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●事例6D [事件番号] 平成22年(行ケ)第10345号


発明と異なる方向へ導く提案のタイプ/阻害要因/進歩性

 [事件の概要]
 本発明は、圧力波機械(過給機)付きの内燃機関に関するものです。「過給」とは、圧縮機等で空気を圧縮してシリンダに送り込むことです。過給の方式として、機関の出力で圧縮機を駆動する機械式、排気のエネルギーで圧縮機を駆動する排気タービン式、排気ガスの圧力波を用いる圧力波式、圧縮機で加圧された高温空気を冷やす中間冷却式があります。

 通常の圧力波過給機(圧力波機械)付き内燃機関は、吸気口8→圧力波機械5の吸気側→点火装置1→三元触媒4→(圧力波機械の排気側)→排気管11という構成を有します。低温始動(コールドスタート)の際に、@触媒の変換効率が小さく、排気放出物が高くなる、A排気ガス温度が低下するにつれて機関パワーの低下を招くという問題があります。 本出願人(原告)の発明は、触媒4と圧力波機械5との間に加熱装置22を配置する構成により上記@及びAの課題を解決しました(特表2001−515169)。

(本件発明)



(引用例2)
 



なお、特許請求の範囲の補正により加熱装置はガスバーナ又は電気式加熱器に限定されました。本件の特許出願について進歩性を欠くという理由で拒絶査定が出されたので、原告は拒絶査定不服審判を請求し、請求棄却審決が出されました。審決の理由は次の通りです。

 {理由1}
コールドスタート特性の改善は公知の課題であるから、エンジンからの排気通路の上流側に触媒を、下流側に圧力波過給機を配置したガソリンエンジンに関する引用例1(特開昭62−20630号)に、引用例2(特公昭60−2495号)の加熱装置(排気冷却中間加熱器10)を適用する際に触媒と圧力波過給機との間に加熱装置を置くことは単なる設計変更に過ぎない。

 {理由2}
引用例2の装置に引用例1の技術を適用することは容易(以下。省略)

[本訴訟での当事者の主張]

 {原告の主張1}
→引用例2の排気冷却中間加熱器を加熱装置と認定したことは誤り。

/{被告反論}
→引用例2の排気冷却中間加熱器がガスバーナ又は電気式加熱器でないという点に関してこれを周知技術と判断したから審決に誤りはない(※1)。

 {原告の主張2}→圧力波装置の上流側に加熱装置を配置することが容易であると判断したことは誤り。

/{被告反論}→コールドスタート特性の改善は引用例1に内在する一般的課題だから、圧力波装置の上流に加熱装置を配置することは容易である。

 {原告主張3}→本願発明の作用効果が引用例1〜2及び周知例に鑑み格別なものでないと判断したことは誤り。

/{被告主張}→引用例1に引用例2及び周知技術を適用すれば本件発明と同じ構成になるから、その作用効果は当業者が予想し得る範囲である。

 [裁判所の判断]
@引用例2の排気冷却中間加熱器は,2段式給気を行う機関の排気系で排気間の熱交換を行う。排気を外部の熱源等により加熱するものではなく,むしろ圧力波機械を高圧圧縮段用に配置した場合には圧力波機械の仕事能力を低下させるから,本件発明の加熱装置とは,構成も機能及び作用も異なる。

A引用例1にはコールドスタート特性に関する示唆がない。引用例1の機能(低速領域で排気吐出口への吸気の吹き抜け量を増やすことなど)からみてコールドスタート時に圧力波過給機に流入する排気の温度を上昇させる作用が生じるとは考え難い。むしろ,引用例1は,吸気の吹き抜け量の増加により,圧力波過給機を冷却する可能性を内包するから,圧力波機械に流入する排気を加熱する構成を採用する上では阻害要因がある。

B引用例2にもコールドスタート特性に関する示唆がない。上記排気冷却中間加熱器は機関からの排気の熱を熱源とするが、コールドスタート特性が問題となるのは排気の熱が不十分な状況だから熱交換ではその特性を改善するに足りる排気温度の上昇を想定できない。むしろ排気冷却中間加熱器は,熱交換により高圧圧縮段の過給機に入る排気を冷却するから,圧力波機械に流入する排気を加熱する構成を採用する上では阻害要因がある。

 [コメント]
 排気冷却中間加熱器を加熱装置と上位概念化するのは、発明の本質を超えた無理な上位概念化であり、阻害要因があるという判断は妥当であると考えます。
 [特記事項]
 
 
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