え、上記相違点iiのようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである」、「第1引用例の空圧装置を、第2引用例の駆動装置により置換し、空圧装置が奏するウエブの巻太りにつれて軸受要素を後退させ、巻軸の支持位置をプラテンドラムから離すという機能を第2引用例の駆動装置により奏するように置換することは、当業者が容易に想到し得たことである」と判断した。

 しかし、第1引用例の「空圧装置」が「圧力調整機構」であるのに対して、第2引用例における「静止ナットと、送り軸7と、送りモータ6とからなる駆動装置」は、ロール保持体4を移動させるための「移動機構」である。両者は、その存在意義、即ち目的において明らかに相違する構成要素である。

(ロ)しかも、審決も「ここで、上記置換により、空圧装置が奏する圧力調整機能が失われる」と認めるように、両者の置換は、第1引用例の「空圧装置」の存在意義(=圧力調整機能)を否定することにつながる。先に主張したように、第1引用例の主目的は「巻取ロールの周縁とプラテンドラムの周縁との間の圧力調整」である。上記置換により圧力調整機能が失われるならば、そもそも、第1引用例は成立し得ないこと明白である。

(ハ)この点に関し、審決は「このこと(=置換)によりウエブの巻取が不可能となるとは解されず、」と認定している。

 確かに、巻き取るという動作自体は不可能ではないということができるが、これはもはや第1引用例が意図する、そして、昨今の精密巻取が意図する巻取とはいうことができない。


 [裁判所の判断]
@裁判所は、取消事由1及び取消事由3には理由があり、審決は違法として取り消されるべきものであると結論しました。

A取消理由1に対する裁判所の判断は次の通りです。

(a)第1引用例には次の記載がある。

「さらに別の目的は、巻取ロールとプラテンドラムとの間に最小の均一圧力を維持し、それによって、均一密度のまっすぐな端面のロールを製造するために、前述の力を制御するために感度がよく正確なシステムを提供することであり、同システムは、必要に応じて均一に維持することができるより大きな圧力を上記ロールとドラムとの間に提供するよう調節可能である。」

「上記巻取ロール10eとプラテンドラム13との間に圧力を精密な程度に制御するのを達成するために、シリンダ46、47内にそれぞれピストン44、45を有する一対の空圧装置42、43が設けられている。圧力を加えられた流体が、巻軸11をプラテンドラム13に向けるように押圧するために、上記シリンダ内の右側チャンバ46a、47a内に方向づけられ、そのような流体は、たとえば手動弁50の制御下でダクト49によって上記右側チャンバ46a、47aに導かれる主導管48からの空気である。また、上記シリンダ46、47内のそれぞれの左側チャンバ46b、47bは、手動弁51の制御下で逆流体圧力を受け、手動弁51は、左側チャンバと主導管48との両方に接続された導管52に挿入されている。ピストン44、45の向い合った側の圧力の差を(弁50、51によって)制御することによって、プラテンドラム13上の巻取ロール10eの前述の圧力に関して、きわめて精密な制御を得ることができる。

 巻取ロールの重量の増大とともに、巻軸の軸受要素上の摩擦が大幅に累進的に増加する場合には、巻軸11のピストン44、45に作用する(および巻軸12の類似形式のピストンに作用する)力を累進的に増加することが有利であるが、前述のそのようなピストンは巻き取りロールをプラテンドラムから離すように押圧する傾向があることがわかった。

 これは、弁50、51、したがってピストン44、45用の自動制御手段によって自動的に行うことができる。たとえば、旋回シャフト26に動作的に接続されたカム53(図1)は、カムフォロアー55を有する適切な弁制御手段54によって弁50、51にも動作的に接続され、それによって上記の結果が得られる。」

(b)以上の記載によれば、第1引用例の「空圧装置」は、巻取ロールとプラテンドラムとの間の圧力を均一に維持するための装置であって、巻軸を能動的に移動させたうえ、その位置で巻軸の進退方向への動き(振動)を制止する機能を有するものではないと認められる。第1引用例のものにおいて、巻軸をプラテンドラムに向かって及びこれから離れるように移動させる手段は、平行な、又は下方に傾斜した、あるいは下方に湾曲した一対の軌道部材を含むガイド装置である。

(c)以上の検討結果によると、本件発明の駆動装置は、能動的に、脚台、間隔調整台、巻芯支持体を一体に前進又は後退させ、かつ、進退方向への動きを制止するものであるのに対し、第1引用例の「空圧装置」は、巻取ロールとプラテンドラムとの間の圧力を精密に制御するための装置であって、巻軸を能動的に後退させ又は進退方向への動きを制止するものではない。

 したがって、審決が、「後者(第1引用例)の「空圧装置」は、ウエブ(ストリップ)の巻太りにつれて前記軸受要素21、23を後退させ、該軸受要素21、23における巻軸11、12の支持位置をプラテンドラム13から離すことが可能であるので、前者(本件発明)の「駆動装置」に対応する」との認定に立って、本件発明と第1引用例に記載された発明とが「シートの巻太りにつれて前記脚台、巻芯支持体を一体に後退させ、該巻芯支持体における巻芯支持位置をタッチローラから離すことが可能である駆動装置とを備えること」で一致する、と認定したことは誤りであるというべきである。

