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判例紹介
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●昭和31年(行ナ)第18号


発明のカテゴリーを超えた発明の同一性/発明の同一/先願主義

 [事件の概要]
@原告(特許出願人)は、大正10年法の下で、「放射作用を遮断する方法」について特許出願をしましたが、拒絶査定を受けたので当該査定に対して審判を請求するとともに明細書全文を訂正しました。しかしながら、特許庁は請求は成り立たない旨の審決をしました。審決の理由は、原告が本件特許出願と同日にし、その後に特許となった「放射線遮蔽用硝子綿」の特許出願の発明と本件発明とが同一であり、従って本件特許出願は先願主義の規定により特許すべきでないということです。

A本件発明の内容

 特許請求の範囲に記載された発明は、「鉛硝子を以て造つた硝子短繊維を其の繊維が雑多の方向に交錯する状態に於て展延した展綿又は氈版を用いて、所要被護体を覆装することを特徴とする放射作用を遮蔽する方法」です。

 本件発明の効果は、「本方法により鉛硝子短繊維を適用すると、金属版を張る場合に比し外観優美にして、広い範囲に亘り、各種の物品にこれを応用するに適し、しかもその遮蔽性能に関し、鉛硝子はその成分の二割内外の鉛分を含有するに過ぎないから、遮蔽能もまた鉛に比して五分の一内外に低下すべき筈であるが、実験によれば、はるかそれ以上の能力を有するものと認められるが、その理由は鉛硝子を繊維状となすことによつて、鉛の分布を平均にし、かつ鉛硝子の表面積を増大する結果、硝子中に混存する鉛の複雑なる反対面よりする乱反射による遮蔽能力の増加に存するものと考えられる。」ということです。

A同日にした他の特許出願の内容

(A)特許請求の範囲に記載された発明は、「本文に詳記した如く鉛硝子を以て造つた硝子短繊維を其の繊維が雑多の方向に交錯する状態に於て展延した放射線遮蔽用硝子綿」です。

(B)発明の効果は、次の通りです。

ア.本発明は鉛硝子を原料として硝子短繊維を製造することにより、前陳既知の一般性能以外に、鉛の特性を利用して、短波X線又はラヂウム其の他原子放射線の遮蔽用に適せしめたことを特徴とするものである。

イ.元来鉛等の重金属の類が前掲放射線に対して遮蔽能を有することは周知の性質であるが、単なる鉛板の遮蔽作用は吸収に依る放射線の不透過を主とするものである。

ウ.これに反して、繊維方向が錯雑した硝子短繊維即ちその展綿又は氈板等は複雑な反射面を有して、所謂乱反射の作用をなすから、本発明の放射線遮蔽用硝子綿においては、単に鉛分の存在による不透過性以外に、反射作用によってもまた遮蔽能を示す点において特殊の効果を有するものである。


 [裁判所の判断]
@裁判所は、本件特許出願に係る発明の内容と、引用例の発明とが同一内容のもので、同一の特許請求の範囲を有しているものと解されるから、本件特許出願は拒絶されるべきと判断しました。その理由は次の通りです。

「両者はひとしく、一定の用途に供せられる新規な物について、一は用途の面から立言し、他は物の面から立言したのみで(ある)。」

Aまた原告が、本件出願の発明と引用特許発明とが技術的内容について同一性を有することを認めつつも、一方は方法として表現し、他方は物として表現したものであるから、異別の二発明として双方とも特許せられるべきと主張していたことに関して、裁判所は、次のように判断しました。

「方法とは、一定の目的に向けられた系列的に関連のある数個の行為または現象によつて成立するもので、必然的に経時的な要素を包含するものと解すべきであるが(方法の逐次性)、先にも認定したように、被護体を覆被するについては何等格別の方法をも開示しない本件出願の発明は、この経時的な要素を缺き、これを方法の発明となすことはできない。」


 [コメント]
 物の発明と方法の発明との間で発明の同一性を認定した過去の判例として紹介しました。一定の用途(使い方)を有する特定構造の物の発明と、特定構造の物をついて一定の使い方をする方法の発明とは、発明の実施態様において共通します。従って両発明にダブルパテント排除の原則が働き、先願主義が適用されるということは、納得できる結論です。


 [特記事項]
 
 
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