パテントに関する専門用語
  

 No:  1100   

法例CS1/特許出願/

 
体系 国際私法
用語

法例のケーススタディ2(職務発明)

意味  法例とは、法規の適用関係を定める諸規定を掲げる法律でありました。平成18年に法例に代わって新法(適用通則法)が採用されています。


内容 ①法例の意義

(a)法例は、日本の実定国際私法規範の中核となるものです。

(b)特許出願は、国(日本国)に対して独占排他権の付与を請求する手続ですが、我が国への手続だけで完結するものではなく、当該特許出願をパリ条約優先権の主張の基礎として外国に対して特許出願が行われることが頻繁にあります。

 その過程において特許を受ける権利(特許出願をする権利)の譲渡を伴うことがあることから、法例を通じて準拠法を決定することが重要になります。

②法例の事例の内容

(a)ここでは平成16年(受)第781号(日立製作所職務発明事件)を紹介します。

(b)事件の経過は次の通りです。

・上告人は,電気関連製品の総合電器メーカーである。被上告人は,過去の一定期間、上告人に雇用され,上告人の中央研究所の主管研究員等として勤務していた(→上告とは)。

・被上告人は,職務発明について,我が国の特許を受ける権利と共に外国の特許を受ける権利を上告人に譲渡したことにつき,上告人に対し,旧特許法35条(平成16年改正前のもの)3項所定の相当の対価の支払を求めた。

・被上告人は,本件発明1〜3につき、上告人との間でそれぞれ特許を受ける権利(外国の特許を受ける権利を含む。)を上告人に譲渡する旨の契約(本件譲渡契約)を締結した。

・上告人は,本件各発明について,我が国において特許出願をし,その設定登録を受けて,特許権を取得するとともに,本件発明1につきアメリカ合衆国,カナダ,イギリス,フランス及びオランダの各国において特許出願を行い,本件発明2及び3につきアメリカ合衆国,ドイツ,イギリス,フランス及びオランダの各国において特許出願を行い,それぞれ特許権を取得した。

・上告人は,本件譲渡契約を締結した当時,発明をした従業員に対し,特許出願時及び設定登録時において一定額の賞金を授与するとともに,実施効果の顕著なものについてその功績の区分に応じた賞金を授与するという内容の「発明,考案等に関する表彰規程」を定めていた

・上告人は,被上告人に対し,本件各発明に係る特許を受ける権利の譲渡の対価として,本件規定に基づき,本件発明1につき合計231万8000円,本件発明2につき合計5万1400円,本件発明3につき合計1万0700円の賞金又は補償金を支払った。

・原審は,被上告人が本件各発明の特許を受ける権利の譲渡に伴い上告人に対して請求し得る相当の対価の額を,本件発明1につき1億6284万6300円,本件発明2につき13万1750円,本件発明3につき2万5666円と認定し,合計1億6300万3716円の支払を求める限度で被上告人の請求を認容した。



(d)裁判所の判断は次の通りです。

  (1) 本件譲渡契約に基づく特許を受ける権利の譲渡の対価に関する問題については,その対象となる権利が我が国及び外国の特許を受ける権利である点において渉外的要素を含むため,その準拠法を決定する必要があるところ,本件譲渡契約は,日本法人である上告人と,我が国に在住して上告人の従業員として勤務していた日本人である被上告人とが,被上告人がした職務発明について我が国で締結したものであり,上告人と被上告人との間には,本件譲渡契約の成立及び効力の準拠法を我が国の法律とする旨の黙示の合意が存在すると認められるから,法例7条1項の規定により,その準拠法は,外国の特許を受ける権利の譲渡の対価に関する問題を含めて,我が国の法律である。

(2) 特許法35条3項にいう「特許を受ける権利」には,我が国の特許を受ける権利のみならず,外国の特許を受ける権利が含まれるから,被上告人は,上告人に対し,外国の特許を受ける権利の譲渡についても,同条3項に基づく同条4項所定の基準に従って定められる相当の対価の支払を請求することができる。

∵我が国の特許法が外国の特許又は特許を受ける権利について直接規律するものではないことは明らかであるが(∵工業所有権の保護に関する特許独立の原則),外国の特許を受ける権利の譲渡に伴う対価の請求について同項及び同条4項の規定を直接適用することはできないが、当該外国の特許を受ける権利の譲渡に伴う対価請求については,同条3項及び4項の規定が類推適用されると解するのが相当である。

∵特許を受ける権利は,各国ごとに別個の権利として観念し得るものであるが,その基となる発明は,共通する一つの技術的創作活動の成果であり,さらに,職務発明とされる発明については,その基となる雇用関係等も同一であって,これに係る各国の特許を受ける権利は,社会的事実としては,実質的に1個と評価される同一の発明から生じるものであるということができる。また,当該発明をした従業者等から使用者等への特許を受ける権利の承継については,実際上,その承継の時点において,どの国に特許出願をするのか,あるいは,そもそも特許出願をすることなく,いわゆるノウハウとして秘匿するのか,特許出願をした場合に特許が付与されるかどうかなどの点がいまだ確定していないことが多く,我が国の特許を受ける権利と共に外国の特許を受ける権利が包括的に承継されるということも少なくない。ここでいう外国の特許を受ける権利には,我が国の特許を受ける権利と必ずしも同一の概念とはいえないものもあり得るが,このようなものも含めて,当該発明については,使用者等にその権利があることを認めることによって当該発明をした従業者等と使用者等との間の当該発明に関する法律関係を一元的に処理しようというのが,当事者の通常の意思であると解される。

(b)上告人の主張及び裁判所の見解

[上告人の主張]特許を受ける権利等の承継及びその対価の準拠法は,法例10条ないし条理により当該権利の登録国の法を準拠法とすべきである。∵特許を受ける権利等の承継の対価の請求権は本件譲渡契約の効果ではない。

[裁判所の判断] 外国の特許を受ける権利の譲渡に伴って譲渡人が譲受人に対しその対価を請求できるかどうか,その対価の額はいくらであるかなどの特許を受ける権利の譲渡の対価に関する問題は,譲渡の当事者がどのような債権債務を有するのかという問題にほかならず,譲渡当事者間における譲渡の原因関係である契約その他の債権的法律行為の効力の問題であると解されるから,その準拠法は,法例7条1項の規定により,第1次的には当事者の意思に従って定められると解するのが相当である。


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