[事件の概要] |
@事件の要点 本件は、特許異議の申立てに基づく取消決定の取消訴訟です。 争点は、発明該当性の判断の誤りの有無です。 A特許庁における手続の経緯等 (a)原告は、名称を「ステーキの提供システム」とする発明につき、平成26年6月4日(以下、「本願出願日」という。)に特許出願をし(特願2014−115682号)、平成28年6月10日、その設定登録を受けた(特許第5946491号。「本件特許」という)。 (b)被告補助参加人は、平成28年11月24日、本件特許の請求項1〜6について特許異議申立てをしたところ(異議2016−701090号。甲18)、原告は、平成29年9月22日付けで特許請求の範囲を訂正する訂正請求をした(以下、「本件訂正」という)。 (c)特許庁は、同年11月28日、「特許第5946491号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1〜6]について、訂正することを認める。特許第5946491号の請求項1〜6に係る特許を取り消す。」との決定をし、その謄本は、同年12月7日、原告に送達された。 [特許発明の内容] {発明の構成} 【請求項1】(本件特許発明1) A お客様を立食形式のテーブルに案内するステップと、お客様からステーキの量を伺うステップと、伺ったステーキの量を肉のブロックからカットするステップと、カットした肉を焼くステップと、焼いた肉をお客様のテーブルまで運ぶステップとを含むステーキの提供方法を実施するステーキの提供システムであって、 B 上記お客様を案内したテーブル番号が記載された札と、 C 上記お客様の要望に応じてカットした肉を計量する計量機と、 D 上記お客様の要望に応じてカットした肉を他のお客様のものと区別する印しとを備え、 E 上記計量機が計量した肉の量と上記札に記載されたテーブル番号を記載したシールを出力することと、 F 上記印しが上記計量機が出力した肉の量とテーブル番号が記載されたシールであることを特徴とする、 G ステーキの提供システム。 {発明の目的} 【0002】 飲食店において提供されるステーキは,ゆったりと椅子に座り,会話を楽しみながら食すのが一般的であり,どうしても場所代,人件費がかかり,高価なものとなっていた。また,提供されるステーキの大きさは,定量で決まっていたり,選べる場合であっても,100g,150g,200gと言ったように,その量が決められており,お客様が,自分の好みの量を,任意に思う存分食べられるものではなかった。 【0003】 本発明は,上述した背景技術が有する課題に鑑み成されたものであって,その目的は,お客様に,好みの量のステーキを,安価に提供することにある。 {発明の作用} [0010] お客様を案内するテーブルには,図1に示したように,テーブル番号が付されていると共に,該テーブル番号を記載した札,例えば図示したように,22番のテーブルTに22番の札Hを置いておく。 テーブルに案内したお客様に対し,先ず接客スタッフは,ステーキ以外の注文をメニュー表の中から伺う。メニュー表には,ドリンク,サラダ,ライス程度を掲載し,メインであるステーキを主に食べて頂くものとする。ステーキ以外の注文を伺い,テーブル番号が示されたオーダー票を作成した後,お客様に,上記テーブル番号を記載した札Hを持って,カットステージまで移動して頂く。 [0011] カットステージにおいては,お客様からテーブル番号が記載された札Hを受け取ると共に,ステーキの種類及び量,例えばサーロイン400g,或いはリブロース350gといった,お客様が要望するステーキの種類及び量をグラム単位で伺う(中略)。 [0012] ステーキには,予め種類に応じてグラム単価,例えばサーロイン1グラム6円(税抜),リブロース1グラム5円(税抜)といったように価格を決めておき,上記計量機が示した数値,例えばリブロース362gの場合は,362(g)×5(円/g)=1,810(円)をステーキAの料金とする。 そして,計量機から打ち出された,ステーキの種類及び量,価格,テーブル番号が記された2枚のシールの内の一枚をステーキのオーダー票とし,先のステーキ以外のオーダー票に貼着することにより保管し,お客様には,案内したテーブルに戻って頂く。 [0013] お客様の要望に応じてカットした肉Aには,図3に示したように,先の計量機から打ち出されたもう一枚のステーキの種類及び量,テーブル番号等が記されたシールSを付し,他のお客様のものと混同が生じない状態として,焼きのステップに移す。なお,この混同が生じないようにカットした肉Aに付すシールSに変えて,テーブル番号が記載された旗をカットした肉Aに刺す等の方策により,混同を防止する印しとしても良い(後略)。 {発明の効果} 【0016】 本発明に係るステーキの提供システムは,上述したものであり,特に,お客様が要望する量のステーキを,ブロックからカットして提供するものであるため,お客様は,自分の好みの量のステーキを,任意に思う存分食べられるものとなる。 また,お客様の要望に応じてカットした肉を計量機に乗せ,お客様にその量をご確認頂くと共に,グラム単位で料金を算出しているため,このステーキの提供システムは,明朗な料金設定のものとなる。 また,お客様は,立食形式で提供されたステーキを食するものであるため,少ない面積で客席を増やすことができ,またお客様の回転,即ち客席回転率も高いものとなる。 更に,お客様を案内したテーブルに番号を記載した札を置き,該札を持ってカットステージまでお客様に移動して頂き,そこで好みの量のステーキを伺う,また,お客様を案内するテーブルに予め多くのフォークとナイフが用意しておく,更にはステーキ以外のメニューをドリンク,サラダ,ライス程度にしぼる等の方策により,スタッフへの負担が軽減でき,少ない人数での接客作業を実現できる。 また,肉を焼くステップが,遠赤外線が多く出るガス又は電気で熱した溶岩及び/又は炭火焼きであり,該ガス又は電気で熱した溶岩及び/又は炭火で焼いた肉を電磁誘導加熱により所定温度に加熱した鉄皿に乗せ,お客様のテーブルまで運ぶ,また,お客様を案内するテーブルに予め温かいステーキソースが入れられたポットを用意しておく等の方策により,お客様には,いつまでも温かい状態でステーキを食べて頂くことができる。 上記したようなことから,本発明に係るステーキの提供システムによれば,お客様に,好みの量のステーキを,美味しく,安価に提供することができるものとなる。 [取消決定の内容] (1) 本件特許発明1の発明該当性について(取消理由1) ア 本件特許発明1は、特許請求の範囲の記載及び本件明細書の記載(【0001】〜【0003】、【0005】、【0016】)からすると、「お客様に、好みの量のステーキを、安価に提供する」ことを「課題」とし、「お客様を立食形式のテーブルに案内するステップと、お客様からステーキの量を伺うステップと、伺ったステーキの量を肉のブロックからカットするステップと、カットした肉を焼くステップと、焼いた肉をお客様のテーブルまで運ぶステップとを含むステーキの提供方法」を「課題を解決するための技術的手段の構成」として採用することにより、お客様が要望する量のステーキを、ブロックからカットして提供するものであるため、お客様は、自分の好みの量のステーキを、任意に思う存分食べられるものとなり、また、お客様は、立食形式で提供されたステーキを食するものであるため、少ない面積で客席を増やすことができ、またお客様の回転、即ち客席回転率も高いものとなって、「お客様に、好みの量のステーキを、安価に提供することができる」という「技術手段の構成から導かれる効果」を奏するものである。 そうすると、この課題及びこの効果を踏まえ、本件特許発明1の全体を考察すると、本件特許発明1の技術的意義は、お客様を立食形式のテーブルに案内し、お客様が要望する量のステーキを提供するというステーキの提供方法を採用することにより、お客様に、好みの量のステーキを、安価に提供するという飲食店における店舗運営方法、つまり経済活動それ自体に向けられたものということができる。 