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(d)被告は、第1引用例には「巻取ロールの重量の増大とともに、巻軸の軸受要素上の摩擦が大幅に累進的に増加する場合には、巻軸11のピストン44、45に作用する(および巻軸12の類似形式のピストンに作用する)力を累進的に増加することが有利であるが、前述のそのようなピストンは巻き取りロールをプラテンドラムから離すように押圧する傾向があることがわかった。」(甲第9号証5欄51行〜59行・翻訳文8頁3〜7行)と記載されていることから、第1引用例の空圧装置が、巻取ロールの重量の増大、すなわち巻き太りにつれて、巻軸11の支持位置(巻芯支持位置)をプラテンドラム13から離すように巻軸11及び巻取ロールを押圧するものであることは明らかであると主張している。

 しかしながら、被告の摘記した箇所の直後には、「これは、弁50、51、したがってピストン44、45用の自動制御手段によって自動的に行うことができる。たとえば、旋回シャフト26に動作的に接続されたカム53(図1)は、カムフォロアー55を有する適切な弁制御手段54によって弁50、51にも動作的に接続され、それによって上記の結果が得られる。」(甲第9号証5欄59行〜66行(翻訳文8頁7行〜11行)と記載されており、この記載及び一対の軌道部材を含むガイド装置の前示のとおりの機能を参酌すれば、被告の摘記した部分は、巻取ロールの重量の増大は径の増大と等価であるから、巻軸はガイド装置の機能によってプラテンドラムから離れるように移動し、これとともに旋回シャフトが回転するが、この回転に応じてカム及びカムフォロアーを介して弁制御手段により弁を制御し、ピストンに加わる圧力を変化させるものであり、重量の増大とともに、摩擦力が大幅に増加すると、ピストンに加わる圧力は、巻き取りロールをプラテンドラムから離す方向に働くことを示したものであると理解される。空圧装置は、巻取ロールとプラテンドラムとの間の圧力を均一に維持するための装置であり、巻軸を後退させ又は進退方向への動きを制止するものではない。

B取消理由3に対する裁判所の判断は次の通りです。

(a)原告は、第1引用例の「空圧装置」は「圧力調整機構」であるのに対して、第2引用例における「静止ナットと、送り軸7と、送りモータ6とからなる駆動装置」はロール保持体4を移動させるための「移動機構」であり、両者は、その存在意義、すなわち目的において明らかに相違する構成要素であるから、両者を置換し得るとした審決の判断は誤りであると主張する。

 前示のとおり、第1引用例の空圧装置は、巻取ロールとプラテンドラムとの間の圧力を精密に制御して均一に維持する機能を有し、巻軸を能動的に動かす機能を有するものではないのに対し、第2引用例における駆動装置は、圧力調整機構としての機能を持たない能動的な移動機構であるから、特段の事情がない限り、両者を置換することは考えられないことである。

 すなわち、第1引用例に記載された発明は、巻取ロールとプラテンドラムとの間の圧力を均一に維持することを目的とし、この圧力を精密に制御するべく空圧装置を採用したのであるから、圧力調整機能を失うような置換は、発明本来の目的を放棄することとなる。この点で、第1引用例に記載された発明の空圧装置を第2引用例の駆動装置に置換することには、阻害要因があるというべきである。

(b)被告は、本件発明は、圧力調整機能を奏するための構成を明らかに意図的に排除した巻取装置に関するものであるから、置換容易性の判断に際して、圧力調整機能が失われることは考慮されるべきでないと主張する。

 しかしながら、巻取装置において何らかの圧力調整手段を設けることが当業者にとって自明であれば、そのような圧力調整手段は特許請求の範囲には記載されないのがむしろ普通というべきであるから、本件発明の特許請求の範囲に圧力調整手段が記載されていないという一事をもって、本件発明から圧力調整機能を奏するための構成が意図的に排除されていると認めることはできず、他に、本件明細書中に圧力調整手段を意図的に排除していると認めるような記載はない。したがって、置換容易性の判断に際して、圧力調整機能が失われることは考慮されるべきでないとの主張は、採用することができない。

(c)以上のとおりであるから、第1引用例記載の発明の空圧装置を、第2引用例に記載された駆動装置により置換して相違点iiに係る本件発明の構成とすることが容易であるとした審決の判断は、誤りである。よって、原告主張の取消事由3は理由がある。



 [コメント]
@特許発明中の駆動装置及び引用発明中の空圧装置は、巻芯へ巻き付けられるシートの巻き太りに対応して、巻き付けられたシートの外面に当てたタッチローラから離れる方向に巻芯支持台を動かすという点で、作用の共通点がありますが、前者は、巻芯支持台をタッチローラから離すために後退させるものであり、他方、後者は、巻き付けられたシートとタッチローラとの当接圧力を一定に維持するものです。

 副引用例には、特許発明の駆動装置に対応する技術が開示されています。

A進歩性審査基準によれば、主引用発明及び副引用発明との間で作用・機能が共通することは、当業者が両者を結びつけて特許出願人の発明に至る動機付けが存在するとされています。しかしながら、本事例の主引用例の空圧装置は、巻芯に巻き付けられたシートを、巻き太りに応じて、タッチローラ相当部分から離れる方向へ動かすだけであって、実際に離すのではないので、作用の共通性は認められないというべきです。

→進歩性の判断(作用の共通性に関して)
 [特記事項]
 
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