[裁判年月日] |
平成12年 1月27日 |
[事件名] |
審決取消請求事件 |
[主文] |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
[事実] |
第1 請求 特許庁が平成8年審判第7702号事件について平成11年7月1日にした審決を取り消す。 第2 前提となる事実(当事者間に争いのない事実) 1 特許庁における手続の経緯 原告は、平成6年3月2日、別紙審決書の理由の写し(以下「審決書」という。)の別紙の構成からなり、指定商品を商標法施行令別表第3類「化粧品、せっけん類」とする商標(以下「本願商標」という。)について、商標登録出願(平成6年商標登録願第19779号)をしたが、平成8年4月26日拒絶査定を受けたので、同年5月14日拒絶査定不服の審判を請求した。 特許庁は、この請求を平成8年審判第7702号事件として審理した結果、平成11年7月1日、本件審判の請求は成り立たない旨の審決をし、その謄本は、同月28日原告に送達された。 2 審決の理由 審決の理由は、審決書に記載のとおりであり、本願商標と引用商標(「STEPHANIE」の欧文字を書してなる登録第2208934号商標)とは、外観、観念において相違する点があるとしても、「ステファニー」の称呼を同じくした類似の商標であり、かつ、本願商標の指定商品である「化粧品、せっけん類」は、引用商標の指定商品中に包含されるものであるから、本願商標は商標法4条1項11号に該当し、登録をすることができない旨判断した。 第3 審決の取消事由 1 審決の認否 (1) 審決の理由1(本願商標)及び同2(原査定の引用商標)は認める。 (2) 審決の理由3(当審の判断)のうち、審決書2頁下から2行ないし3頁3行、3頁6行「そして、」から9行「ばかりでなく、」まで及び「本願商標の指定商品である「化粧品、せっけん類」は、引用商標の指定商品中に包含されるものと認められるものである(こと)」(4頁14行ないし16行)は認め、その余は争う。 2 取消事由 審決は、以下のとおり、本願商標と引用商標との類否の判断を誤ったものであるから、違法なものとして取り消されるべきである。 (1) 取消事由1(称呼の点の判断の誤り) 審決は、「本願商標と引用商標とは、・・・「ステファニー」の称呼を同じく(する)」(審決書4頁11行ないし13行)と認定するが、誤りである。 ア 本願商標 本願商標は、「ギンザステファニー」と一連に称呼するのが自然である。 (ア) 本願商標は、「銀座ステファニー」の漢字混じり仮名文字と「GinzaSTEFANY」の装飾英文字を2段書きにしてなるものであり、結合商標が認められる現状において冗長であるとするほど長くはなく、後半部分だけを殊更に取り出して称呼されるとする余地はないものである。 (イ) 審決は、「前半部の「銀座」「Ginza」の文字部分は、東京都中央区に存在する各種高級商品を販売することで著名な繁華街の名称である。そうとすれば、本願商標に接する取引者・需要者は、構成中、自他商品の識別機能を果たす部分は、「ステファニー」、「STEFANY」の文字部分にあるものと理解し、これより生ずる称呼をもって取引にあたる場合も決して少なくないものとみるのが相当である。」(3頁9行ないし18行)と認定するが、最近では東京都中央区に存在する繁華街以外にも各地に「銀座」が存在することや、元々は江戸幕府直轄の鋳造発行所のことであることが、広く知られるようになっており、審決の指摘するような事実はない。 仮に「銀座」が繁華街を意味するとしても、「銀座」は東京都中央区の地を含めて、商品の産地、販売地となることは現実的にあり得ないものであり、これが付せられているからといって、その商品が銀座で生産されたもの、あるいは銀座だけで販売されているものと受け取る者は皆無である。「銀座」、「Ginza 」は、「華やかな」、「華美な」といったイメージを表すとみる方が自然である。 (ウ) 被告は、本願商標において用いられている「銀座」、「Ginza」の文字部分が「ステファニー」、「STEFANY」の文字部分と異なる文字で表されている点を理由に、「ステファニー」と略称される旨主張するが、一連に称呼されるか略称を生ずるかは、商品の性格と取引の実状によるものであり、異なる文字で表されているからといって直ちに称呼が分断され、略称が生ずるとするのは、現実を無視したものである。