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●事例6C 平成22年(行ケ)第10162号(競技用ボール事件)


目的に反する方向への変更のタイプ/阻害要因/進歩性

 [事件の概要]
 従来、機械生産に適した貼りボールと、手縫いで生産される縫いボールとがあり、後者は皮革パネルが内側へ折り込まれるために溝巾が小さく、飛距離が相対的に大きいという特性があります。

 原告である出願人は、飛距離を改善するため、皮革パネルの周縁部が内側へ折り込まれ、折り込み部分に囲まれた皮革パネルの裏側に厚さ調整材を接着したものを出願して特許を取得しました(特許第4155708号)。

本件発明 
  


引用文献1




 しかし無効審判において、表面に設けたカップ状の浮き出し部に皮革パネルを貼る引用例1の貼りボールに、引用例2の縫いボールの構成(折曲部)を適用して進歩性を否定され無効となりました。

 原告は、審決が”引用例1の皮革パネルは本願の折り曲げ部に相当する曲げ部を有し、該曲げ部が接合部を有する”と事実認定しているのは誤りである(取消事由1)、引用例1のボールに折り曲げ部を設けることは容易と判断したのは誤りである(取消事由2)として審決取消審判を提起しました。

 
 [裁判所の判断]
 引用例1の皮革パネルの接合箇所は接着のための接合(面接触)ではないので、取消事由1は理由があります。

 本件発明の折り曲げ部は貼りボールにおいて縫いボール同様の飛距離等を得るためのもの、他方、引用例1のそれは縫いボールに近い外観を得ることを目的とします。

 この目的を達成するためには、縁端を装飾する、折り曲げ部を設ける等の方法も考えられますが、引用例1では隆起部分を利用しています。

 本件発明の折り曲げ部は溝形成という意図から相当程度大きな角度で曲げられていると解され、これを引用例1に適用すると引用例1の隆起部分の形成という目的に反します。

 また縫いボールにおける「折り曲げ」は縫うことにより必然的に生ずる一体不可分の構成であり、折り曲げる構成のみを縫いボールから分離することが公知と認められず、取消事由2は理由があります。

 [コメント]
 本事例は目的に反する阻害要因だけではなく、複数の要因が重なり合って進歩性が認められたものと認められます。

 縫うことと折り曲げることは一体不可だから後者のみを貼りボールに適用できないというのも、ある意味、阻害事由と解釈されます。

 飛距離を高める本件発明と貼りボールの外見を得るという引用例1との技術的相違、本願の「折り曲げ」と引用例の「曲げ」との相違の看過など審決の論理付けに疑問があります。


 [特記事項]
 
 
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