イ 本件特許発明1は、「上記お客様を案内したテーブル番号が記載された札と、上記お客様の要望に応じてカットした肉を計量する計量機と、上記お客様の要望に応じてカットした肉を他のお客様のものと区別する印しとを備え、上記計量機が計量した肉の量と上記札に記載されたテーブル番号を記載したシールを出力することと、上記印しが上記計量機が出力した肉の量とテーブル番号が記載されたシールであることを特徴とする、ステーキの提供システム」と特定され、「札」、「計量機」、「印し」及び「シール」という物を、その構成とするものである。 しかし、「札」の本来の機能とは、ある目的のために必要な事項を書き記したり、ある事を証明することにあるところ、本件特許発明1の「札」も、お客様を案内したテーブルのテーブル番号が記載されており、他のお客様と混同しないように、あるいは案内したお客様のテーブル番号を明らかにするために札にテーブル番号を記載したものである。 また、「計量機」の本来の機能とは、長さや重さなど物の量をはかり、その物の量を表示することにあるところ、本件特許発明1の「計量機」も、お客様の要望に応じてカットした肉の重さをはかって、その肉の重さをシールに表示するものである。 また、「印し(これを具体化したものが「シール」である。)」の本来の機能とは、他と紛れないように見分けるための心覚えしたり、あるいはあることを証明することにあるところ、本件特許発明1の「印し(シール)」も、お客様の要望に応じてカットした肉を他のお客様のものと区別するために、シールに計量機が出力した肉の量とテーブル番号を記載したものである。 そうすると、本件特許発明1において、これらの物は、それぞれの物が持っている本来の機能の一つの利用態様が示されているのみであって、これらの物を単に道具として用いることが特定されるにすぎないから、本件特許発明1の技術的意義は、「札」、「計量機」、「印し」及び「シール」という物自体に向けられたものということは相当でない。 ウ 本件特許発明1は、「ステーキの提供システム」という「システム」を、その構成とするものである。 しかし、本件特許発明1における「ステーキの提供システム」は、本件特許発明1の技術的意義が、前記のとおり、経済活動それ自体に向けられたものであることに鑑みれば、社会的な「仕組み」(社会システム)を特定しているものにすぎない。 [取消理由の内容] 本件特許発明1の技術的意義は、単なる「飲食店における店舗運営方法、つまり経済活動それ自体に向けられたもの」ではなく、本件特許発明1の構成要件B〜Fの構成、特に構成要件E、Fの構成によって生じる「札」から「計量機」へ、「計量機」から「印し」又は「シール」へと有機的に伝達された情報(テーブル番号情報と、お客様が要望する肉の量という情報等とが組み合わされた複合情報)を店舗スタッフが認識し、それによって、お客様にオーダーカットステーキを提供する際の提供ミス(他のお客様のものとの混同)を抑制することができる。そして、そのことから、「スタッフへの負担が軽減でき、少ない人数での接客作業を実現できる」(本件明細書【0016】)ために、「お客様に、好みの量のステーキを、安価に提供することができる」(本件明細書【0003】、【0005】等)、という作用効果を奏する。 イ 本件特許発明1は、前記アのとおり、カットステージまで移動していただいたお客様からステーキの種類及び量を伺い、「計量機」によって、お客様のテーブル番号という情報と、お客様の要望する肉の量という情報とが組み合わされるというものである。 そうすると、本件特許発明1の「札」は、単に「テーブル番号を記載したもの」ではなく、お客様とそのお客様が着席したテーブルとを結び付ける機能を有しており、お客様が要望する肉の量という情報と有機的に組み合わされる一つの情報単位を担っているものであるから、「札」本来の機能の一つの利用態様が示されているのみではない。また、本件特許発明1の「計量機」は、単に「長さや重さなど物の量をはかり、その物の量を表示する」だけではなく、お客様が案内されたテーブル番号情報とそのお客様が要望する肉の量という情報とを結び付けることにより、そのテーブルに着席した「お客様」とその「お客様が要望する肉の量」とを1対1で対応させるという特別な役割を担っているものであるから、「計量機」本来の機能の一つの利用態様が示されているのみではない。