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判例紹介
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●昭和34年(行ナ)第13号


顕著な効果/選択発明/進歩性

 [事件の概要]
@原告(特許出願人)は、人などの温血動物に対して毒性の少ない殺虫剤に関して特許出願をしたところ、引用例から容易に想到し得る(現行法にいう進歩性違反)として拒絶査定を受けたので、審判を請求し、請求棄却審決に対して本訴を提訴しました。

A本件の請求の範囲には次のことが記載されていました。
 「0―0―ヂメチル―0―4―ニトロ―3―クロルフエニル―チオフオスフエートを含有せしめたことを特徴とする温血動物に対し毒性の極めて少い殺虫剤」

B引用例の開示内容は次の通りです。
 引用例には、本願発明の殺虫剤の主成分である4―ニトロ―3―クロルフエニル化合物は記載されていない。
 引用例の実施例には4―ニトロ―2―クロルフエニル化合物が明記され、また特許請求範囲に示される一般式によれば、置換基Yはベンゼン核の任意の位置にあつてよい。

C原告は次のように主張しています。

ア.審決は、引用明細書の文字面にとらわれて、引例方法の生成物がすべて「有用」であるとするのは適切を欠いている。

イ.審決は「有用」という表現を、実際に障害を伴わずして使用でき相当の効果を奏する意味において使用しているものと思われる。そうでなければ、効果はあつても実際には障害が多くて使用し得ないか又は障害がなくても殺虫効果を挙げることができないかの、いずれかであるからである。このような性質、条件は、使用目的によつて定まるべきであるが、相当の試験研究を経ないでは決定できない。

ロ.このようなことは、引用例からの示唆が仮りにあつたとしても、机上の考案着想により推知できるものではない。例えば、毒ガスを殺虫剤として使用する着想は簡単であろう
が、耕作地や野外において広く使用されることはない。

D被告は次のように主張しています。

ア.原告は本件殺虫剤の毒性の少ないことを強調しているが、それは本件発明を実施するための要件ではなく、殺虫剤として実施した場合に附随して得られる効果に過ぎない。

イ.附随的でも優秀な効果のあることは、製品の利用価値を高め、発明の高度性を立証するに役立つことがあるが、それは発明の新規性を確立するための要素ではない。

ウ.換言すれば使用についての新規性が全く無い用途発明では、使用結果についての予想外の附随的効果例えば毒性の減少があつたとしても、それは既知の物の単なる性質の発見に止まり、それだけで使用すること自体を新規なりとするには足りない。


 [裁判所の判断]
@裁判所は、温血動物に対する毒性を低減するという課題との関係で、選択発明の技術的意義に関して次のように判断しました。

ア.殺虫活性をほぼ同一にする殺虫剤について、温血動物に対する毒性の低下の要請への解決は、決して被告代理人の主張するように、単にある化合物を殺虫剤として実施した場合における附随的の効果の発見というべきではなく、それ自体独立した重要な技術的課題を構成するものと解せられる。

イ.この重要な課題に対し、本件発明は引用特許公報に示されたものを含む従来の公知の殺虫剤には到底見られなかつたような、優れた作用効果を発揮する。

ロ.こうした本件発明の殺虫剤は、たとい引用特許のうちに一般式で示された上位概念のうちに包含される化合物を含有せしめたことを特徴とするものであつても、具体的には、この化合物を記載せず、いわんや殺虫活性がほぼ同一であるのに、他面温血動物に対する毒性は極めて少ないという、前述の重要な課題の解明については全然触れるところがない前記引用特許明細書の記載からは、容易に想到されるものとは解し難い。

Aまた裁判所は本件発明と先願発明との関係に関して次のように評価しました。

ア.本件出願の発明は、先に掲げた特定の構造を有する化合物を含有することを特徴とする、特定の効果を有する殺虫剤であつて、発明の範疇を異にするものであるから、これを特許しても二重特許となるおそれがあるものとは解されない。

イ.そればかりでなく、本件出願の発明の殺虫剤が含有する化合物は、前述のように引用特許明細書に一般式で示された上位概念のうちに包含されるものではあるけれども、該明細書のうちには具体的に明記せられず、かつ本件発明の殺虫剤は、該明細書の全然言及しなかつた独立の技術的課題を解決した別個の発明と解すべきものである。

ウ.従って、本件発明が含有する化合物を引用特許発明の製法による場合、両者の間には特許法第七十二条にいう利用関係が成立するとしても、同一発明に対する二重特許のおそれがあるものとは、この点からもいわれない。


 [コメント]
 被告は、引用例の発明の温血作用に対して、本件発明の温血動物に対する毒性が低いという効果は派生的な効果(課題)に過ぎないと主張しています。しかしながら、課題は予測できても課題を実現する構成を見い出すことが困難、という事情が化学の分野にはあります。従って判決の判断はであると考えられます。


 [特記事項]
 
 
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