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 パテントに関する専門用語
  

 No:  1218   

使用者等CS1/特許出願/職務発明/進歩性

 
体系 特許申請及びこれに付随する手続
用語

使用者等のケーススタディ1

意味  使用者等とは、使用者、法人、国、地方公務員を言います。
 

内容 @使用者等の意義

(a)特許法は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、産業の発達に貢献するため(第1条)、産業上の利用可能な発明をした者が一定の条件の下で特許を受けることができるとしています(第29条第1項柱書)。一定の条件としては、新規性・進歩性などの実体的要件、及び、当該発明の保護を求める旨の意思表示を含む特許出願をすることなどの手続要件があります。

 発明者が特許を受ける権利(特許出願をする権利)の主体として規定されている理由は、創作の担い手である創作者を保護するのが発明奨励の趣旨に沿うからです。

 世界の特許制度の歴史の中では、外国の革新的な技術をいち早く自国に導入した者に特許を与えるシステムも存在していましたが(→輸入特許とは)、日本の特許制度にはそうしたシステムはありません。

(b)発明者に特許出願をする資格を認めるシステムは、特許制度の原理に適合するものでありますが、例えば企業に雇用される技術者が職務の一環として発明をした場合には、それに対して企業側に何ら手当をしないときには、不公平となります。企業も従業員に対する給料の支払いや設備の提供という形で発明完成に貢献しているからです。

(c)そこで特許法は、原則として、職務発明をした発明者である従業者等に特許を受ける権利を認める代わりに使用者等に当該発明について無償の通常実施権を付与し、さらに使用者等と従業者等との別段の定めにより、特許を受ける権利を使用者等が原始的に取得し、或いは特許を受ける権利の予約承継(特許出願の前後を問わない)や特許権の予約承継等を認めることにしました。

(d)“使用者等”及び“従業者等”との関係は上記の通りですが、実際問題としてその境は曖昧である場合があり、経営側にいると目される人物が会社の業務範囲で自ら発明をし、自己の名義で特許出願をしてしまうこともあります。そうした事例に関してケーススタディします。

A使用者等の事例の内容

[事件の表示]昭和42年(ワ)第6537号

[事件の種類]特許権侵害差止並びに損害賠償請求事件(請求棄却)

[判決の言い渡し日]昭和47年3月31日 

[発明の名称]耐圧ホース

[経緯]

(a)原告Kは、昭和三四年七月七日特許庁に対して「軟質合成樹脂合着耐圧ホースの製造法」なる名称の発明につき、特許出願(特願昭三四―二二一七六)をなし、この発明は昭和三六年七月四日特許出願公告(昭三六―九五九一)を経て昭和三七年五月二六日特許第二九九一八六号として原簿に登録されました。

(b)原告Cは、昭和四一年四月八日原告Kから本件特許権を譲り受ける契約を結び、同年五月一八日移転登録を経由して本件特許権を承継取得しました。

(c)被告Nは、原告Kが設立創始した会社であって、原告Kは同被告の株式全部を保有し、武本政市の別の通称を用い代表取締役としてその経営全般を主宰し、同被告の事業であるビニール合着耐圧ホースの製造に本件特許の方法を使用してきましたが、昭和三八年三月末頃、原告Kは持株全部を被告Nの債権者である被告Oに譲渡し、被告Nの取締役を辞任して退陣しました。

[原告の主張]

(a)Kの辞任までの被告Nは原告Kの個人会社ともいうべきもので、同被告による本件特許方法の使用その他原告K所有の工業所有権の実施は、法律上の権限に基づくものでなく、単に代表者である原告Kの指示による事実上の実施にすぎず、従って原告Kが退陣すれば同被告は本件特許権を実施できなくなる立場にあった。

(b)そこで被告N及び被告Oの懇請により、原告Kは退陣に際し被告Nが同年六月三〇日まで本件特許権を含む原告K所有の工業所有権の実施を従来通り継続することを承認し、被告らは右期日限りその実施を打切ることを約定し、その旨の覚書を取り交わした。