さらに、本件特許発明1の「印し」又は「シール」は、「計量機」によって有機的に組み合わせられた複合情報(テーブル番号情報と、お客様が要望する肉の量の情報等からなる、特定のお客様に対応する情報)を店舗スタッフに伝達するための担体として機能するもの(本件明細書【図3】)であるから、「印し」又は「シール」本来の機能の一つの利用形態が示されているのみではない。 このように、本件特許発明1は、構成要件B〜Fの「札」、「計量機」、「印し」又は「シール」という物を、課題を解決するための技術的手段の構成としており、これらは、本来の機能の一つの利用形態が示されているのみではなく、それぞれ課題を解決するための特別な役割を担っている。 ウ 本件特許発明1は、「札」、「計量機」、「印し」又は「シール」という多くの構成部分が集まっており、それら各構成部分の間を、構成要件E、Fの構成とすることによって、テーブル番号情報(又は特定のお客様に対応する情報)が伝達されるものであって、各構成部分が特定のテーブル番号情報の伝達経路で結ばれているものであり、各構成部分がそのテーブル番号情報を利用できるから、各構成部分の間に緊密な統一がある。そして、本件特許発明1は、各構成部分の間をテーブル番号情報(又は特定のお客様に対応する情報)が伝達されることによって、初めて構成要件Aの第1のステップである「お客様を立食形式のテーブルに案内するステップ」から、最終のステップである「焼いた肉をお客様のテーブルまで運ぶステップ」までの間においてテーブル番号情報(又は特定のお客様に対応する情報)が確実に伝達されることとなり、お客様の要望に応じてカットした肉を焼いたステーキを「他のお客様のものと混同が生じない」ように提供することができる、という作用効果を奏するものであるから、各構成部分のいずれかが欠けてもその目的を達成することができないものであって、部分と全体とが必然的関係を有している。したがって、本件特許発明1におけるテーブル番号情報の伝達は「有機的」である。 また、本件特許発明1は、前記アのとおり、カットステージまで移動していただいたお客様からステーキの種類及び量を伺い、「計量機」によって、お客様のテーブル番号という情報と、お客様が要望する肉の量という情報とが組み合わされるものであり、組み合わされた複合情報は、単にお客様のテーブル番号を示すのみならず、特定のお客様に対応する情報であって、オーダーカットステーキを提供する際の人為的ミスを抑制するという本件特許発明1の課題解決のために必須な情報であるから、普通と異なる特別な情報、すなわち、「特殊な情報」である。したがって、その伝達は、「特殊な情報の伝達」である。 エ 以上のとおり、本件特許発明1の技術的意義は、経済活動それ自体に向けられたものではなく(ましてや単なる人の精神活動や人為的な取決めそれ自体に向けられたものでもなく)、前提とする技術的課題、その課題を解決するための技術的手段の構成及びその構成から導かれる効果等の技術的意義に照らし、全体として考察した結果、「札」、「計量機」、「印し」又は「シール」という「物」自体に向けられており、「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当する。 決定には、本件特許発明1の「発明」該当性の判断に誤りがある。 取消理由2・取消理由3…省略 |
[裁判所の判断] |
@裁判所は、本件特許発明1の構成要件Aに関して次のように評価しました。 (a)構成要件Aは、「お客様を立食形式のテーブルに案内するステップと,お客様からステーキの量を伺うステップと,伺ったステーキの量を肉のブロックからカットするステップと,カットした肉を焼くステップと,焼いた肉をお客様のテーブルまで運ぶステップとを含むステーキの提供方法を実施する」というものであり、これにより、 “お客様が要望する量のステーキを、ブロックからカットして提供するものであるため、お客様は、好みの量のステーキを、食べられる。また、お客様は、立食形式で提供されたステーキを食するものであるため、少ない面積で客席を増やすことができ、客席回転率も高いものとなる。