今岡ニュース

2014年11月21日(金曜日) 特許ニュース

進歩性の判断と技術分野の関連性・課題の共通性


進歩性/特許出願

 日本弁理士会で発行している「Patent」という雑誌の11月号が届いたので、早速目を通したところ、「近年の進歩性の判断について(中編)」という投稿が掲載されておりました。これは、特許出願に係る発明に到達する動機付けを、技術分野の課題の関連性、課題の共通性、作用・機能の共通性、引用例中の示唆という4つの観点に分け、最近5年間に特許庁の審決が取り消された事例を網羅的に分析しようという大変な試みです。

 具体的な内容に関しては、また別の機会に述べさせて頂くとして、ざっと目を通したところの印象は、進歩性の判断において、技術分野の関連性のウェートが低くなり、課題の共通性等のウェートが高くなってきたな、ということです。

 一昔前の裁判所の傾向として、それを批判する側の人から“同一技術分野論”と呼ばれるものがありました。これは何かというと、大ざっぱに言えば、本願発明(特許出願に係る発明)と最も近い先行技術(主引用例)を探し出す→本願発明と主引用例との相違点を認定する→相違点に相当する技術手段を開示する先行技術(副引例)を、本願発明と同一の技術分野又は関連性がある技術分野の中で探す→そうした副引例が見つかれば、副引用例を主引用例に適用することを妨げる特別の事情がない限り、それを適用して本願発明に到達することが容易であると考えるというものです。

 適用を妨げる事情とは、それを適用することで、副引用例に開示された技術手段の機能が発揮されなくなってしまうとか、適用することが引用発明の目的に反するというような事情であり、これは一般に阻害要因などと呼ばれます。

 この同一技術分野論は、もっともな気がしますが、多くの批判を集めています。私が考えるに、本来“技術分野が共通する結果、副引用例を適用することにAという動機付けが生じており、この動機付けにより本願発明に至ることが容易となる”というロジックを踏むべきところ、Aに関する考察が抜けているためと思います。Aとしては例えばメカニズムの共通性などが挙げられます。Aが敢えて説明するまでもないことである場合には、それを省略しても発明の進歩性を否定する結論が不当となることはありません。しかし、ステレオタイプに上記の同一技術分野論を適用すると都合の悪いことが生じます。

 それにしても、進歩性というテーマは、幾ら掘り下げても興味の尽きない題材です。例えば米国特許法の実務においては、進歩性の判断に関して、発明者の試みの範囲(The field of the Inventor’s Endeavor)という概念がありますが、そうした概念と日本の進歩性の考え方はどのように対応し、どう違うのか。こうしたことを考えながら特許法の判例紹介のレポートを作成して、ホームページに掲載しています。こうしたことをしながら明細書を書いて収入が得られる弁理士という職業は本当に恵まれていると思います。


 
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