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●事例2B [事件番号] 平成22年(行ケ)第10064号(審決取消訴訟)


新規事項の追加禁止/明細書等の補正

 [事件の概要]
 本願発明(特願2000-249815)は、抄紙機上で紙製品に加工するセルロース繊維質ウェブから、水分を搾り取るためのメカニズムに関するものです。

 具体的には、ステープルファイバーバット5を付設したベースサポート構造体と、ベースサポート構造体の内面及び外面の少なくとも一方の上の第二高分子樹脂材料被膜58とからなり、

 前記ステーブルファイバーバットの繊維の少なくとも一部には第一高分子樹脂材料が含まれているものです。

 原告は、本願の拒絶査定不服審判で「第一高分子樹脂材料及び第二高分子樹脂材料は、互いに異なるポリウレタン樹脂である」と補正し、特許庁はこれを新規事項として却下し、進歩性の欠如により拒絶審決をしました。



 裁判所は新規事項の問題に関しては、次の補正の根拠に基づいて、下記の理由により新規事項ではないと判断しました。

(補正の根拠)

 段落0033の「基布50を被覆する第二高分子樹脂材料58は(中略)ステーブルファイバーバット56を被覆する第一高分子樹脂材料に対して親和性を示す。…2つの材料はポリウレタン樹脂材料であってもよい。…その親和性により、第2高分子樹脂材料と(中略)第一高分子材料とが化学的に結合するようになり、硬化した第二高分子樹脂材料と基布の糸との間における機械的な結合が補強される。」旨の記載。

(理由)

 上記段落の記載から、「明細書には、両ポリウレタン樹脂が化学的に結合するものであることを前提として、両者が同一である場合と、互いに異なる場合があることが開示されている。」

 その反面、裁判所は、進歩性に関しては、下記に述べる通り、化学的親和力を有する2つの材料を異なるものとすることに困難性がないとしました。


 [裁判所の判断]
 刊行物2には、ステーブルファイバーパットが基礎生地にポリウレタン樹脂を結び付ける作用を有する旨が記載されているが、

 ステーブルファイバーパッドに樹脂を塗布することができない旨の記載はなく、

 そうすることが刊行物2の発明の目的から当該発明を適用することの阻害要因と考えることもできない、

 と判断されました。

 [コメント]
 特別の事情がない限り、2つの発明特定事項の素材として、同じ物を用いることと異なる物を選ぶこととの2つの選択肢があるというのは、当たり前のことですので、裁判の結論は妥当なものと考えます。

 複数の選択肢から一つの要件を選べば発明の構成になるのに、それが容易ではないとすれば、選択肢の数が無数にあるとか、他の選択肢が当業者の盲点に入って選択の可能性に気づかないなどの事情があるのが普通です。

 本件の場合では、補正が新規事項か否かの判断において、両ポリウレタン樹脂が化学結合することを前提として、両者が同一である場合と異なる場合との双方の技術が開示されていると裁判所が認定しています。

 そうなると、両ポリウレタン樹脂の組み合わせとして、当業者が異なる樹脂同士を想定することは容易ということになりますので、進歩性を肯定することはなおさら困難と思われます。


 
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