(【0005】、【0016】)”という効果を奏する。 (b)他方、これらの「ステーキ提供方法の実施に係る構成…は、『ステーキの提供システム』として実質的な技術的手段を提供するものであるということはできない。」と解される。 何故ならば、「本件明細書には、これらのステップについて、 『スタッフは、・・・次の新たなお客様をテーブルにご案内する。』(【0015】)、 『カットステージにおいては、お客様から・・・お客様が要望するステーキの種類及び量をグラム単位で伺う。』、 『図2に示したように、お客様から伺ったステーキの量を肉のブロックBからカットし』(【0011】)(なお、図2には、人がステーキの肉をカットしている様子が記載されている。)、 『お客様の要望に応じてカットした肉Aには、・・・シールSを付し、・・・焼きのステップに移す。』(【0013】)、 『焼かれ、加熱した鉄皿に乗せられたステーキを、・・・保管したオーダー票でその商品を確認し、オーダー票と共にお客様のテーブルに運ぶ。』(【0014】) と記載されており、人が行うことが想定されている。そして、本件明細書には、これらのステップが機械的処理によって実現されることを示唆する記載はなく、また、そのようにすることが技術常識であると認めるに足りる証拠はない。 そうすると、本件ステーキ提供方法は、ステーキ店において注文を受けて配膳をするまでに人が実施する手順を特定したものであると認められる。」からである。 A裁判所は、本件特許発明1の構成要件B〜Gに関して次のように評価しました。 (a)構成要件B〜Gを採用したことにより次の効果を奏する。 (i)「まず、『計量機』は、お客様の要望に応じてカットした肉を計量し、計量した肉の量と『札』に記載されたテーブル番号とを記載した『シール』を出力し、この『シール』はカットした肉を他のお客様の肉と区別するものであるので、この『シール』をカットした肉に付すこと(肉を乗せた皿にシールを貼ることを含む。)により、他のお客様の肉と混同が生じない状態として焼きのステップに移すことができる(【0013】、【図3】)。 また、上記『シール』をステーキのオーダー票として保管し、焼いた肉をお客様のテーブルに運ぶ際に、このオーダー票で商品を確認することができる(【0012】、【0014】)。」 (ii)「以上により、本件特許発明1は、お客様に、好みの量のステーキを、安価に提供することができる(【0005】【0016】)。」 (iii)「本件計量機等は、「札」、「計量機」及び「シール(印し)」といった特定の物品又は機器(装置)であり、「札」に「お客様を案内したテーブル番号が記載され」、「計量機」が、「上記お客様の要望に応じてカットした肉を計量」し、「計量した肉の量と上記札に記載されたテーブル番号を記載したシールを出力」し、この「シール」を「お客様の要望に応じてカットした肉を他のお客様のものと区別する印し」として用いることにより、お客様の要望に応じてカットした肉が他のお客様の肉と混同することを防止することができるという効果を奏するものである。 そして、札によりテーブル番号の情報を正確に持ち運ぶことができるから、計量機においてテーブル番号の情報がお客様の注文した肉の量の情報と組み合わされる際に、他のテーブル番号(他のお客様)と混同が生じることが抑制されるということができ、「札」にテーブル番号を記載して、テーブル番号の情報を結合することには、他のお客様の肉との混同を防止するという効果との関係で技術的意義が認められる。また、肉の量はお客様ごとに異なるのであるから、「計量機」がテーブル番号と肉の量とを組み合わせて出力することには、他のお客様の肉との混同を防止するという効果との関係で技術的意義が認められる。さらに、「シール」は、本件明細書に「オーダー票に貼着」(【0012】)、「カットした肉Aに付す」(【0013】)と記載されているとおり、お客様の肉やオーダー票に固定することにより、他のお客様のための印しと混じることを防止することができるから、シールを他のお客様の肉との混同防止のための印しとすることには、他のお客様の肉との混同を防止するという効果との関係で技術的意義が認められる。