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●事例6A 昭和62年(行ケ)第155号(ガラス発泡体の製造方法事件)


開示に従うことを思い留まらせるタイプ/阻害要因/進歩性

 [事件の概要]
 ガラス発泡体は、ガラス粉末(軟化点の低いソーダ石灰ガラス等)に発砲剤を添加し加熱することで製造します。

 発泡剤は加熱工程で例えば熱分解して炭酸ガス(CO2)を発生する。発泡温度が高温(約800℃)であると金型が劣化するので、低温で均質な発泡体を得ることが望まれます。

 しかし一般的な発泡剤である炭酸カルシウム(CaCO2)等を用いる場合には、ガス発生のための分解温度が800〜900℃です。

 また炭化物質粉末を用いると、ガラスが軟化する温度(約500℃)以前に粉末の一部が焼失し、発泡体が不均一となります。

 原告である出願人は、“ソーダガラス又はソーダ石灰ガラスの粉末に、MgCO3・CaCO3を主成分とするドロマイト粉末を配合した原料を均一に混合し、成形型内で700〜780℃で少なくとも1時間加熱してガラスを溶融されるとともに発泡させる”構成により、ドロマイト成分のうち比較的低温で熱分解するMgCO3の熱分解により炭酸ガスを発生分解する、ガラス発泡体の製造方法を出願しました。

 特許庁は、ドロマイトをガラスの発泡剤に用いる技術文献を引用して当該出願を拒絶した。

 当該文献はドロマイトのうちCaCO3が高温で熱分解するもので、「通常のガラスの軟化点はMgCO3からのCO2がプロセスに与かるには高温すぎることをこの研究が示している。ドロマイトのCaCO3の分解中に発生したCO2のみが泡形成に寄与する。従って、等しい結果を得るために大理石2%に変えてドロマイト4%を用いることが必要である。」と教示していました。

 被告(特許庁)は「引用例は、ドロマイト中の炭酸マグネシウムがガラス発泡体の製造に利用し得ないとまで記載しているものではない。…ガラス発泡体の製造におけるガラスの加熱温度とドロマイトの分解温度の間に密接な関係があるものと認められ(る)」と述べした。


 [裁判所の判断]
 裁判所は引用例に関して「原料粉末を発泡させるためのガスとしては、ドロマイトの成分中、炭酸カルシウムの分解に伴う二酸化炭素のみを利用することを前提とするものであるのみならず、…本願発明が利用する炭酸マグネシウムの分解に伴い二酸化炭素については、かえって、その利用は、少なくとも引用例記載の方法によっては、不可能であることを明示するものである」と認定しました。

 そして炭酸マグネシウムの熱分解利用を前提として700〜780℃で加熱する要件を採用することは容易ではないと判断しました。

 [コメント]
 引用例の同じ記載なのに、原告と被告とで観方が逆であることが興味深いと思いました。

 すなわち、原告は本願発明の構成要件(炭酸マグネシウムの熱分解に適した加熱温度)を採用することの阻害要因と考えました。

 被告は本願発明の構成に至るための示唆(加熱温度条件は発泡剤の熱分解の温度に応じて決めるべき)としました。

 発明への手掛かりとなるとしても、記載内容からあれこれ思索を巡らせる必要がある場合には、進歩性否定の根拠である「示唆」とはなり難いと考えます。

 [特記事項]
特許庁審査基準に引用された事例
 
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