パテントに関する専門用語
  

 No:  1121   

瑕疵担保責任CS2/特許出願/ライセンス

 
体系 民法
用語

瑕疵担保責任のケーススタディ2(接触濾材実施許諾事件)

意味  瑕疵担保責任とは、売買などの有償契約で、その目的物に通常の注意では発見できない欠陥がある場合に、売主などが負うべき賠償責任をいいます。


内容 ①瑕疵担保責任の意義

 特許発明(或いは特許出願中の発明)に対してライセンス契約が締結される場合、ライセンシーは当該発明を実施することを目的として契約をするため、何らかの理由で発明ができない場合にはライセンシーにとって大きな見込み違いとなります。

 発明が技術的観点から実施できない場合、すなわち、特許出願人が明細書に記載した発明それ自体に技術的な欠陥があり、そのままでは実施できないようなときには、瑕疵担保責任が生ずる(或いは要素の錯誤により契約は無効となる)というのが判例の立場です。
瑕疵担保責任のケーススタディ1(特許三益三年式籾摺り土臼事件)
要素の錯誤のケーススタディ4(玩具用活動写真映写機事件)

 これに対して、発明が法律的観点から実施できない場合も考えられます。典型的な事例は先に特許出願された他人の特許発明を利用している場合ですが、ここでは他の法律により実施ができない場合に関して解説します。

②瑕疵担保責任の事例の内容

[事件の表示]平成6年(ワ)第12070号特許実施料請求事件

[判決の言い渡し日]平成10年8月27日

[事件の経緯]

(a)甲は、濾過槽や水処理装置の設計などを行う会社であり、浄化槽の接触濾材の発明について平成1年6月30日に特許出願を行い、平成8年9月5日に特許権の設定登録を受けています。

(b)乙は、浄化槽容器の下請け製造メーカーであり、浄化性能の高い合併浄化槽の開発を目指して、甲との間に前記特許権の実施許諾を締結しました。

(c)契約の内容は次の通りです。

(イ)乙は、甲に対して、乙が第三者に製造し或いは自ら製品化した本件接触濾材が使用された浄化槽(本件浄化槽という)に関して工場出荷価格の6%の実施料を支払うこと。

(ロ)乙は、甲に対して、各年度半期(6カ月)の実施料の総額について、乙の期間予定数の4分の1を保証し、保証料は期間終了後の所定の日数内に支払うこと。

 ただし、この保証は契約日から6カ月ないし乙が浄化槽の型式認定を受けた日のどちらか短い期間は効力を生じないこと。

(ハ)本件契約解除の場合、実施済みのものについては金員の返還及び実施料請求権は消滅しないこと。

(ニ)甲は本件発明が工業的又は商業的に実施できるものであることを保証しないこと。

(d)浄化槽の製造には、浄化槽法に規定された建築大臣の型式認定を受ける必要がありました。

(e)乙は、平成4年3月頃から本件浄化槽の製造を試みましたが、結局、製品として出荷するに至らずに平成6年1月に契約解除の意思表示をしました。この間に実施料は支払われていません。

(f)そこで甲は、乙に対して、契約締結後6か月を経過した時点以後の実施料(保証額)の支払いを求めて提訴しました。

(g)甲の主張に対して乙が裁判で行った反論は多岐にわたりますが、その主張の一つは、次の通りです。

 “本件浄化槽は型式認定を受ける必要があるが、そのためには1年以上の実証試験が必要とされるのであり、現実に特許発明を実施することができなかった期間は実施権者において実施権を取得したということができないから、たとえ実施料について最低保証の約定があるときでも実施権者が実施料を支払う義務を負うものではない。

 甲は浄化槽製造の専門家であるが、乙は浄化槽容器の下請け製造をしているに過ぎず、浄化の科学的メカニズム等に無知であるのに、甲が乙の無知を利用して自己に一方的に有利な本件契約を締結したこと、型式認定に1年を要することからすれば、契約締結後6月を経過したのちに実施料の支払い義務が生ずるとしていることは公序良俗に反し、無効である。”

[裁判所の判断]

 「特許発明を工業的ないし商業的に実施するためには、さらに別の技術情報が必要であることが通常であり、実施許諾者は、特許発明の工業的ないし商業的な利用が困難であるとしても、契約において特段の約定がない限り、瑕疵担保責任を負うものではない。」

[コメント]

 ラインセンス契約を締結する場合の心構えとして、一連の事象全体を俯瞰してどういう紛争が生じ得るかを想定し、そして想定される紛争を契約書に反映させることを挙げることができます。

 一連の自称全体とは、例えば

・発明の設計から実施に至る流れの全体

・特許出願→特許権の設定登録→特許権の消滅に至る流れの全体

 が考えられます。本事例でいえば、ライセンサーは、製品の実施化のスケジュールを立て、実施のためにどういう行政処分が必要なのか、その処分を受けるためにどの程度の時間が必要なのかを調べてから、実施料の最低保証に関する条項を考えるべきでした。

 工業的あるいは商業的に実施できない期間にも実施料の最低保証が生ずるのは不公平という言い分は、心情的には理解できるのですが、公序良俗に反することを裁判官に納得させることは容易ではないと思われます。


留意点

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