このように、「札」、「計量機」及び「シール(印し)」は、本件明細書の記載及び当業者の技術常識を考慮すると、いずれも、他のお客様の肉との混同を防止するという効果との関係で技術的意義を有すると認められる。 他方、他のお客様の肉との混同を防止するという効果は、お客様に好みの量のステーキを提供することを目的(課題)として、「お客様からステーキの量を伺うステップ」及び「伺ったステーキの量を肉のブロックからカットするステップ」を含む本件ステーキ提供方法を実施する構成…を採用したことから、カットした肉とその肉の量を要望したお客様とを1対1に対応付ける必要が生じたことによって不可避的に生じる要請を満たしたものであり、このことは、外食産業の当業者にとって、本件明細書に明示的に記載されていなくても自明なものということができる。このように、他のお客様の肉との混同を防止するという効果は、本件特許発明1の課題解決に直接寄与するものであると認められる。」 B裁判所は、上記の事柄より、本件特許発明1の技術的意義を次のように解釈しました。 「以上によると、本件特許発明1は、ステーキ店において注文を受けて配膳をするまでの人の手順(本件ステーキ提供方法)を要素として含むものの、これにとどまるものではなく、札、計量機及びシール(印し)という特定の物品又は機器(装置)からなる本件計量機等に係る構成を採用し、他のお客様の肉との混同が生じることを防止することにより、本件ステーキ提供方法を実施する際に不可避的に生じる要請を満たして、「お客様に好みの量のステーキを安価に提供する」という本件特許発明1の課題を解決するものであると理解することができる。」 C裁判所は、上記に基づいて、本件特許発明の発明該当性に関して次のように判断しました。 「本件特許発明1の技術的課題、その課題を解決するための技術的手段の構成及びその構成から導かれる効果等の技術的意義に照らすと、本件特許発明1は、札、計量機及びシール(印し)という特定の物品又は機器(本件計量機等)を、他のお客様の肉との混同を防止して本件特許発明1の課題を解決するための技術的手段とするものであり、全体として『自然法則を利用した技術的思想の創作』に該当するということができる。」 C裁判所は、被告らの主張について次の見解を示しました。 (a)被告らは、本件特許発明1には、「札」から「計量機」へ、「計量機」から「印し」又は「シール」へと「テーブル番号」を伝達させる工程や、この「テーブル番号」を本件特許発明1において特定されている各ステップの間で伝達するための工程は明示的に存在せず、例えば、「札」のテーブル番号を計量機に情報として伝達する主体が何であるのかは、特許請求の範囲において何ら特定されていないなどと主張する。 しかし、前記のとおり、本件特許発明1は、「札」に「お客様を案内したテーブル番号が記載され」、「計量機」が、「上記お客様の要望に応じてカットした肉を計量」し、「計量した肉の量と上記札に記載されたテーブル番号を記載したシールを出力」し、この「シール」を「お客様の要望に応じてカットした肉を他のお客様のものと区別する印し」として用いることにより、お客様の要望に応じてカットした肉が他のお客様の肉と混同が生じないようにすることに、その技術的意義がある。本件ステーキ提供方法の各ステップ間で、誰が、どのような方法によりテーブル番号を伝達するのかということは、上記技術的意義との関係において必須の構成ということはできないから、特許請求の範囲において、上記主体や工程に係る構成が特定されていないことは、本件特許発明1の発明該当性についての前記判断を左右するものではない。 (b)被告らは、本件特許発明1において、「テーブル番号」は、その番号が「テーブル」に割り当てられており、お客様がそのテーブル番号のテーブルにおいてステーキを食べるという人為的な取決めを前提に初めて意味を持つものであるから、そのようなテーブル番号を含む情報が伝達されるからといって、本件特許発明1の技術的意義が自然法則を利用した技術的思想として特徴付けられるものではないなどと主張する。 