●事例３A　平成７年（行ケ）第１５２号（ゴルフクラブ）

課題の共通性／動機付け／進歩性

［事件の概要］

　
本件考案（実用新案登録第１８８９０３３号）の目的は、炭素繊維強化プラスチックで形成した従来のゴルフクラブのシャフトに比べて強度・耐久度の面において優れ、また軽量化が計られ、多種のプレーヤの要求に対応し得るように製造可能なゴルフクラブのシャフトを提供することです。

　考案の構成は、「シャフト１を、母材にウイスカー２を混入したウイスカー強化複合材料３にて形成したゴルフクラブ」です。

　この構成により、次の効果が発揮されます。

　第１に、シャフトは従来のものに比べて強度的に優れるのでインパクト時の衝撃に耐え、軽量になるので、スイングを速くすることができる。

　第２に、混入したウイスカーが微細な繊維であるために方向性がランダム状態で母材の細部まで行きわたり、捩れ方向に対して大きな抵抗を有するので、スイートスポットを外してもヘッドのフェース面が大きく変わることがなく、打球の飛行方向が安定する。

　本案登録の無効審判で甲第４号証から甲第７号証に基づいて極めて容易に考案できた旨の無効理由が主張されましたが、審判部（被告）は請求を却下しました。

　甲第４号証は、「高性能複合材料の最新技術」という雑誌であり、複合材料であるウイスカーの種類・特徴・応用例等を紹介する記事を掲載する他、別の頁にウイスカーをゴルフクラブ用シャフトに用いることに言及していました。しかし、ウイスカーをゴルフクラブ用シャフトに用いることで軽量化を図るという課題を開示してはいませんでした。

　甲第５号証は、スポーツ・レジャー用品へのＦＲＰの応用例（被強度やエネルギー吸収特性などの特長を活かして棒高跳びポール・ゴルフクラブ・スキーポール・矢に使用されるなど）を記載するとともに、「ガラス繊維以外の補強材料として、ホイスカー、炭素繊維等の出現がある。これらは、ＦＲＰを軸とする複合材料の開発研究に広がりを与えてくれるようすだが、なにぶんにも高価な材料であり、その特性を相当に熟知しないと使い切れない」旨が記載されていました。

　甲第６号証には、“ホイスカーの比強度と比弾性値が大きい”旨が記載されていました。

　審決取消訴訟において、被告は、ホイスカーが軽量材料として有利であるとしても、「材料についての技術常識を有する専門家というものは、一部の特徴のみをもって安易に材料を置換しようとするものではない。」と反論しました。

　ゴルフクラブ用シャフトの要求特性として適当な径・軽量性・適度な曲げ剛性・捩れの小ささ・曲げ強度の大きさの５要件が必要というのです。

　また甲第５号証の「特性を相当に熟知しないと使い切れない」という文言からも、ゴルフ用シャフトの炭素繊維に代えてウイスカーを用いることに容易に想到できないと、主張しました。

［裁判所の判断］

　甲第４号証にゴルフクラブ用シャフトにおいて軽量であることが重要な特性の一つであることが明示され、ボールの飛距離との関係でそのシャフトを軽くすることが有利であると教示されているから、当該シャフトを軽くする本案の目的は当業者が当然予測できる程度の事項である、

　甲第７号証には通常の方法でウイスカーを樹脂と混合するとウイスカーはランダムに配向されることが示されているから、「捩れ方向に対して大きな抵抗を有する」という本案効果は当業者が当然予測できるものである、

　甲第５号証には「なにぶんにも高価な材料であり、その特性を相当熟知しないと使い切れない。」と記載されているが、ウイスカーの特性は引用例から周知であると認められるし、効果であることは強化材としての適用可能性を認識するについての阻害要因となるものとは認められない、

　と判断されました。

［コメント］

　本事例は、発明（考案）の目的が引用例のそれと同じでなくても、対象物の一般的な用途・使用態様から予測される範囲であれば、動機付けを否定することはできないことを示唆しています。

　但し、発明の目的は開示内容全体から判断すべきです。

　例えば引用例の対象はごみ袋であるが、真空輸送用の特別なごみ袋であるために、臭気防止という課題を導くことが不適切であると判断された事例があります（平成２４年（行ケ）第１０３２８号）。

［特記事項］

特許庁審査基準に引用された事例

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課題の共通性／動機付け／進歩性

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