(c)仮りに被告Nが従来原告K所有の工業所有権につき通常実施権を有していたとしても、同被告は前記覚書によりその実施権を放棄したものである。

(d)しかるに、被告Nは前記約定に違反して、同年七月一日以降現在に至るまで、本件特許の特許請求の範囲に記載された要件をすべて具えている方法を用いて軟質合成樹脂合着耐圧ホースを製造したうえ右製品を販売し、また、被告Oは右の事情を知りながら被告Nに対し前記耐圧ホースの原料である合成樹脂を供給してその製造をなさしめると共に、自らも被告Nから製品を買い受けてこれを他に販売している。被告らの右各行為は、いずれも本件特許権を侵害するものであり、それにより原告らは次の損害を蒙った(中略)。

[被告の主張]

(a)被告Nは昭和三一年九月以降ビニールホースの製造販売を行なっていたが、その代表取締役であった原告Kはビニール合着耐圧ホースの生産を企画し、昭和三三年初め頃から従来知られていた製造方法の改良のため試験研究に着手し、当時被告Nの従業員であったT外五名の協力を得て本件特許の発明を完成したのであって、発明完成に至るまでの試験研究に要した資材、労力、設備、動力等はもとより、特許出願に要した諸費用も、すべて被告Nがこれを負担した。

(b)株式会社の代表取締役が会社の製品につき品質改良に留意し、生産設備の改善、販路の拡大等に努力を払うのは経営責任者として当然の責務に属する。本件特許は、被告Nの営業部門に属するビニールホースの製造に関連する製品の改良ないし生産方法の改善というべきものであって、この程度の考案をなすことは代表者の業務範囲又はこれに随伴する事項に属し、経営責任者の業務執行中に予定又は期待される事柄である。

(c)よって、原告Kが本件特許の権利者であるとしても、本件特許は典型的な職務発明であり、被告Nは本件特許権につき特許法第三五条第一項の法定実施権を有する。

[原告の反論]

(a)被告Nは原告Kが個人企業を株式会社組織としたうえ自ら代表者として経営を主宰していた会社であるから、その実体は同原告の個人企業と異ならない。

(b)本件発明を完成するため原告が被告Nの資材設備を利用したことは認めるが、自己の経営する事業の利益のため発明をなすにつきその資材設備を利用するのは当然である。

(c)特許法第三五条第一項の職務発明の制度は利害相反する使用者等と発明者たる従業者等との間の利益の調節を目的として設けられたものである。

(d)原告Kは被告Nと一心同体をなす関係にあり両者の間に利害の対立はなかったのであるから、同条項にいう従業者等に当らない。従って本件発明につき被告Nに法定実施権は生じない。

[裁判所の判断]

(a)以上の事実によれば、本件特許がその性質上被告Nの業務範囲に属する発明であることは明らかであり、かつ、原告Kは被告Nの代表者として経営方針の決定、新製品の開発、生産方法の改良等、会社の業務全般を執行する権限と職責を有していた者であるから、右発明をするに至った行為は被告Nにおける同原告の職務に属するものといわねばならない。

(b)そうすると、原告Kのなした本件特許にかかる発明は特許法第三五条第一項にいわゆる職務発明に該当し(本件特許は旧特許法下において特許出願され、現行特許法施行後登録されたものであり、特許法施行法第二四条により職務発明については現行法第三五条第一項の規定が適用される)、被告Nは本件特許権が成立した際同条項の規定による実施権を取得したものである。

(c)原告らは、特許法第三五条第一項は利害相反する使用者等と発明者たる従業者等との間の利益の調節を目的として設けられた規定であって、被告Nの実体は原告Kの個人企業と異ならず、両者の間に利害の対立はなかったのであるから、原告Kは同条項にいう従業者等に当らない旨主張する。

(d)しかしながら、いわゆる個人会社といえども、その代表者と会社とはそれぞれ法律上別個の人格者であり、法律上の利害の対立が両者の間にないとはいえず、ただ、代表者が会社の全実権を把握しているときは、右利害の対立が事実上表面に現われないのにすぎない。

 被告Nの実体が原告Kの個人企業と異ならなかったとしても、この事実は同原告が特許法第三五条第一項にいう法人の役員に該当しない理由とすることはできない。

 したがって、同原告の職務発明につき被告Nによる実施権の取得を否定すべき実質的な根拠はないので、原告らの右主張は採用できない。


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