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●事例6B 平成8年(行ケ)91号(インダクタンス素子事件)


目的に反する方向への変更のタイプ/阻害要因/進歩性

 [事件の概要]
 従来のインダクタンス素子はプリント基板の孔に差し込むためのピンを有していました。

 こうした素子は比較的大型のもので自動挿入装置を用いた自動挿入を前提としておらず、手作業による挿入では作業能率が悪くなります。

 原告である出願人は、横向きのボビン筒状部の両側に鍔を設け、各鍔から突出する基板への接合用のピンの中間部を外下方へ下る折曲部としてなる、インダクタンス素子を出願した。

 この出願は審判で出願公告されたが、異議申立があり、拒絶審決が出されました。

 引用例1は、両側に鍔部を有する横向きのボビンの外周に上下方向に開口するコアを装着してなるトランスの下部を、基板の逃がし孔に嵌め込み、ボビンの巻線と連続してボビンの側方へ突出するターミナルピンを、基板に接合させたトランスの取付装置です。

本件発明



引用文献1



 引用例2はコイルのベースの下部から側外方へ折曲部付きの端子ピンを突出しています。

 審決では、引用例1〜2は平面取付を可能とするものと認定し、平面取付のために引用例1に引用例2を適用することは容易としました。

 原告は、審決取消訴訟において逃がし孔を有する基板への取付は平面取付ではない反論しました。


 [裁判所の判断]
 審決にいう「平面取付」とは、部品の端子ピンを基板を通さずに基板上に載置し、かつ端子ピンと基板上の導体箔が略平行の状態となる意味と解されます。

 引用例1の構成を「平面取付」というかどうかはさておき、引用例1のターミナルピンに、折曲部付きの引用例2のターミナルピンを適用すれば、折曲部の高さだけ高くなり、折角逃がし孔まで設けた上で設け方を工夫して薄型化を図る考案の目的に反する方向に変更することになります。

 平面取付可能な共通点を考慮しても極めて容易に想到し得たとは言えません。

 [コメント]
 阻害要因は、進歩性否定の論理付けに対する反証として用いられますが、反証が不成功に終わる事例が多数あります。

 もともと論理付けが無理な論理(技術的な意味合いを無視した上位概念化や一般化など)を含んでおり、裁判官(又は審判官)がその論理に違和感をもったときに、阻害要因は採用されることが多いと考えます。

 本件では作用の共通性」(平面取付)という動機に無理があります。

 素子を平板に低く取り付ける方法として、素子を下側へ逃がす孔を設ける技術と、素子から突出するピンの一部に折曲部を設ける技術とは思想として異なるからです。

 「平面取付」という概念も進歩性を否定するためにわざわざ導入した感があり、後知恵(ハインドサイト)の印象を免れません。


 [特記事項]
 特許庁審査基準に引用された事例
 
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