例えば、「観光ホテル」、「ワレモノ注意」、「オランダ船」、「大学セミナー」、「ベンチャー企業」など、漢字と仮名文字で表されているが、称呼が分断されることはあり得ないし、もし、分断されれば全く異なった意味になってしまうものである。また、「Super」と「Light」を2段書きにし、「Super 」の文字を大きく、「Light 」の文字を小さく記載したものにおいても(甲第5号証)、これを「スーパー」と略称したり、「ライト」と略称したりすることはなく、「スーパーライト」と一連に称呼されることは明らかである。 また、漢字混じり仮名文字の漢字部分は、視覚的に印象が強く、「ステファニー」が「銀座」と結びつくことによって独自のイメージを生み出しているもので、この部分が称呼上省略される可能性はなく、むしろ、単なる「ステファニー」では日本人にとって発音し難く、「ギンザステファニー」の方が音階も調子もよく、自然な称呼に馴染むものである。 イ 引用商標 引用商標から第一義的に生ずる称呼は「ステップハニー」であり、引用商標から「ステファニー」の称呼を生ずるとするのは一般的ではない。 (ア) 引用商標の「STEPHANIE」は、日本人にとって直ちに一義的にその発音を感得することは困難なものである。 (イ) 英語としても、「STEPHANIE」のような文字構成による単語は存在しない。 審決が述べるアメリカにおける女の子の名前として知られている「STEPHANIE」が「ステファニー」と称呼されている事実(審決書4頁6行ないし8行)は、日本の英和辞典には掲載されていない(甲第3号証)。 乙第1ないし第4号証には、「STEPHANIE」がアメリカにおける女の子の名前であり、「ステファニー」と発音されることが記載されているが、日本人として「ステファニー」が直ちにアメリカにおける女の子の名前であり、「STEPHANIE」とスペルされると理解する者は極めて少ない。また、乙第4号証に掲載されている女優の人達も、日本において著名とは思われず、英語に堪能な人や映画・演劇に通じている人を除いて、「STEPHANIE」のスペルを見て直ちにアメリカにおける女の子の名前を想起する者はほとんどいないといっても過言ではない。 (ウ) さらに、英語として見た場合、「STEP」は、「STEPMOTHER」(継母)、「STEPSISTER」(異父母姉妹)、「STEPLADDER」(脚立)、など極めて一般的に用いられる接頭語であり、他の単語と結合して特定の意味を表す語として顕著である(甲第3号証)。 ウ 音質音調の差異 仮に、本願商標と引用商標とが一応称呼において類似するとしても、特許庁の商標審査基準〔改訂第6版〕は、商標法4条1項11号に関する基準〔注7〕において、「基準1ないし8に該当する場合であっても、つぎに挙げる(イ)ないし(ハ)等の事由があり、その全体の音感を異にするときには、例外とされる場合がある。」としており、(イ)「語頭音に音質又は音調上著しい差異があるとき」、(ロ)「相違する音が語頭音でないがその音質音調に著しい差異があるとき」などを例外としている。この基準は「日本橋」と「二本箸」、「同門」と「銅門」、「桜」と「佐倉」など同音異義語に対しての称呼同一判定に対する批判に対するものと思われる。 本願商標と引用商標とは、音を構成する文字自体が異なるものであるから、抑揚等称呼の仕方も異なってくるはずである。 (2) 取消事由2(総合判断の誤り) 審決は、「本願商標と引用商標とは、・・・類似の商標といえ(る)」(審決書4頁11行ないし13行)と判断するが、誤りである。 ア 外観 本願商標中の「STEFANY」と引用商標「STEPHANIE」は、そのスペルにおいて明らかに異なるものである。 イ 観念 本願商標中の「STEFANY」も引用商標「STEPHANIE」も、日本人が直ちに感得できる観念を持っているものではなく、異質の観念を有する独自の語であり、本願商標と引用商標とは観念的にも明らかに相違するものである。 ウ 総合判断 本願商標をその指定商品につき使用した場合に商品の出所について混同を生ずるおそれがあるか否かを全体として判断すれば、本願商標と引用商標とは非類似である。 