[事件の概要] |
本件発明(USPATNo.5676624)のトレッドミルは、支持機構14に踏み台12 の一端を枢着して水平状態と垂直状態との間で回転可能とするものです。 踏み台は、水平状態から平衡点(踏み台の重心が回転軸の上にある状態)を通過して垂直状態に到達します。 本件発明の特徴は、踏み台を引き上げるためのガススプリング505を踏み台504と支持機構506との間に設けたことです。 ガススプリングに関して、請求項には“踏み台を安定して起立状態に留めることをアシストする”と規定しているに過ぎず、明細書には、一の方向にのみ力を付与するシングルアクションのスプリングが開示されています。 引用文献(USPATNo.4370766)は、支持部にベッドの一端を枢着して水平状態と垂直状態に回転可能とし、ベッドを引き上げるためのガススプリング56を設けています。 引用文献のガススプリングは、ベッドが水平状態から平衡点を通過するまでは一の方向に力を作用し、通過した後に逆の方向に力を加えるダブルアクションのスプリングです。 特許権者は、本件特許の再審査で拒絶された請求項に関して審判を起こしました。審判部は、一つの請求項を除く全ての請求項の進歩性を否定しました。 特許権者は、引用文献はトレッドミルとは異質の分野で異なる問題を解決しようとするものである、引用文献は専らダブルアクションを採用することを提案しており、これをシングルアクションに変更することには阻害要因があるなどと主張しました。 なお、本件発明の請求項の“ガススプリング”に関しては、“常に閉鎖方向の力を作用する”シングルアクションのものという狭い解釈も考えられますが、審判部は、“踏み台の姿勢を保持することをアシストするためのスプリングの程度(degree)や方法(manner)に関して、請求項は何も限定していない、と判断しました。 |
[裁判所の判断] |
(先行技術の引用例としての適格性に関して) 請求項の記載によれば、一般的に或る重量を有する物を安定的に休止状態に保つという課題を対象としているに過ぎない、 換言すれば、トレッドミルに固有の問題を扱っているとは認められない、 引用文献は、上記課題を対象としているから、本件発明と関連する先行技術と認められ、 引用文献に基づいて本件発明の進歩性を否定した審判部の決定は妥当である、 と判断されました。 (シングルアクション・ダブルアクションの違いに基づく特許権者の主張について) 前述の通り、(トレッドミルの)引き上げをアシストするという点に関して請求項1が何も限定をしていないという審判部の広い解釈は妥当であり、 特許権者が主張する阻害要因の議論は狭い解釈に基づくので、失当であるし、 技術の借用において技術内容を多少変更することは自明のことだから、引用文献の記載からシングルアクションの構成を採用することは当業者が予期しえないことではない、 と判断されました。 |
[コメント] |
広く特許権を取得するためには、請求項の限定条件を必要最小限にするべきですが、その結果として、特許権者が主張したい作用効果と、請求項に記載した構成要件との間にずれが生ずるケースが少なくありません。本件もそうした事例と考えられます。 [本件発明] [引用文献] |
[特記事項] |
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