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●事例7A 平成25年(ネ)第10043号(三星電子v.アップルジャパン)


FRAND宣言・技術の標準化/権利の濫用/特許権の行使

 [事件の概要]
 控訴人(サムソン)の特許は、「移動通信システムにおける予め設定された長さインジケータを用いてパケットデータを送受信する方法及び装置」に関します。

 当該特許に関しては、欧州電気通信標準化機構の方針に基づいてFRAND宣言が行われていました。

 控訴人は、被控訴人(アップルジャパン)の製品の生産・譲渡が本件特許の侵害を構成するとして平成23年4月21日に差止請求権を求める仮処分命令の申立をし、被控訴人は平成23年4月29日に控訴人に対してロイヤリティについての問い合わせをしました。

 裁判所はFRAND宣言をした特許に基づいてライセンスの申出をした者に対して差止請求をすることは権利の濫用であるとして申立を却下しました。

 また被控訴人は平成23年9月16日に本件損害賠償不存在確認訴訟を提起した。

 被控訴人は、

 上記申出に対して控訴人が具体的なロイヤリティの提案しなかった、

 誠実交渉義務に違反して特許権を行使する「ホールドアップ」状況を策出したと主張し、

 他方、控訴人は、被控訴人が本件特許の有効性を争っていることから、確定的なライセンスの申出が存在しないと主張しました。


 [裁判所の判断]
 技術の標準化は、製品間の互換性を確保し、製造・調達のコストを削減するものと期待され、ユーザーにとっても製品価格の低減等の利益をもたらします。

 他方、当該基準に係る必須特許を利用して製品化を図ろうとする者は特許権者から過大なライセンス料を請求されたり、実施許諾を得られなかった場合に開発投資等が無駄になるなどの不都合を生じ得ます。

 FRAND宣言された特許に損害賠償請求においては、FRAND条件によるライセンス料相当額を超える請求を許すことは、当該規格に準拠しようとする者の信頼を損なうとともに特許発明を過度に保護することになり、合理性を欠きます。

 なお、控訴人と被控訴人との間にライセンス料率について長期間の意見の対立があったことは、直ちに被控訴人がライセンス契約を締結する意思を有しないものと評価することはできません。


 [コメント]
 原審の判決文の理由には「我が国の民法には、契約締結準備段階における当事者の義務について明示した規定はありませんが、契約交渉に入った者同士の間では、一定の場合には、重要な情報を相手方に提供し、誠実に交渉を行うべき信義則上の義務を負うものと解するのが相当である。」と記載されています。

 控訴審は、その考え方を引き継ぎながら、交渉者間に特許の有効性を巡る利害対立やライセンス料を巡る長期間の意見の対立があっても、直ちにライセンス料の申出の意思を否定されないことを示しています。


 [特記事項]
 
 
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