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●参考例4@ 966 F. 2d 656 [In re Carl D. Clay](炭化水素製品の貯蔵方法事件)


課題の共通性/動機付け/進歩性

 [事件の概要]
 精製された液状炭化水素製品(ガソリン等)は、地上の大きなタンクに貯蔵されます。

 タンクは、その側壁に開口された取出口と底壁との間にデッド体積を有します。

 デッド体積があると、そこに水等の余剰物質を収納できる面で有利ですが、デッド体積に炭化水素製品が入ると取出口から取り戻し出来ない面では不利です。

 原告は、タンクのデッド体積内に、炭化水素製品に対して不溶不活性のゲル溶液であって水溶性溶媒と架橋剤と含むものを用意し、デッド体積に当該溶液を配置し、ゲル化し、ゲルの上に炭化水素製品を貯蔵する方法を発明しました(米国特許出願第245083号)。

本件発明



引用文献1



 余剰物質は炭化水素製品より重いので当該製品から分離します。

 審判部は、デッド体積の液体を、柔軟な膜で形成した袋体(bladder)を用いて入れ替えるための装置に係る引用文献1(USPAT NO.4664294)と、本件発明のそれと類似のゲルを、炭水化物を含む地盤に注入して透水性を低下する方法に係る引用文献2(USPAT NO.4683949)とに基づいて、本件発明の進歩性を否定しました。

 引用文献2には、ゲルが浸透する高透水性領域が空洞(gravity)などの異常部分(anomaly)である旨の記載があります。

 審判部は、上記空洞が引用文献1の袋体内の空所(void space)と類似し、“デッドスペースを何かで満たす”という問題を解決するために本件発明に至ることは容易と判断しました。

 [裁判所の判断]
(審決に対する判断)

 審決は、“先行技術の範囲及び内容を定める”(いわゆるグラハム判決で定められた進歩性の判断手順の一つ)という規範に反する、と判断しました。

(判断の理由)

 特許法第103条は発明の主題と関連する先行技術を定めることを直接規定していないが、この決定は先行技術が類似か(analogous)か否か、言い換えれば当該技術が先行技術として疎遠(remote)過ぎないかという問題に帰着する、

 審決は、引用文献2と本件発明とには“石油溜めに溜められた石油の回収を最大化する”という共通の試みが存するとした、

 しかし前者は地盤中の非限定・不規則な空間にゲルを適用することを、後者は人工的に作製された限定的な空間にゲルを適用することを教示する、

 また前者は地中深く極端な条件(高温・高圧)下で、後者は常温常圧の下で適用される点でも異なる、

 故に引用文献2は本件発明の試みの範囲に属しない、という理由です。

(進歩性に関する判断)

 同じ試みの範囲に属しなくても、発明者が自分の問題を解決する際に注意を惹くと論理的に考えられれば、先行技術は本件発明に関連する(pertinent)ものと認められる、

 しかし引用文献2のゲルは地中の異常箇所を満たして流れプロファイルを改善するのに対して、本件発明のゲルは貯蔵タンクのデッド体積の液体を置き換えることに寄与する、

 引用文献2の問題は“岩盤から油を回収する”ことであり、タンクのデッド体積からの貯蔵物質のロスを減らすという本件発明の問題と関連しない、と判断されました。

 [コメント]
 本件発明の特徴は、炭化水素製品及び水等の余剰物質の比重や性質の違いを利用して、デッド体積内へ水等が入りかつ炭化水素製品が入らないようにゲルを用いることです。

 従ってゲルを注入する空間が限定的か否かは進歩性の判断において重要です。

 審判部は、請求項に“デッド体積”が限定的である旨の記載はないので、請求項を広義に解釈したのでしょうが、技術的思想の本質に鑑み、解釈には無理があったと考えます。

 [特記事項]
 
 
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