パテントに関する専門用語
  

 No:  1117   

任意規定CS1/特許出願/ライセンス

 
体系 手続の総則
用語

任意規定のケーススタディ1(接触濾材実施許諾事件)

意味  任意規定とは、当事者の意思によって異なる効果を生じさせることができる規定を言います。


内容 ①任意規定の意義

(a)任意規定は、強行規定(当事者の意思によって異なる効果を生じさせることができない規定)と対峙する概念です。

(b)私法の一般法である民法は、どうしても私人に守らせるべき一部の条文の規定を強行規定とし、残りの規定を任意規定としています。強行規定の具体例としては、民法90条(公序良俗又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする)があります。

(c)こうした法律の仕組みは、当事者間の合意を尊重しているとも言えますが、その反面、契約を締結する両当事者の間に知識の差があり、片方の当事者に一方的に不利な条項であっても、当該片方の当事者がそうした点を十分に理解しないまま合意が成立してしまえば、その契約に拘束されてしまうということになります。

(d)ここでは任意規定の例として、民法570条(売買の目的物に隠れた瑕疵があったときには、買主がこれを知らず、かつそのために契約をした目的を達することができないときには、買主は、契約を解除することができる。この場合において契約の解除をすることができないときには、損賠賠償の請求のみをすることができる)を挙げて解説します。

②任意規定の事例の内容

[事件の表示]平成6年(ワ)第12070号特許実施料請求事件

[判決の言い渡し日]平成10年8月27日

[発明の名称]玩具用活動写真映写機及び紙フィルム

[事件の経緯]

(a)乙(浄化槽容器の下請け製造メーカー)は、高度の浄化性能を有する合併浄化槽の開発を目指していました。どの程度の性能であるかというと、汚水を飲料水のレベルまで浄化できる程度です。乙は、こうした浄化槽を開発するために甲との間に前記特許権の実施許諾を締結しました。



(b)契約の内容は次の通りです。

(イ)乙は、甲に対して、乙が第三者に製造し或いは自ら製品化した本件接触濾材が使用された浄化槽(本件浄化槽という)に関して工場出荷価格の6%の実施料を支払うこと。

(ロ)乙は、甲に対して、各年度半期(6カ月)の実施料の総額について、乙の期間予定数の4分の1を保証し、保証料は期間終了後の所定の日数内に支払うこと。

 ただし、この保証は契約日から6カ月ないし乙が浄化槽の型式認定を受けた日のどちらか短い期間は効力を生じないこと。

(ハ)本件契約解除の場合、実施済みのものについては金員の返還及び実施料請求権は消滅しないこと。

(ニ)甲は本件発明が工業的又は商業的に実施できるものであることを保証しないこと。

(c)乙は、平成4年3月頃から本件浄化槽の製造を試みましたが、結局、製品として出荷するに至らずに平成6年1月に契約解除の意思表示をしました。この間に実施料は支払われていません。

(d)そこで甲は、乙に対して、契約締結後6か月を経過した時点以後の実施料(保証額)の支払いを求めて提訴しました。

(e)甲の主張に対して乙が裁判で行った反論は多岐にわたりますが、その主張の一つは、次の通りです。

 “甲は浄化槽製造の専門家であるが、乙は浄化槽容器の下請け製造をしているに過ぎず、浄化の科学的メカニズム等に無知であるのに、甲が乙の無知を利用して自己に一方的に有利な本件契約を締結したこと…は公序良俗に反し、無効である。”

[裁判の判断]

 瑕疵担保責任は、当事者間の相互給付の均衡を図るための制度であって強行規定ではないから、無過失責任を負う実施許諾者の負担軽減のために実施許諾契約中に担保責任の内容を制限することは、特に禁じられているものではなく、それ自体が不合理であるということができない。したがって、本件契約の全部又は一部が公序良俗に反する無効なものであるという乙の主張は、採用することができない。

[コメント]

(a)“本件発明が工業的又は商業的に実施できるものであることを保証しないこと”という条項は、一見するとライセンシーに過酷なようにも思えます。

(b)しかしながら、特許発明が技術的に実施できるかどうかに関しては、特許法第69条第1項(特許権の効力は試験又は研究のために行う特許発明の実施には及ばない)の規定により、当該発明が特許出願人が記載した明細書通りの性能を発揮するかどうかは性能試験を通じて事前に確認することができます。

(c)又特許発明が法律的に実施できるかどうかは、特許明細書の記載事項以外の情報が必要であることは当然のことです。当該発明が先に特許出願された他人の特許発明を利用するものであれば、先願権利者の承諾を得なければ実施できず、また他法に規定がある場合にはその条件をクリアしなければなりません。そうした情報を確認することを、ライセンサー又はライセンシーのどちらが負担するかは、当事者が話し合いにより合意した事項であれば国が口出しする必要はありません。


留意点

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