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●参考例6@ 383 U.S.39 [U.S. v. Adams] (電池)


開示に従うことを思い留まらせるタイプ/阻害要因/進歩性

 [事件の概要]


 アダムスは、酸を使わず、危険なガスを生じないとともに、乾いた状態で流通するとともに加水により発電する電池を発明し、特許を得ました(USPATNO.2322210)。

 請求項1の構成は「液体容器と、容器内に配置された外部端子付きのマグネシウム陽極と、陽極と接続した端子付きの溶融塩化銅陰極とを具備する電池」です。

 この電池は大きさ及び重量に対して予想外に多くの電気を供給する利点と、活性化した後で電流を停めても反応が継続し作用を停止できない欠点とを有します。

 アダムスは出願後に米軍に発明のデータを提供しました。

 米軍はデータを信じませんでしたが、後に有効性を認め、発明者に無断で実施した。アダムスの電池は戦時下で多くの用途を見出しました。

 アダムスは特許権侵害で米軍を訴え、逆に米軍は“亜鉛アノード及び銀カソードを有する湿式電池(引用例1)に、亜鉛をマグネシウムに、また銀を溶融塩化銅に置換することを開示する引用例2〜5を適用することは容易である”として特許の無効を主張しました。

 しかし引用例2(Wood特許)はマグネシウムを使った高電圧の一次セルに言及するが、商業的に利用し得ない失敗例であると述べていました。

 マグネシウムの電極を塩化銅とともに使うこと、マグネシウム電池を水で活性化させることは開示していません。

 引用例3(Codd特許)は電極材料のリスト中の一つとしてマグネシウムを挙げるに留まり、これが理論上電極に利用し得ることを示すに過ぎません。

 引用例4(Wensky特許)は塩化銅を電極に利用することを開示するが、水で活性化することも彼の電池にマグネシウムを用いることも示唆していません。

 引用例5(Skrinvanoff特許)は断続的に発電する電池に用いるマグネシウム電極を開示します。これはアルコール・クロロクロム塩・硫酸を加えた過酸化マンガン酸の溶液と接触させて用いられますが、その様に実験すると発火・爆発を生じました。

 [裁判所の判断]
 構成要件を置換する理論は、置換する要件と他の要件とが機能的に関係しないことを前提とします。

 アダムスの電池の構成要件は相互に機能的な関係を有します。

 引用例5は本発明とは全く異なる形でマグネシウムを使用しています。

 殆どの先行技術は、非使用時に内部の反応が停止して断続的に発電する、本発明と全く別のタイプの電池であるから、マグネシウムは亜鉛の、塩化銅は銀の単なる代用品ではありません。

 仮に先行技術の要素を組み合わせるためには、当業者は長く信じられた次の常識を無視する必要があります。

@開回路で作用し続けかつ常温で発熱する電池は非実用的である。

A水で活性化する電池の実現に有用な電極をマグネシウムと組み合わせるのは有害である。
古い技術の欠点は新たな発明のためにこれを調査する意欲を阻害します。故にアダムスの特許は有効です。

 [コメント]
 グラハム判決は、進歩性の判断に於いて先行技術の範囲及び内容を決定し、その先行技術と請求項との相違を確認し、関連する分野での技術の水準を定め、更に商業的成功・願望されながら長期間実施されなかった事実・他者の失敗等の2次的考察は発明の主題の起源に光を照らすために用い得るという基本的ルールを確立しました。

 本件は一種の阻害要因として“他者の失敗”及び“発明の構成に至るために無視しなければならない常識”を考察し、以て機能的に適合する2種類の電極の組合わせを発見することの困難性や、この組合わせに適合する新たな用途を発見した画期性に光を照らしたものと評価できます。

 [特記事項]
グラハム判決と同時に出された関連事例
 
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