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@事例1
(a)平成17年(行ケ)第10189号は、特許取消決定の取消請求事件です(請求棄却)。
(b)発明の対象は、有機エレクトロルミネッセンス素子であり、これは、電気を利用して発光する素子(例えばLED)のことです。
(c)特許請求の範囲の要点は次の通りです。
・少なくとも一対の電極間に挟持された有機発光層を含む有機化合物層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であること。
・2つ以上の有機化合物層をハロゲン化合物からなる不純物の濃度が500ppm未満の有機化合物材料で形成していること。
引用文献には数値限定に関する記述がありませんでした。
(d)審決の理由は、有機化合物材料の残量塩素を極力少なくする方がより高輝度で長寿命な有機EL素子が得られるであろうことは,当業者が容易に想起し得ることである。」
(e)裁判所は、事実認定において、数値限定の意義に関して、“有機化合物層中の不純物としてのハロゲン化合物濃度の増加に伴う有機EL素子の発光輝度の減衰や発光寿命の低下という傾向が見いだされたなかで,その許容限度としての濃度500ppmを設定することにより,長期間の駆動に伴う発光輝度の減衰が小さく,耐久性に優れる有機EL素子を提供する点にある”と判断しました。
その上で、前記数値限定に臨界的な意義を示す記載は一切ないとし、数値範囲の内外において特定の作用効果が顕著に異なるというためには、臨界的意義が明細書に記載されていなければならないとし、本件発明の進歩性を否定しました。
@事例2
(a)平成17年(行ケ)第10665号は、特許取消決定の取消請求事件です(請求棄却)。
(b)発明の対象は、静電潜像現像用トナーであり、ここで静電潜像とは、感光体の上に静電荷が画像上に分布した状態であるため、トナーなどで現像するまでは目に見えないものを言います。
(c)特許請求の範囲の要点は次の通りです。
・軟化点が120℃を超え140℃以内となるポリエステル系樹脂を主バインダー成分とし,融点が該ポリエステル系樹脂の軟化点よりも低い90〜110℃のフィッシャートロプシュワックスを1〜5重量%とポリエチレンワックス,ポリプロピレンワックス等の低分子量ポリオレフィンワックスとからなるワックスを配合してなるトナー成分を溶融混練した後,粉砕,分級してなる粉砕トナーであること
・該トナーを用いて画像を形成したトナー像をクリーナーパッドを付けない加熱定着ローラに接触させて紙に定着する方式に使用されること
※軟化点→固形物質が軟化して変形を起こし始める温度
(d)審決は、“ポリエステル系樹脂の軟化点が,本件発明では,「120℃を超え140℃以内」であるのに対し,引用発明では「90℃〜150℃の範囲」とされているものの,具体的に実施例に示されたポリエステル系樹脂の軟化点は115℃のみである点”を相違点の一つとした上で、進歩性を欠如していると判断しました。
(e)裁判所は、まず“トナーを構成するポリエステル樹脂として,引用例2には軟化点(Tm)が120℃,126℃及び130℃のもの,引用例3には軟化点135℃のもの(3頁右下欄15行〜17行)がに記載されており,トナーを構成するポリエステル樹脂として軟化点が120℃を超え140℃以内のものを用いることは,当業者にとって格別困難なものとは認められない。”と判断しました。
巣の上でポリエステル系樹脂の軟化点を「120℃を超え140℃以内」に限定したお理由が訂正明細書には記載されていないし、
逆に訂正前明細書の記載から見ると、特許出願人は,ポリエステル系樹脂の軟化点について,もともと「ポリエステル系樹脂の軟化点は110〜150℃が好ましく,より好ましくは120〜140℃である。」と認識していたものであり、
本件訂正の前後を通じて,本件明細書には,ポリエステル系樹脂の軟化点の違いによる作用効果の相違を確認する実験についての記載がないのみならず,軟化点の上限・下限の技術的意義に関する一般的な記載すら存在しない、
と指摘しました。これにより、数値限定には臨界的意義がないと判断されました。
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