体系 |
民法 |
用語 |
瑕疵担保責任のケーススタディ1(特許三益三年式籾摺り土臼事件) |
意味 |
瑕疵担保責任とは、売買などの有償契約で、その目的物に通常の注意では発見できない欠陥がある場合に、売主などが負うべき賠償責任をいいます。
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内容 |
①瑕疵担保責任の意義
(a)瑕疵担保責任の典型例は、購入したマンションの構造の見えない部分に欠陥がある場合です。
瑕疵の程度が、例えば必要な鉄筋が足りていないという如く契約の目的(当該マンションに住む)を達成できないときは、買主は契約の解除をすることができます。
契約の目的を達成できないほどでない場合には、買主は損害賠償を請求できます。
(b)不特定物の販売に関して瑕疵担保責任があるかどうかに関しては争いがあります。
(c)特許出願の対象である発明は無体物(技術的思想の創作)ですが、無体物であるか有体物であるかは、瑕疵担保責任に関しては大した問題ではなく、“隠れた瑕疵”が存在すれば瑕疵担保責任が生ずる余地があります。
例えば実質的に実施困難な発明について特許ライセンス契約が締結された場合の瑕疵担保責任に関して、裁判例があります。
②瑕疵担保責任の事例の内容
[事件の表示]昭和7年(オ)第815号
[事件の種類]予約金請求事件(請求認容)
[判決の言い渡し日]昭和8年1月14日
[発明の名称]特許三益三年式籾摺り土臼
[事件の経緯]
(a)甲は、“特許三益三年式籾摺り土臼”の発明について特許出願して、
その後に「自作製作に係る特許三益三年式籾摺り土臼の販売のため同機の特色の一つとして米五百俵を擦り上げて得る性能を有するものにして万一不完全の場合は無料修繕すべき」旨の広告をし、
そして昭和5年3月29日に当該特許品につき乙の間で川崎市・横浜市における一手販売契約(有償)を締結しました。
乙は甲に対して契約に定めた金員(保証金)を支払いました。
(b)乙は、甲から特許品である臼21体を送り受け、販売地域内の農家に販売しようとし、
事前に実験をしたところ、その結果は不良であり、
・従来の臼に比べて何ら優れた点がなく、
・特に甲が宣伝する如く“一時間に4俵9分5厘以上擦り上げること”は到底不可能であり、
・ことに揺れが激しく実用に適しないものであって、
折角の農家との売買契約も全て破約となりました。
(c)乙は、甲に対してこの点を追及したところ、甲からは要領をえない回答を得たのみであり、ついには甲に対して契約の解除と予約金の返還を求めて訴訟を提起しました。
[裁判所の判断]
(a)裁判所は、売主が一定の品質を保証して販売をしたときには、
不特定物だけではなく特定物についても同様であると判示しました。
以下引用します。
“売買の目的物がある性能を具備することを売主において保証(請け合い)したるに拘らずこれを具備せざる場合は、まさにたとえこうした物が一般の標準よりすれば完璧なるにもよ偶々この具体的取引よりこれを観るときはこれまた一つの欠陥を帯びるものに他ならない。
その瑕疵担保の義は如上の如しである。
故にこの問題は売買の目的物が始めより特定され、従ってこの物の給付する以外、給付することが有り得ずあるいはなし得ない場合にのみ起こり得る事柄に他ならず、いわゆる不特定物の売買(すなわち種類債務)にありては瑕疵なき物の給付することが取りも直さず債務の内容となるが故に、もし売主において瑕疵ある物を給付したるときは、買主はこれを斥け、ただその債務の過不及なき履行を請求すれば足りる。
但し、この場合、買主においてともあれ当該物の給付を受領するとともに、かえってこの特定物について買主に対しその瑕疵責任を問うことは法規の禁ずるところにあらず。これは当裁判所が判例とするところである。
故に今ある種類物の売買においてその種類に属する物はかくかくの性能を有することが
特に売主によりて保証せられるにも拘らず、その現実給付されたる特定物が偶々その性能を具備せざる場合に、買主は売主に対し約旨に適合する物の給付を請求することは、まさに瑕疵担保の責任と問うことの一つの選択として可能であることは前述の通りであるけれども、もし当該種類物が到底保証された性能をするはずがない一般的な欠陥を帯有する場合においては、上述のような選択はもはや問題にならない。
→種類物とは
何人かの目的たる給付が始めより不能である物として売買契約そのものは当然無効に他ならないからである。 →当然無効とは
本事案を検討するに、「控訴人(被上告人)は、自作製作に係る特許三益三年式籾摺り土臼の販売のため同機の特色の一つとして米五百俵を擦り上げて得る性能を有するものにして万一不完全の場合は無料修繕すべき旨の広告をしたことが原審で確定しており、本件一手販売契約は如上の性能を有することを内容として締結されたものであるとの上告人の主張に対して、原審は契約書には上述の性能を保証した記載がないと認定した。前記広告は羊頭狗肉というべきものであるが、一手販売契約を締結するに当たっての当事者間の了解を見る限り、宣伝広告された性能を有するか否かは売主の知るところではなく、特許三益三年式籾摺り土臼と称する種類物を給付すれば足りる趣旨と観ることが物事の常態と取引の信義に反するとするような特別の事情はないと解されるというのである。
しかしながら原判決は審理が不十分である。問題である性能保証の下に本件契約が締結されたとすれば、給付された土臼が偶々欠如する場合、売主としては、或は債務の不履行であると、或は瑕疵担保責任を生じると解される。上告人製作に係る土臼なるものは到底保証された性能を備えるものではなく、本質的欠陥を帯有しているから、一手販売契約は始めから無効の取引である。
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留意点 |
本事例は、特許権者の宣伝広告の内容が保証性能と判断された事例であり、かつ最終ユーザー(農家)への売買契約も全て破約となる程度に性能に問題があったことが明らかでした。技術的実施は可能だったがライセンシーが期待する性能に足りないとか、或いは実施をするために行政庁の認可などが必要であるために実施できないというような理由では、契約の無効は認められ難いと考えられます。
→瑕疵担保責任のケーススタディ2(接触濾材事件)
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