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161 商標法4条3項CS1/商標出願/不登録事由 |
体系 |
商標制度に関する事項 |
用語 |
商標法第4条第3項のケーススタディ1 |
意味 |
商標法第4条第3項は、同条第1項第8号、第10号、第15号、第17号又は第19号に該当する商標であつても、商標登録出願の時に当該各号に該当しないものについては、これらの規定は適用しない旨を定めています。
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内容 |
@商標法第4条第3項の趣旨
(a)商標法第4条第3項は、同条1項第8号などの規定に関して、これらの規定に登録時に該当する商標でも、出願時に該当しない場合には、前記規定を適用しない旨を定めています。
登録要件の判断時として登録時主義を原則とするとともに、この原則を貫くと出願人に酷となる場合に限り、救済措置を設ける趣旨です。
(b)前記商標法第4条第1項第8号は本文の他に括弧書きを含む規定となっています。
本文…他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標
括弧書き…その他人の承諾を得ているものを除く。
(c)ここで商標法第4条第3項が前記第8号の規定のどの部分にまで適用されるのかが問題となり、仮に括弧書きの部分にまで及ぶと不合理な結果となる可能性があります。
例えば出願時に他人の承諾書を提出したものの、出願後登録査定に至る前に当該承諾が撤回された場合に、商標法第4条第3項により、その撤回の効力が事実上なくなってしまうというおそれがあるからです。
(d)そうしたことが争われた事例を紹介します。
A商標法第4条第3項の事例の内容
[事件の表示]平成15年(行ヒ)第265号(最高裁)
[事件の種類]拒絶査定審決取消請求事件(拒絶→維持→上告棄却)
[判決の言い渡し日]平成24年10月30日
[商標]LEONARDKAMHOUT
[指定商品]第14類「貴金属、貴金属製食器類、貴金属製のくるみ割り器、こしょう入れ、砂糖入れ、塩振出し容器、卵立て、ナプキンホルダー、ナプキンリング、盆及びようじ入れ、貴金属製の花瓶、水盤、針箱、宝石箱、ろうそく消し及びろうそく立て、貴金属製のがま口、靴飾り、コンパクト及び財布、貴金属製喫煙用具、身飾品、宝玉及びその原石並びに宝玉の模造品、時計、記念カップ、記念たて、キーホルダー」
第18類「皮革、かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ、かばん金具、がま口口金、傘、ステッキ、つえ、つえ金具、つえの柄、乗馬用具、愛玩動物用被服類」
第25類「被服、ガーター、靴下止め、ズボンつり、バンド、ベルト、履物、運動用特殊衣服、運動用特殊靴」
[経緯]
@本願商標は、アメリカ合衆国の彫金師であり、銀製アクセサリーのデザイナーであるレナード・カムホート(以下「カムホート」という。)の氏名から成る商標である。
A本件出願時には、カムホートの承諾を示す書面の提出はなかったが、上告人は、平成11年1月26日、補正の内容を「同意書及びその訳文を別添のとおり提出する」とする手続補正書を特許庁に提出した。
これに添付された平成10年12月1日付けのカムホート作成の同意書には、上告人が本件出願に基づき商標登録を受けることに同意する旨の記載がある。
Bカムホートは、平成12年5月25日、提出刊行物を「同意書の撤回通知書の写し及びその訳文」とする刊行物等提出書を特許庁に提出した。
この書面には、カムホートは上告人に対し同月24日付けの撤回通知書を送付して上記同意書による同意を撤回した旨の記載があり、同撤回通知書の写しが添付されている。
C本件出願については、本願商標が商標法4条1項8号(以下、単に「8号」という。)に該当することを理由として、拒絶をすべき旨の査定がされた。
上告人は、これを不服として、拒絶査定に対する審判を請求した。この審判請求につき、特許庁において不服2000―20761号事件として審理された結果、平成15年3月14日、上告人の審判請求は成り立たない旨の審決がされた。
[最高裁判所の判断]
@8号は、その括弧書以外の部分(以下、便宜「8号本文」という。)に列挙された他人の肖像又は他人の氏名、名称、その著名な略称等を含む商標は、括弧書にいう当該他人の承諾を得ているものを除き、商標登録を受けることができないとする規定である。
その趣旨は、肖像、氏名等に関する他人の人格的利益を保護することにあると解される。
したがって、8号本文に該当する商標につき商標登録を受けようとする者は、他人の人格的利益を害することがないよう、自らの責任において当該他人の承諾を確保しておくべきものである。
Aまた、3項は、8号に該当する商標であっても、商標登録出願の時(以下「出願時」という。)に8号に該当しないものについては、8号の規定を適用しない旨を定めている。
これは、商標法4条1項各号所定の商標登録を受けることができない商標に当たるかどうかを判断する基準時が、原則として商標登録査定又は拒絶査定の時(拒絶査定に対する審判が請求された場合には、これに対する審決の時。以下「査定時」と総称する。)であることを前提として、出願時には、他人の肖像又は他人の氏名、名称、その著名な略称等を含む商標に当たらず、8号本文に該当しなかった商標につき、その後、査定時までの間に、出願された商標と同一名称の他人が現れたり、他人の氏名の略称が著名となったりするなどの出願人の関与し得ない客観的事情の変化が生じたため、その商標が8号本文に該当することとなった場合に、当該出願人が商標登録を受けられないとするのは相当ではないことから、このような場合には商標登録を認めるものとする趣旨の規定であると解される。
C8号及び3項の上記趣旨にかんがみると、3項にいう出願時に8号に該当しない商標とは、出願時に8号本文に該当しない商標をいうと解すべきものであって、出願時において8号本文に該当するが8号括弧書の承諾があることにより8号に該当しないとされる商標については、3項の規定の適用はないというべきである。
したがって、出願時に8号本文に該当する商標について商標登録を受けるためには、査定時において8号括弧書の承諾があることを要するのであり、出願時に上記承諾があったとしても、査定時にこれを欠くときは、商標登録を受けることができないと解するのが相当である。
これを本件についてみると、前記事実関係によれば、本願商標は出願時に8号本文に該当するものであり、査定時において上告人が本願商標につき商標登録を受けることについてカムホートの承諾がなかったことは明らかであるから、本件出願は、本願商標が8号に該当することを理由として、拒絶されるべきものである。
D以上によれば、原審の判断は正当として是認することができる。論旨は採用することができない。
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