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 パテントに関する専門用語
  

 No:  1113   

自転車デザイン事件/特許出願/ライセンス

 
体系 ビジネス用語
用語

自転車デザイン事件

意味  自転車デザイン事件は、嘱託者の知的創作の成果の譲渡が確認され、ライセンス料の支払い及び不当利得返還請求が棄却された事例です(昭和59年(ネ)第2632号)。


内容 @自転車デザイン事件の意義

(a)この事件は、外部の人物に自社の開発研究への協力を委託し、その協力に基づいて開発された新製品が展示会に出品されて好評を収め、当該人物を発明者(考案者)の一人として特許出願や実用新案登録出願が行われたものの、その対価に関して予め定めていなかったために、後に争いになった事例です。

(b)外部の人材を活用する嘱託という制度では、通常は、労働の対価として手当てを支払えば足りますが、特許出願等の対象である発明は無体の財産であるため、アイディアを出した側としてはそれだけでは納得できないのが通常であります。

(c)会社の従業者等がなした職務発明に関して特許出願が行われる場合等の取り扱いは、特許法第35条に規定されていますが、嘱託者に関しては規定がないので、どうするべきかが問題と成ります。

A自転車デザイン事件の内容

[事件の表示]昭和58年(ネ)第2632号不当利得等請求控訴事件

[判決の言い渡し日]昭和59年12月13日

[事件の経緯]

(a)原告甲は、光学機械の研究所を主宰し、各種大手企業からの依頼を受けて研究開発を行い、その成果に関して特許出願等をして多くの権利を取得した経歴を有する。

(b)被告会社乙は、甲の能力を評価して、乙の研究開発への協力を依頼した。

(c)甲は、5種類の製品に関して商品化の提案(詳細ではないが、研究員が概要を思い浮かべることができる程度の提案)をした。

(d)乙の研究員は、そのアイディアを元に試作品を作り上げるが、その間に、甲は、ほぼ毎日被告会社に出社し、研究員との討論を通じて、彼らのアイディアを引き出し、助言を与えて開発の方向性を打ち出した。

(e)さらに甲は、乙の特許出願の代理業務を担当していた弁理士を訪ねて、自分がアイディアを出した製品の構成を説明した。

(f)甲らの開発した製品は展示会に展示され、好評を得た。乙は、前記技術開発の成果について甲らを発明者・考案者として特許出願・実用新案を行った。

[裁判の経緯]

(a)甲は、乙に対してアイディアを譲渡したとして、その対価を求めて提訴した。

(b)裁判所は、アイディアの譲渡契約の成立を確認しましたが、時効の援用により対価の支払いの請求を退けました

(c)甲は、第一審の判決に対して控訴をするとともに、第一審の主張に加えて、予備的に、ノウハウの実施許諾に基づくライセンス料の支払いの請求及び不当利得の返還請求を主張しました。
予備的請求とは

(d)しかしながら、控訴審は、甲の主張を全て退けました。

(e)第一審の判断は次の通りです(これは控訴審で支持されています)。

・原告は自転車に関するその知識や経験に基づく具体的な商品化の提案をして、各製品の施策を指導した。

・これを以て、これら製品の関して具現化した知的財産の成果を客観的に相当な対価の額を以て乙に譲渡する旨の申込をしたものと認められる。

・乙は、上記製品を使用した自転車の新製品を展示会で展示し、これらの商品を製造販売した。

・これを以て、乙は、甲の申込に対して黙示の承諾をしたものと認められる。

・当該申込及び黙示の承諾により譲渡契約が成立したものと認められるが、時効の成立により、譲渡の対価の請求は認められない。

(f)控訴審は、甲の予備的請求に関して次のように判断しました。

・(ライセンス料の支払いに関して)甲と乙との間には、乙に対して、乙の売り上げに応じて毎月一定の実施料を支払う旨の合意が黙示的にせよ成立したことを求めるに足りる何らの証拠も存在しない。

・(不当利得の請求に関して)甲が乙の売上額に応じて毎月一定の実施料を支払う旨の合意が黙示的にせよ成立したことを認めるに足りる証拠は存在しない。

[コメント]

(a)本件において、甲の自転車アイディアに関する譲渡に関しても、実施許諾に関しても明示の証拠は存在しません。

(b)それにも関わらず、前者の成立を認めるとともに後者の成立を認めないという司法の判断には注目に値します。裁判所の立場としては、特許法の職務発明の規定(特許法第35条)の類推適用から1時金の支払いまでは認められても、ライセンス料の支払いまでは認めることができないということかもしれません。

(c)本件は、研究開発の委託をする側、委託をされる側の双方にとって教訓を含んでいます。

・委託する側にとっては、たとえ書面により研究開発の成果に対する報酬を取り決めていなくても、成果があった以上は報酬を支払わない訳にはいかないということです。

・委託される側にとっては、1時金の支払いには時効があり、そうした時効期間はあっという間に過ぎてしまうので、事前に契約を取り交わし、どれだけの報酬を求めるのかを定めておくことが重要であるということです。


留意点

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