内容 |
①実質上の拡張の意義
(a)特許請求の範囲の実質的な変更とは、現在の法律では、特許権の設定登録後に訂正審判の請求或いは無効審判の審理における訂正の請求をする場合に、また過去の法律では、特許出願の出願公告後の特許請求の範囲の補正をする場合に、訂正及び補正の範囲を制限する概念として導入されました。前者の場合には特許権、後者の場合には仮保護の権利という独占排他な権利が発生しているため、その権利の効力が元の効力範囲を超えて及ぶことがないようにするためです。
(b)ここでは特許請求の範囲の実質上の拡張の典型的な例を説明します。
②実質上の拡張の典型例
(a)特許請求の範囲中の「エボナイト」を「硬質ゴム」と変更することは実質的な拡張であるとした事例があります(特許審判・昭和8年11月15日)。
エボナイトは硬質ゴムの一種ですが、それ以外の硬質ゴム材料も既知だからです。
特許出願当初の明細書・特許請求の範囲に“硬質ゴム”という概念が記載されていない場合は勿論として、そうした概念が記載されている場合にも実質上の変更に該当します。
(b)例えば特許請求の範囲中の「加熱下において」という要件を、「100℃以下の温度において」と訂正することが実質上の拡張となるとした事例があります(特許審判・昭和9年5月26日)。
「100℃以下」という要件は、例えば「常温で」であっても良いことになり、結局、全く加熱していない場合を含めることになるからです。
(c)特許請求の範囲中の「突出部の輪郭を…前後部の傾斜部とこれらの傾斜部間の適宜の平らな表面とにより構成し」のうちの「これらの傾斜部間の適宜の平らな表面」を、「場合によってはこれら傾斜部間の平らな表面」とすることは実質上の拡張となるとした事例があります(昭和53年(行ケ)第136号)。
特許出願人の側からは、「適宜」という言葉は適宜設ければ良いのであり、“平らな表面”は必須の構成ではないと主張するけれども、裁判においては採用されませんでした。
→実質的拡張のケーススタディ1
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