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商標かわら版
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今岡憲特許事務所


●平26(行ケ)10112号「軽井沢浅間高原ビール」


中間部分の評価/商標の近似性/商標出願

 [事件の概要]
  甲(原告)は、商標「軽井沢浅間高原ビール」についてビールを指定して商標登録出願を行い、商標登録第5519499号の商標権を取得しました。

 その後、乙(被告)が商標法第4条第1項第16号違反を理由として商標登録無効審判を請求し、無効審決が出されたため、甲は、審決取消訴訟を提訴しました。


 [原告の主張]
 @甲は次の理由から商標の外観が近似せず類似もしないと主張しました。
(イ)本件商標は,「軽井沢浅間高原ビール」の標準文字からなり,引用商標2は,特殊な形状にデザインされた赤色文字と鳥形の図形からなるから,両者は外観上相違する。

(ロ)「軽井沢浅間高原」が相当程度の出所識別機能を発揮することからみて,「浅間」の有無による外観上の相違は,外観の類似性を判断する上で重視されるべきである。

A甲は次の理由から商標の称呼が近似せず類似も近似しないと主張しました。
「軽井沢浅間高原」の語が相当程度の出所識別力を発揮することからみて,「 アサマ」の音を含むか否かという両者の称呼上の相違は,称呼の類似性を判断する上で重視されるべきである。

B甲は次の理由から商標の観念が近似せず類似もしないと主張しました。
(イ)本件商標は,原告による造語であって,特定の観念を生ずるものではない。仮に,「浅間高原」の文字部分から旧軽井沢地域とは異なる何らかの地域が想起され得るものとしても,その想起される地域は,引用商標2の「軽井沢高原」の文字部分から想起される地域とは一致しない。

(ロ)一方,引用商標2は,「軽井沢高原ビール」の文字部分が何ら出所識別標識としての観念を生じさせるものではないから,図形部分の形状やデザインから,鳥,太陽,月の観念を生じる。


 [裁判所の判断]
 @裁判所は、商標の外観に関して次の理由から近似すると判断しました。
(イ)引用商標2の書体は,その表示自体から文字以外の特定の観念を想起させるほどに図案化されているものではなく,専ら「 軽井沢高原ビール」との文字が認識され得るにすぎない。

(ロ)本件商標と引用商標2とを対比すると,両商標は,いずれも横文字で表記され(引用商標2は2段に並記),その構成中の「軽井沢」「高原」「ビール」の文字を共通にし,中間に位置する「浅間」の文字の有無のみに差異を有する。

(ハ)下記の要素を考慮すると、本件商標中の中間に位置する「浅間」の文字が看者に強い印象を与えるとはいえず,離隔的観察の下においては,両商標の外観は,少なくも,看者に近似した印象を与える。

(a)本件商標は,10文字という比較的冗長な構成を有すること。

(b)「軽井沢」と「浅間高原」という重複する地域を連記すること。

A裁判所は、商標の称呼に関して次の理由から近似すると判断しました。
(イ)本件商標から生ずる「 カルイザワアサマコウゲンビール」の称呼と引用商標2から生ずる「 カルイザワコウゲンビール」の称呼とを対比すると,両商標は,その構成音の「 カルイザワ」「 コウゲン」「 ビール」の音を共通にし,中間に位置する「 アサマ」の音の有無のみに差異を有するもの。

(ロ)本件商標は,15音という比較的冗長な音数で構成されており,本件商標中の中間に位置する「 アサマ」の音が看者に強い印象を与えるとはいえず,離隔的観察の下においては,両商標の称呼は,少なくても,看者に近似した印象を与える。

B裁判所は、商標の外観に関して次の理由から近似すると判断しました。
(イ)前記ア,イに認定のとおり,本件商標からは「軽井沢及びその周辺の浅間山山麓に位置する高原地域で製造又は販売されるビール」との観念を生じ,引用商標2からは,「軽井沢及びその周辺の高原地域で製造又は販売されるビール」との観念を生じる。

(ロ)そうすると,両商標は,いずれも,軽井沢一帯の高原地域で製造又は販売されるビールを想起させるものであるから,両商標の観念は,少なくとも,看者に近似した印象を与える。


 [コメント]
 @商標法第4条第1項第11号は、取引の経験則により他人の登録商標と出所混同を生じ得る商標を、商標の類似及び商品の類似という概念を用いて登録対象から除外するものですが、商標法第4条1項第16号は、11号に該当しない商標でも、取引の個別的な実情に即して、他人の商標と混同を生じさせるおそれがあるときには登録対象から除外しようとする趣旨のものです。

A第16号の判断に現れる「商標の近似」という概念は、「商標の類似」より緩やかな条件で判断されますが、後者と類似しているところもあります。

Bすなわち、商標の外観・称呼・観念という3つの要素から判断されること、隔離観察が重要であることです。

C本判決では商標の構成のうちで中間部分が観察者に与える印象が少ないと言っていますが、自然な解釈であります。商標に限らず、人が長い名称(例えば落語における「寿限無…」という子供の名前)を覚えるときに、まず名称の冒頭部分を覚えるでしょう。次に記憶に残り易いのは名称の最後の部分で、中間部分まで完全に覚えるのは大変であります。

Dもっとも前述の通り、商標法第4条第1項第16号は個別的な事情に基づいて混同の有無を判断するものですから、本判例から直ちに長い商標の中間部分において重要度も低いということも、単にそういう傾向があるという程度に理解すべきと考えます。


 [特記事項]
 
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