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●事例1B 平成24年(行ケ)第10425号(船舶事件)


新規事項の追加禁止/明細書等の補正

 [事件の概要]
  本件(特許第4509156号)の対象は、バラスト水の取水/排水時にバラスト水中の微生物類を処理するバラスト水処理装置20を備えた船舶です。

 出願明細書は、バラスト水処理装置20が船舶後方の舵取機室9内に配属されていることを発明の必須要件としていました。

図面

 被告(特許権者)は、当初明細書の段落0030の「舵取機室9は非防爆エリアであるから、各制御機器や電気機器類の制約が少なくてすむという利点がある。」という記載に基づき、請求項6を「バラスト水が供給される前記バラスト水処理装置が船舶後方の非防爆エリアで、船舶の吃水線より上方かつバラストタンクの頂部よりも下方に配置されていること」と訂正しました。

 この訂正が新規事項の追加となるか否かが争われました。

 原告は、

 非防爆エリアである機関室に関して「機関室8の内部は、通行性や作業性を考慮するとともに、機器類の設置及メンテナンスを可能にする必要最小限の空間を確保しているのが実情であり、実質的には余分な空間は存在しない、

 従って、機関室8内にバラスト水処理装置20を設置しようとすれば、機関室8を大型化するなど、船体構造や船型の大規模な変更が必要となる。」という段落0025の記載、

 及び「今後設置が義務付けられるバラスト水処理装置について、船体設計の大幅な変更をせず、しかも、新造船に設置する場合はもとより、既存の船舶を改造して設置する場合にも容易に適用可能な船舶が望まれる。」という段落0007の記載に鑑み、

 「当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項には、…バラスト水処理装置が、船舶後方の非防爆エリアであって舵取機以外に配置される発明は含まれていない」と主張しました。
 [裁判所の判断]
 技術常識を参酌すれば、非防爆エリアは「電気機器の構造、設置及び使用について特に考慮しなければならないほどの爆発性混合気が存在しない区画又は区域」を意味する、

 従って「各種生業機器や電気機器類の制約が少なくてすむという利点」は非防爆エリアの裏返しであり、

 舵取機室には限定されない広義の「非防爆エリア」に着目した効果であると即座に理解すると認められ、舵取機室と殆ど無関係な単独の構成として理解することができる、

 と判断しました。

 さらに裁判所は、

 当初明細書全体に記載された発明は、舵取り気室はプロペラ及び舵の直上に位置しており、振動の問題があるため、通常機器類の設置に適しない場所として残されていることに着目したものであり、非防爆エリアの作用・効果とは次元が異なる、

 と述べています。
 [コメント]
出願当初の明細書に

 構成A→効果X 構成A+B→X+Y

 という記載があったときに、構成B→効果Yという発明を抽出して権利化できるかどうかは難しい問題です。

 この判例は発明を抽出できる場合もあることを示した点で注目されます。他社の権利の動向を出願公開により監視する企業にとっては、判断が難しくなったと言えそうです。
 
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