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@差止請求権の意義
(a)特許権や実用新案権は、著作権のように、創作が完成した時点で無方式で発生することが発生する権利ではありません。
特許出願人・実用新案登録出願人が、書面により発明・考案の内容を開示し、保護を求める範囲を文章により特定し、それら特許出願・実用新案登録出願に対する実体的な要件(新規性・進歩性など)の審査を経て、それらの権利が付与されます。
特許出願人等の創作と無関係になされた第三者の創作にも効力が及び絶対的独占排他権であるために、厳格な手続の下で権利を発生させることにしているのです。
(b)特許権や実用新案権の権利内容として、侵害をするおそれのある者に対して侵害の予防を請求することが含まれます。しかしながら、前述のように特許権や実用新案権は強力な権利であるため、“侵害をするおそれ”の有無に関しては、慎重に解釈することが求められます。
(c)一般的に言われることは、“過去に侵害された事実があったことのみを持って侵害のおそれがあるとすることができない。”というものです。そうした事例を紹介します。
A差止請求権の事例の内容
[事件の表示]昭和48年(ワ)第3976号
[事件の種類]実用新案権侵害予防請求事件
[判決の言い渡し日]昭和50年 3月28日
[考案の名称] 線材の錆取り装置
[経緯]
(a)原告は、前記名称の考案について昭和四三年六月一一日に実用新案登録出願を行い、昭和四七年二月二一日に出願公告を受け(昭四七―四八九六号)、昭和四七年九月八日に設定の登録を受けた(第九七五四五七号)。
(b)実用新案登録請求の範囲は次の通りである。
「回転軸によって回転せられるワイヤブラシの摺擦周面を線材の進行方向に対し交叉する如く対接させ、かつこれが線材の進行方向に対して逆方向に回転するように設置したことを特徴とする線材の錆取装置」
(c)原告は、被告が実用新案権を侵害するおそれがあるとして、差止請求を求めた。
[侵害するおそれに関する当事者の主張]
原告の主張:被告が現在イ号装置を製造、販売しているわけではないが、昭和四九年六月行なわれた九州地区における被告製品の公開実験の場において、被告会社の説明者は近い将来再び逆回転の錆取り装置を製造する旨を述べており、将来再び被告がイ号装置を製造、販売して原告の本件専用実施権を侵害するおそれがある。
被告の主張:請求原因の事実のうち、イ号装置が原告の主張する構成要件を具備していること並びに訴外Xにおいて被告会社ほか八社が参加して見学会が催されたことは認めるが、被告会社の説明者が近い将来再び逆回転の錆取り装置を製造する旨述べたことおよび被告が将来再びイ号装置を製造、販売するおそれのあることを否認する。
[侵害するおそれに関する裁判官の判断]
原告はロ号装置をイ号装置に改造することは極めて容易であり、被告がかつてイ号装置を製造、販売していた事実並びにロ号装置をイ号装置に容易に改造し得るという事実から被告において将来またイ号装置を製造、販売するおそれが十分あると主張する。
被告においてかつてイ号装置を製造、販売していた事実は当事者間に争いのないところであるがこのことから直ちに被告がロ号装置を近くイ号装置に改造し、あるいは新規にイ号装置を製造、販売するおそれがあるとは断じ難く、またこれを肯認すべき証拠はなく、ロ号装置からイ号装置に改造が容易であることを考慮に入れても、右原告の主張は認めることができない。
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