しかし、お客様がそのテーブル番号のテーブルにおいてステーキを食べることが人為的な取決めであることと、そのテーブル番号を含む情報を本件計量機等により伝達することが自然法則を利用した技術的思想に該当するかどうかとは、別の問題であり、前者から直ちに後者についての結論が導かれるものではない。そして、本件計量機等が、他のお客様の肉との混同を防止して本件特許発明1の課題を解決するための技術的手段として用いられており、本件特許発明1が「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当することは、前記)のとおりである。 (c)被告らは、本件特許発明1において、特定のお客様が要望する量の肉と他のお客様の肉との混同が生じないのは、「テーブル番号」を「キー情報」として「お客様」と「肉」とを1対1に対応付けたことによるものであって、「肉の量」そのものとは何らの関係がないなどと主張する。 確かに、本件明細書には、「この混同が生じないようにカットした肉Aに付すシールSに変えて、テーブル番号が記載された旗をカットした肉Aに刺す等の方策により、混同を防止する印しとしても良い。」(【0013】)と記載されており、「テーブル番号」を「キー情報」として「お客様」と「肉」とを1対1に対応付けるという技術的思想をうかがうことができる。 しかし、前記のとおり、肉の量は、お客様ごとに異なるものである。そして、本件明細書には、「計量機から打ち出された、ステーキの種類及び量、価格、テーブル番号が記された2枚のシールの内の一枚をステーキのオーダー票とし、先のステーキ以外のオーダー票に貼着することにより保管し」(【0012】)、「焼かれ、加熱した鉄皿に乗せられたステーキを、ライス等の他のオーダー品と共に・・・、保管したオーダー票でその商品を確認し、オーダー票と共にお客様のテーブルに運ぶ」(【0014】)ことが記載されており、肉の量を記載したシールによって他のお客様の肉との混同が生じていないことを確認することが記載されている。 そうすると、本件特許発明1は、本件訂正によりその技術的範囲に含まれないこととなった「テーブル番号が記載された旗をカットした肉Aに刺す」ことを混同防止の印しとする方法とは異なり、計量機が出力したシールに記載された肉の量とテーブル番号という複数の情報を合わせて利用して、他のお客様の肉との混同を防止するものということができるから、肉の量の情報が他のお客様の肉との混同を防止するという効果に寄与しないものとはいえない。 |
[コメント] |
@特許出願の対象は、特許法上の発明でなければならず、発明該当性を満たさないときには、審査官による審査手続きにおいて、当該特許出願は拒絶されます。 A特許法上の発明の要件は、「自然法則を利用した技術的思想の創作であって高度のもの」であることです(特許法第2条第1項)。 (a)発明ではないものの典型例として、いわゆる永久機関があります。例えば発明者が自然法則を間違って認識しているために、発明者が意図する目的・効果を実現できず、何の役にも立たないものです。 (b)これに対して、創作が本質的に“単なる人の精神活動、抽象的な概念や人為的な取り決め”に向けられているものも、発明該当性がありません。 こうしたものの中には、社会の役に立つものもあります。例えば心理学の法則を利用した広告方法などです。利用しているのが“自然法則”ではないので、発明として成立しません。 →発明該当性について B本事案のステーキの提供方法は、顧客の要望に応じた量の肉をカットする、など、人為的な取り決めを前提とするものです。しかしながら、顧客の要望に応じてカットした肉を間違いなく注文した人に届けるために、カットした肉を計量する計量機に、肉の量と顧客のテーブル番号などを記載したシールを目印として出力させ、他の顧客が注文した肉との混同を防ぐという効果を達成しています。肉の量・テーブル番号を表示するシールを出力させるという機能は、単なる人為的な取り決め以上のものであり、発明該当性が認められました。 |
[特記事項] |
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