第4 審決の取消事由に対する認否及び反論 1 認否 原告主張の審決の取消事由は争う。 2 反論 (1) 取消事由1(称呼の点の判断の誤り)について ア 本願商標 (ア) 本願商標は、上段の文字部分が「銀座」と「ステファニー」と異なる文字で表されているばかりでなく、下段の「Ginza」と「STEFANY」の文字も、その大きさ、書体を変えて表されているものであるから、各文字部分が視覚的に分離して着目されるものである。 そして、「銀座」、「Ginza」の文字部分は、東京都中央区に存在する各種高級商品を販売することで著名な繁華街の名称である。なお、全国各地の商店街に見られる多くの「○○銀座」なる名称は、東京都中央区の「銀座」にあやかって名付けられたもので、歴史的な事実に基づき、かつ行政区画名となっているのは、東京都中央区の「銀座」以外にはない。 したがって、取引者、需要者が、その構成中で自他商品の識別標識としての機能を果たす部分は「ステファニー」及び「STEFANY」の文字部分にあるものと理解し、該文字部分より生ずる「ステファニー」の略称をもって取引に当たる場合も少なくないものである。 仮に、他の部分から生ずる称呼が同一又は類似であって、単に商品の産地・販売地名を表すにすぎない部分である「銀座」等の文字を「日本橋」、「有楽町」、「築地」、「新宿」等と変えた商標が、それぞれ非類似の商標として取り扱われ、商品の出所が異なるというようなことになれば、商標使用者の保護を図り、併せて需要者の保護をも図る商標法の目的が損なわれるおそれがある。 (イ) 原告は、「観光ホテル」、「オランダ船」等の例にも基づく主張をするが、本願商標は、構成中の「銀座」及び「Ginza」と「ステファニー」及び「STEFANY」の各構成文字が大きさを異にして表されている点で、「観光ホテル」等の例と異なっているものである。 さらに、原告は、「銀座」は「華やかな」、「華美な」といったイメージを表す旨主張するが、仮に一般需要者も「銀座」の文字を原告同様の意味合いに理解しているとすれば、そのことは、かえって、本願商標中で自他商品の識別標識としての機能を果たす部分は「ステファニー」、「STEFANY」の文字部分以外にはないことになり、この点における原告の主張は失当というほかはない。 イ 引用商標 「STEPHANIE」の語は、高校生、大学生、一般社会人等が日常普通に使用している「リーダーズ英和辞典」(株式会社研究社発行。乙第1号証)、「小学館プログレッシブ英和中辞典」(株式会社小学館発行。乙第2号証)等の英和辞典にも、女の子の名前として掲載されているものである。 また、一般に西洋人の「STEPHA〜」の綴り字よりなる人名は、「ステファ〜」のように発音されるのが自然である(「20世紀西洋人名事典」日外アソシエーツ株式会社発行。乙第3号証)。 さらに、我が国において上映されるアメリカの映画には「STEPHANIE・〜」なる名前の女優が登場し、これがファンの間で「ステファニー」と普通に呼ばれているところである(「外国映画人名事典・女優篇」 株式会社キネマ旬報社発行。乙第4号証)。 そして、引用商標は「STEPHANIE」の欧文字を同書、同大、等間隔に表してなるものであるから、これに接する取引者、需要者は、「ステファニー」と自然に称呼するものである。 ウ 音感音調の差異 原告は、特許庁の商標審査基準に基づき、本願商標中の「STEFANY」と引用商標「STEPHANIE」には音質音調に著しい差異がある旨主張する。 確かに、原告が挙げている「日本橋」と「二本箸」等の例は、2つの商標がいずれもそれぞれ親しまれた観念を生じ、抑揚など称呼の仕方も異なるものであるから、2つの商標を区別するのが取引の実状に沿うものである。しかしながら、我が国の取引者、需要者が英語の単語中の「F」と「PH」の文字を発音した場合、原告が主張するように、両者の音質音調に著しい差異があるとは認め難いから、原告の上記主張は失当である。 (2) 取消事由2(総合判断の誤り)について 被告は、本願商標と引用商標とが外観上、観念上相違する点について争うものではない。 商標の類否判断の審査は、常に商品の性格、取引の実情等を考慮し、それらの実状に即して行わなければならないところ、本願商標の審理に当たっては、特段に考慮しなければならない取引の事情等が見当たらなかったために、両商標の外観、観念及び称呼を比較検討し、一般的な経験則に基づいて、本願商標と引用商標とは全体として商品の出所について誤認、混同を生ぜしめるおそれがあり、両者は類似すると判断したものである。 |
