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 パテントに関する専門用語
  

 No:  1339   

事業の準備CS1(先使用権)/特許出願

 
体系 権利内容
用語

事業の準備のケーススタディ1(先使用権に関して)

意味  事業の準備とは、発明の実施の事業とともに、先使用権の成立要件の一態様であって、即時実施の意図を有し、かつ、その即時実施の意図が客観的に認識される態様・程度において表明されていることを言います。



内容 @事業の準備の意義

(a)先使用権は、他人の特許出願前に当該出願の内容を知らないで自分の発明をした者又はその者から発明を知得した者が当該特許出願前から発明の実施である事業又はその準備をしていた場合には、その実施をしている発明及び事業の目的の範囲内で、当該他人の特許権に対して認められる法定通常実施権です(特許法第79条)。

 この権利は、特許侵害訴訟において被告側の特許権に対する抗弁権の主張として用いらます。

(b)こうした権利を認める理由は、第一に、特許出願の際に実施を通じて発明を事実占有していた者が当該特許出願に係る特許権により実施できなくなるとすれば公平に反すること(公平説)、第二に、他人の特許出願とは異なる知得ルートで知得した発明を実施する事業の設備(工場)が荒廃したり、その事業の準備が無に帰するのは産業政策的に得策ではないこと(経済説)です。

(c)もっとも“事業の準備”を根拠として先使用権が主張される場合には、未だ発明の実施は開始されていない訳ですから、“実施を通じて発明を事実上占有していた”状態にあるとは言い難い場合が多いと考えられ、前記経済説に基づいて先使用権を認める必要性が認められるかどうかがポイントとなります。

 従って、「実施の準備」とは、曖昧に実施の構想を頭の中で準備していたとか、先使用者自身も特許出願の準備をしていたという程度では足りず、即時に実施する意図が存在し、かつ当該意図が客観的に認められる態様・程度に表明されているという事実が他人による特許出願の時点で存在しなければならないと解釈されます。

 ここでは、発明の実施対象が個別注文の対象であるため、実施のための最終図面は作成されていないものの、当該図面を作成できる程度に注文主との話し合いが進められていた場合に「実施の準備」と認められた事例を紹介します。

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A事業の準備の事例の内容

[事件の表示] 昭和52年(ワ)第1615号 ・ 昭和56年(ワ)第2711号(控訴審)/昭和61年(オ)第454号(最高裁)

[事件の種類]先使用権確認等請求(本訴)、差止・損害賠償請求(反訴)事件

[発明の名称]ウォーキングビーム式加熱炉事件

[事件の経緯]

(a)本件は、原告が被告の特許権について先使用権を有すること、従って被告が当該特許権に基づいて損害賠償・差止請求を行う権利を有しないことの確認を求めた事件である。

(b)被告は、昭和四三年八月二六日に「動桁炉」と称する発明について特許出願を行い、特許権(第九九九九三一号)を取得した。

(c)他方、原告は、昭和四一年八月三一日付で訴外Fに対して加熱炉見積仕様書を提出しており、そのころ右見積書に記載もしくは添付された図面のとおりの加熱炉を発明したものと主張している。

(d)被告らは、被告中の役員、社員に命じて、本件特許の出頭公告後昭和五二年三月ごろまでの間、原告の製造、販売する工業炉の納入先である顧客に対し、口頭で、「原告が製造、販売しているウオーキングビーム式加熱炉(電動式)は、被告ミツドランドの特許出願中の権利を侵害するものであり、貴社が右製品を購入すると、将来非常に迷惑をこうむることになるから、注意してもらいたい。」旨を陳述、流布した。

[原告の主張]

 原告は、昭和四一年八月ごろ右事業またはその準備を開始し、訴外Fについては受注に至らなかつたけれども、その後本件特許出願の際まで右実施の事業を継続する意思と能力を有し続け、爾来今日に至るまで同一の加熱炉の引合を受け、見積、応札をなし、三件の受注に成功しているのであるから、原告の右実施の事業または準備は特許出願の際「現に」なされていたことが明らかである。

[被告の主張]

 仮に原告がその主張の日時にその主張どおりの見積仕様書を作成提出したとしても、原告の右見積仕様書は単なる設計図面にすぎないから、右事実をもつて原告が右見積仕様書記載の製品の発明を完成させたとはいえない。

[控訴裁判所の判断]

 認定の事実によれば、原告は富士製鉄に電動式ウオーキングビーム式加熱炉の見積仕様書等を提出したもののいまだ同社から注文を受けてなかつたため最終製作図は作成されていなかつたが、同社から注文を受け、広畑製鉄所との間で細部の打合せを行えば最終製作図面を製作可能な段階まで準備していたのであり、右事実に弁論の全趣旨および証人津田朋輝の証言によつて認められる、ウオーキングビーム式加熱炉は引合から受注、納品に至るまで相当の期間を要し、しかも大量生産製品ではなく個別的注文をえて始めて生産にとりかかるものであり、あらかじめ部品等を買い備えるものでないことを併せ考えれば、原告が富士製鉄から引合を受け前記認定のとおり準備した以上、単なる試作、試験もしくは研究の域を越えて、現実にその準備に着手したというべきである。

 してみると、原告の右行為は「事業の準備」に該るというべきである。

[最高裁判所の判断]

 特許法第七九条にいう発明の実施である「事業の準備」とは、特許出願に係る発明の内容を知らないでこれと同じ内容の発明をした者又はこの者から知得した者が、その発明につき、いまだ事業の実施の段階には至らないものの、即時実施の意図を有しており、かつ、その即時実施の意図が客観的に認識される態様、程度において表明されていることを意味すると解するのが相当である。(中略)

 ウオーキングビーム式加熱炉は、引合いから受注、納品に至るまで相当の期間を要し、しかも大量生産品ではなく個別的注文を得て初めて生産にとりかかるものであつて、予め部品等を買い備えるものではないことも、原審の適法に確定するところであり、かかる工業用加熱炉の特殊事情も併せ考えると、被上告会社はA製品に係る発明につき即時実施の意図を有していたというべきであり、かつ、その即時実施の意図は、訴外Fに対する見積仕様書等の提出という行為により客観的に認識されうる態様、程度において表明されていたものというべきである。したがつて、被上告会社は、本件特許発明の優先権主張日において、A製品に係る発明につき現に実施の事業の準備をしていたものと解するのが相当である。



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