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●事例2C[事件番号] 平成6年(行ケ)第82号、同第83号


不要な部品の省略/設計変更/進歩性

 [事件の概要]
 従来の押花乾燥法では、押花の形を整えるとともに吸湿効果を発揮するために植物体を布や紙で挟み重ねるとともに、その下にシリカゲルなどの吸湿剤を設置していました。

 この方法では吸湿剤と植物体との間に距離があるため、なお吸湿効果が不十分でした。

 そこで被告は、「塩化カルシウム又は塩化リチウムを吸蔵せしめた布や紙5で、植物体1を挟み、加熱温度を調節しながら加熱脱水することを特徴とする押花乾燥法」に関して出願し、特許を得ました(特公昭62−14521号)。

 被告は、本願発明の構成に加えて網状体を布又は紙に抄き込むか縫い込むことを内容とする押花乾燥法を開示する引用例1(特許第107988号)などに基づいて無効審判を請求しました。

図面(本件発明)



 また被告は、

 引用例1の網状体は加圧し易くするための付加構造に過ぎず、布・紙の有する作用効果(植物体の凹凸に即応するように屈曲して植物体との接触を密とし、脱水中の植物体が縮れるのを防ぐ)を損なわない旨、

 また引用例1には布・紙に網状体を抄き込んだ吸湿板が“従来の吸湿紙”に比べて経済的である旨が記載されており、

 比較対象としてではあるが網状体を用いない吸湿紙を用いた押花乾燥法に言及している、

 と主張しました。

 しかしながら審判官は、「吸湿板の上記した使用態様からみて、補強材としての網状体材料は吸湿板の形状保持、及び支持に不可欠な部材であることは明らかである」と述べて請求を退けました。

 [裁判所の判断]
 引用例発明の可撓性吸湿板のように、可撓性を与えるため特に補強材として網状体材料を抄き込むか縫い込むかした布や紙を用いる必要のない場合、

 この補強材を省いて、塩化カルシウムを吸蔵させた布や紙を基材として用いようとすることは、

 当業者のみならず、押花を制作してみようと試みる一般人にとっても、単なる設計事項若しくは容易に考えだせることといわなければならない、

 と判断されました。

 [コメント]
 昔の特許法では、“特許請求の範囲には発明に必須の構成要件のみを記載しなければならない。”と規定されていました。

 従って先行技術Aが存在し、これに対して引用文献の特許請求の範囲及び実施例に要件A+B+Cの発明が記載されていても、アイディアとしてA+Bが成立するということがあります。

 技術常識などに照らして、引用文献からA+Bという思想が読み取れるかどうかを判断する必要があります。

 本件の場合には、補強材という発明特定事項の位置づけ、従来の押花乾燥法に関する証拠、引用例1中の従来の構成に関する示唆などを総合的に勘案すれば、補強材を省略することは単なる設計変更と解釈するのが妥当であると思われます。

 [特記事項]
特許庁審査基準に引用された事例
 
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