内容 |
@事業の準備の意義
(a)先使用権は、特許侵害訴訟における被告側の防御手段であり、他人の特許出願前に当該出願の内容を知らないで自分の発明をした者又はその者から発明を知得した者が当該特許出願前から発明の実施である事業又はその準備をしていた場合には、その実施をしている発明及び事業の目的の範囲内でその特許出願に係る特許権に対して有する通常実施権です(特許法第79条)。
(b)こうした権利を認めることにより、特許出願とは異なるルートで知得された発明の実施の事業が荒廃したり、当該事業の準備が無に帰するなどという不利益を回避することができます。
(c)事業の準備の典型例は、実施のための工場を建設中であることです。発明の事業設備が使いなくなり、荒廃するのと同様に、産業活動上で明確な実害があるからです。
これに対して、事業に関する宣伝活動などは事業設備の形成に直接つながらないためにどのように解釈するべきか難しい面があります。ここでは意匠権に関する事案ですが、宣伝用パンプレットの頒布について争点となったケースを紹介します。
A事業の準備の事例の内容
[事件の表示] 昭和45年(ワ)第2463号
[事件の種類]意匠権侵害差止等請求事件
[意匠の名称]道路用境界ブロック
[事件の経緯]
被告発行の宣伝用パンフレットに、「駒止スコッチライト付」と名付けて、(イ)号物件に酷似した道路用境界ブロックの図面およびその寸法書の記載がある事実は認められるが、右の事実の他に右パンフレットに記載の「駒止スコッチライト付」コンクリートブロックを被告が現実に製造販売した事実も、その準備をした事実も、これを立証すべき証拠がなく、かえつて検証の結果によれば被告は(ハ)号物件のみを製造していると認められる。
[裁判所の判断]
一般に、宣伝用パンフレットには発行者の事業内容をやや誇大に記載して宣伝していることが稀ではなく、また宣伝用パンフレットには注文があれば適法に他から購入して販売する予定の物も、さも自己が製造しているかの如く記載していることも屡々みられるところであり、宣伝用パンフレットに記載があるからといつて、それだけで記載されている物件をすべてその発行者が製造しているとは断定し得ないから右パンフレットの記載のみをもつて、被告が(イ)号物件を現実に製造販売またはその準備をしていると認めることはできない。
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