[理由] |
1 取消事由1(称呼の点の判断の誤り)について (1) 争いのない事実 審決の理由1(本願商標)及び同2(原査定の引用商標)は当事者間に争いがない。 (2) 本願商標 ア 本願商標は、上段の文字部分は「銀座」と「ステファニー」と漢字と仮名文字の異なる文字で表され、かつ、「ステファニー」が「銀座」の約1.2倍の大きさで表されており、下段の「Ginza」と「STEFANY」の文字も、「STEFANY」が「Ginza」より太字で、かつ、約1.2倍の大きさで表されているものである。 しかも、弁論の全趣旨によれば、「銀座」、「Ginza」の文字部分は、東京都中央区に存在する各種高級商品を販売することで著名な繁華街の名称であり、本願商標の指定商品の取引者、需要者によっても、そのように認識されるものと認められる。 そうすると、本願商標に接する取引者、需要者は、本願商標の構成のうち、自他商品の識別機能を果たす部分は、「ステファニー」、「STEFANY」の部分にあるものと理解し、これより生ずる称呼をもって取引に当たる場合も少なくなく、本願商標からは「ステファニー」との称呼も生ずるものと認められる。 イ これに反する原告の主張は採用することができない。 (3) 引用商標 ア 我が国で最も親しまれている外国語は英語であるところ、弁論の全趣旨によれば、英語の発音においては、「PH」が「F」と同様に発音される例も少なくなく(例えば、「pharmacy」、「photograph」、「telephone」、「philosophy」)、かつ、そのことは我が国においても比較的広く知られているものと認められる。また、乙第1、第2号証によれば、高校生、大学生、一般社会人等が日常普通に使用している「リーダーズ英和辞典」(株式会社研究社 昭和59年発行)、「小学館プログレッシブ英和中辞典第2版」(株式会社小学館 昭和62年発行)にも、「STEPHANIE」が女子の名を意味する旨記載されていることが認められる。 そうすると、引用商標「STEPHANIE」の文字を分解して最初の4字を「STEP」、「ステップ」と読み、後半の「HANIE」を「ハニー」のように読むこともできるとしても、「STEPHANIE」の文字に接する者の多くはむしろ「ステファニー」と発音するものとみるのが自然であり、引用商標からは「ステファニー」の称呼が生ずるものと認められる。 イ したがって、引用商標から生ずる自然な称呼は「ステップハニー」である旨の原告の主張は、採用することができない。 (4) 音質音調の差異 原告は、本願商標と引用商標とが一応称呼において類似するとしても、音質音調に差異があるから、称呼類似の場合には当たらない旨主張する。 しかしながら、本願商標から生ずる称呼「ステファニー」と引用商標から生ずる称呼「ステファニー」との間に、音質音調の差異があることを認めるに足りる的確な証拠はないから、この点の原告の主張も理由がない。 (5) まとめ そうすると、本願商標と引用商標とは、「ステファニー」の称呼を同じくするものであり、これと同旨の審決の認定に誤りはない。 よって、原告主張の取消事由1は理由がない。 2 取消事由2(総合判断の誤り)について 前記1に認定のとおり、本願商標と引用商標とは称呼の点において同一であるから、本願商標と引用商標とはスペルが異なり、外観において異なるものであること、及び本願商標中の「STEFANY」も引用商標「STEPHANIE」も日本人が直ちに感得できる観念を持っているものではなく、観念を共通にするものとはいえないことを考慮しても、本願商標と引用商標とは類似の商標であると認められる。 これに反する原告の主張は採用することができず、原告主張の取消事由2は理由がない。 3 結論 以上によれば、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳) |
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