[事件の概要] |
本発明の目的はPTFEで多孔性製品を経済的に製造するプロセスを提案することです。 本発明の発明者は、従来の熱可塑性ポリマーと異なるPTFEの振る舞い(高結晶を維持した低い温度で高速延伸しても破壊させずに高い強度が得られること)を発見しました。 本発明の請求項1の構成は、PTFEで多孔性製品を製造するプロセスであって、ペースト押出し成形で形成した未焼成・高結晶のPTFE製の成形品を、35℃と結晶溶融温度との間の温度でかつ毎秒10%を超える速度で延伸することで展開する工程を含みます。 請求項1に従属する下位項のうち請求項1〜8では、延伸速度を毎秒30%(請求項2)、毎秒100%(請求項3)という如く順次限定しており、請求項17〜19では成形品の最終長さを2倍(請求項17)、3倍(請求項18)、4倍(請求項19)としています。 地方裁判所は、次の文献を引用して、全ての請求項の新規性を否定し、請求項3の進歩性を否定した。控訴裁判所は請求項1〜2を無効、請求項3及び請求項19を有効と判断しました。 @ PTFE以外の材料を高速延伸することを開示する文献(Markwood) A PTFEを延伸して多孔性製品を得ることを開示する文献(Sumitomo) B 高速延伸をすることを開示する文献(Smith) |
[裁判所の判断] |
何れの引用文献も未焼成の高結晶のPTFEを請求項3の如く毎秒100%の割合で延伸できること及び請求項19の如く4倍以上に延伸できることとを開示していません。 それとは反対に、各引用文献は(当該文献を)全体として考察すれば、別の方向を教示しています(On the contrary, the art as a whole teaches the other way)。 (引用文献の適用を阻害する要因1) Markwood文献はPTFEでない熱可塑性プラスチックを高速延伸することを開示していたが、延伸の前に結晶性を低下させること(加熱すること)も教示していました(Markwood .. teach that non-PTFE thermoplastics can be stretched rapidly and to the extended lengths, and also teach reduction, elimination, or avoidance of crystallinity before stretching)。 (引用文献の適用を阻害する要因2) Smith文献は、PTFEは、延伸前に溶融温度以上に加熱することなく、4倍の長さ以上に延伸することはできないと述べていました(Smith … teach that PTFE could not be stretched beyond four times its length without heating it to above its crystalline melt temperature)。 下級審では、複数の引用文献の開示事項の一部をモザイクのように組み合わせていますが、そのモザイクが自明であることを証明していません。 |
[コメント] |
主引用文献に別の引用文献の適用することを阻害する要因には、明示的なものと暗示的なものとがあると言われています(パテント2014年3月号)。 本件の場合、「300℃以上で4倍以上の延伸をすることはできない。」という記載は明示的な阻害要因に該当すると考えられます。 |
[特記事項] |
米国審査基準に引用された事例 |
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